乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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5月

チャンスは逃しちゃいけない

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「おーい、ryoちんいる?」
「あら壱成ちゃん、いきなり飛び出して何してたの……」

(女の人? いや、それにしては声が太い……)

 浅黄に呼ばれて振り向いたその人は、奇抜なファッションに身を包んだら女性とも男性とも言い難い、なんとも不思議なオーラを持った人だった。振り向くなりバッチリ俺と目があったその人は、あんぐりと口を大きく開けて固まったのち、ものすごい勢いで駆け寄ってきた。

「いやーーーんッ♡ だぁれこの子! 壱成ちゃんのオトモダチ?」

(ひ、ひぇぇぇぇえ!!!)

 今にも食べられそうな勢いで俺の顔や身体をぺたぺた触るこの人は一体誰なんだ?! 浅黄に助けを求めたいが、恐怖に固まり声が出ない。痴漢にあった時って喋れなくなるって言うけど、本当なんだな……。
 現実逃避をしつつ、謎の人物に揉みくちゃにされるのを耐えていると、その人の後ろから可憐な少女が顔を出した。

「えー? 壱成のお友達がいたの?」

 うわあああああ!! こ、この子は!!!

 三嶋華恋みしまかれんちゃんではないか!!!

 華恋ちゃんは例の『浅黄がペアで写真を撮っている女性モデル』であり、俺のどタイプの美少女なのだ。

「えーやだー、可愛い! 男の子なの?」
「そうみたい……でも、見てよ~このお肌ッ! ツルツル~~憎い~~♡」
「こんな細かったら華恋の服も着れちゃいそうじゃーん」

 はわわわ、女の子可愛い。
 可愛い女の子が目の前でガールズトークしている。
 決してその内容が男の俺としては受け入れられない内容だったとしても、女の子(と若干名未知の人物含む)のいい香りに包まれながら肌と肌を触れ合えている俺はもうこのまま死んだって良い……――

「はーーーい、ストップ! 優ちゃんお触り厳禁だから」

 浅黄さんよ。そう言いながら後ろから抱きついてくるお前は何なのだ。背後からファンの悲鳴が聞こえるぞ……。
 確かに俺はさっき、死んだっていいとは思ったが、本当に闇討ちにでも遭ったらどうしてくれるんだ。俺は可愛い女の子の匂いに包まれて天国へ行きたいだけなんだ。

「壱成ちゃんったら、こんな可愛い子どこで引っ掛けてきたのよぉ♡」
「ふふ~ん。この子が前に話した俺激推しの同級生でっす!」
「あー! もしかしてN誌の企画の時に話してた子?」
「なるほどねぇ~アリだわ……」

(N誌? 企画……?)

「浅黄くん、僕の話をした事あるの……?」

 なんだか嫌な予感がして、恐る恐る問いかける。

「そうそう♡ 前に撮影行こうよって話したでしょ? 見学だけだと味気ないよなぁって思ってたら良い企画の話が出た時に、そのモデルに優ちゃんを推薦したんだよねー」
「ええっ 僕モデルなんてしたことないよ?!」

 寝耳に水とはまさにこの事だ。
 このチャラ赤髪は何勝手なことをしてくれちゃってるんでしょうかね?!

「大丈夫大丈夫~! 一応メインは俺だし、優ちゃんは写るとしても口元くらいの予定だから♡」

 一体なにが大丈夫だというのだろう。メインがどうこうという話なのではなく、ただ単純に俺が撮影に挑むということが無理だと言っているんだぞ。

「ちなみに華恋も一緒に撮影だよー♡ 仲良くしてね」
「僕、やりたいです」
「あらッ? 急にやる気になったわねぇ」

 そう笑うryoさんに少し恥ずかしくなり赤面してしまう。あからさま過ぎただろうか? だって華恋ちゃんとお近づきになれるチャンスなんて滅多にないのだから、これを利用する手はないだろう。もちろんいきなり恋人だなんてハードルの高いことは言わないから、あわよくばお友達になりたい。腐女神じゃない可愛い女の子と仲良くなりたいのだ。

「話を聞いた時はまるっきり素人の子は難しいって思ってたけど、この子なら逆に顔を出さないのも勿体無いくらいねぇ。企画練り直しが必要かしら……」
「ryoちんはこう見えて凄腕スタイリストなんだよー」
「俺のこともよく撮ってくれる気のいいオネェのカメラマンね」
「よろしくねン♡」

 パチリとウィンクを投げてくる。おぉ、こんな自然にウィンクする人なんて、今までいなかったな。オネェってことは、やっぱり男性なのか。モデル業界っていろんな人がいるんだなー。

「ねぇねぇ。お友達くん、お買い物の途中だったんじゃないの? 荷物いっぱいだけどー」

 天使の一声でにわかに現実へと引き戻される。
 まずいぞ、買い出しの途中に随分寄り道をしてしまった。

「そうだった! ごめん浅黄くん、僕バイト中だからもう戻らなきゃ……」
「あーそうだよね、引き留めちゃってごめんね?」
「大丈夫ッそれじゃあね。皆さんも、失礼します!」

 またねー、と三者三様の声に背中を押されながら興味津々な目で見てくるファンの子達を無心で潜り抜け、残りの買い物を急いで済ませた俺は店まで全速力で帰るのだった。



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