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5月
いろんなお客様がいるみたいです
しおりを挟む「もっ、戻りました……!
「あ、乙成クンお帰り~。ってなぁに、走ってきたの?」
「すみ、ません、遅くなっちゃって……っ」
慌てて戻った店内には数名のお客さんがいるだけで、俺がいなくてもそこまで困っていた様子は見られなかった。よかったぁ。はぁはぁと、荒い呼吸を吐きながら、買ってきた荷物を克さんに手渡す。
「これ……、頼まれてた物です……っ」
「そんなに慌てなくても良かったのに~」
「少し遅いとは思ったけどな。何かあったのか?」
克さんからバケツリレーのように荷物を受け取った黒瀬が、中身を片付けながら心配したように声をかけてきた。
うっ、そ、それは、可愛い女の子との出会いに浮かれて半分サボっていたような感じになっておりました。不純な理由で心配させてしまって申し訳ない……。正直に言いづらくて、微妙に濁して真実を伝える。
「ふぅ……うん、ごめんね。実はちょっと、浅黄くんに会って」
「浅黄に?」
「そう、撮影だったみたい。商店街抜けたところでね」
「へぇ」
そして華恋ちゃんにも出会ったのだが、どちらかというと俺の中ではそちらの方がメインである。華恋ちゃんのまさに可憐な笑顔を思い出すと、つい今さっきまでサボってしまったと反省していたことを忘れて、頬が緩んでしまう。そしてそんな俺を冷たい視線で見ている黒瀬。
ひえ?! ご、ごめんって! ちゃんと反省してますから!!
思い出ににやけてしまう俺とクールな黒瀬で、会話の温度差が酷い。風邪引きそう。
「そんなに浅黄に会えて嬉しかったのかよ」
「え」
ん? なんで浅黄? って一瞬不思議に思ったけれど、それを濁して伝えていないから、浅黄と会えたのを喜んでるって思ったのか。
俺が喜んでいたのは華恋ちゃんとの出会いだ。とはいえ、元を考えれば浅黄がいなければ華恋ちゃんにも出会えなかったので、結果的に浅黄との出会いに感謝するべきなのだろうか。
「うーん、そうだね……?」
いや、待てよ。もしかしてこれは仲のいい友達を取られそうで嫉妬してるパターンか?! 昔、女の子が……って言っても幼稚園の頃とかそんなレベルだが、その時言っていたのを聞いたことがある。『それ私のおもちゃなんだから使っちゃダメー!』ってやつだ!
黒瀬と浅黄は、いつも喧嘩してばかりだと思っていたけど、実は喧嘩するほど仲が良いってやつだったのかな。自分を差し置いて浅黄と会ったことを自慢している(ように聞こえた)俺にヤキモチを焼いているんだな。全く自慢したつもりはなかったけど。
「……乙成は、浅黄のことをどう思ってるんだ」
んんん?
これ以上この話題を続けていいものかと考えあぐねていると、黒瀬から不思議な質問をされた。これはどう答えるのが正解なんだろうか。まさか、俺の出方を探っている……?!
「どうって、友達?」
逆にそれ以外に何があるというのだろう。
え、もしかして俺陰で悪口言われてたり? あいつなんて友達じゃねぇよ的な。さっきの浅黄の様子を見る限りはそんなことないとは思うんだけどなぁ。
「それだけか」
「え、あとは格好いいなぁ、とか」
どういう意図で聞かれて、どこまで筒抜けになる話なのか図りかねた俺は、ちょっとだけゴマを擦ってみる。
「……ふーん……」
はい、機嫌急降下しました。
あれれ? 失敗した??
黒瀬ってばどんな回答を期待してたんだよ!
「黒瀬くんも格好いいよ?」
難しすぎる男心が掴みきれず、とりあえずは黒瀬にもゴマを擦っておく。こてん。と音がしそうなほど首を傾げて、必殺技にてこの重い空気の払拭を試みるのだ。
きゃあっと女性の小さな叫び声がしたので店内を見ると、足をバタつかせながらテーブルに伏せた女の子が二人、新聞で顔を覆ったスーツ姿の男性が一人、コーヒーを持つ手が異様に震えているお姉さんが一人……。
「み、みんなどうかしたかな?」
「いや……あれは多分大丈夫だ」
「えっ! なんで分かるの!」
見ただけで判断が付くだなんてすごいな。でも俺はお姉さんのコーヒーが溢れてしまわないかが心配で目が離せない、アレはやばくないか?
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