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4月
ちょっと苦手な先輩
しおりを挟む翌日おかげさまで寝不足の俺は、すっかり寝坊をしてしまい慌てて学校へ向かっている。
(うー、これも全部! 黒瀬くんのせいだ!)
全ての元凶に一発蹴りでも入れてやりたいが、筋肉ダルマに効果はないだろう。そもそもどんな顔をして会えばいいかも分からないから、しばらく距離を置きたい。
と言ってもすぐバイトがあるんだけどな……。
一体どうするべきかと悩みながらも学校へと急ぐ。考えれば考えるほど、昨日の出来事がまざまざと思い出されるようで、居た堪れない気持ちになった。
(よかった、ギリギリ間に合いそう……!)
校門まであと少し。
どうやら予鈴がなる前に、ギリギリ滑り込むことが出来そうな時間だ。そうホッとして駆け足を緩めていくと、なんと間の悪いことに生徒会の遅刻指導がある日のようだった。
「おや、乙成さん。珍しい」
「緑川先輩! ま、まだ間に合ってますよね?」
「そうですねぇ……かなりギリギリですが、セーフということで」
(よ、よかったぁー)
緑川先輩は現生徒会長を務める優しげなお兄さん、という風貌のこれまた我が校が誇るイケメンである。
試験の成績も常に上位をキープしており、品行方正。生徒会選挙では断トツの支持率で、なんと一年の時から生徒会長を務めているという強者なのだ。中高一貫で、そのまま持ち上がりの生徒が多いというのも、大きな要因であるとは思うけれど。
そんな先輩がゆったりとウェーブした前髪を揺らして、小首を傾げながらしげしげと俺の顔を眺めている。
「あの、先輩? どうかしましたか……?」
「うーん。なんというか、今日は随分と扇情的なお顔ですねぇ?」
「せ……っ!」
思わぬ言葉に固まると、一歩二歩と間を詰めてより近くで覗き込まれる。
「今までは何も知らない無垢な清純さがあって、それが逆に自分の手で汚してしまいたくなる気持ちにさせられたものですが」
(何を言っているんだこの人は……)
完全にヤバい奴の発言である。
「それが今は、甘い蜜の味を知ってしまった後のような……危うい色香を出し始めてるんですよねぇ。もしかして乙成さん、"男" 覚えちゃいました?」
「何言ってるんですか! あ、朝からやめてくださいっ」
(て、的確すぎて本当に怖い……!)
「うーん、その反応も。前までの貴方だったら、もっと突拍子もない返しがきて然るべきなんですよねぇ。怪しいなぁ」
にやにやと、まるで獲物を捕らえる前の蛇のように、少しずつ少しずつ俺の退路を奪っていく。
このままではまずい。確実に墓穴を掘ってしまう……!
「そんなこと……先輩の勘違い、です」
緑川先輩の目を見ることが出来ず、ふいと斜め下を見ながら告げる。もうこれは正解だと言っているようなものではないだろうか、と自覚していても他に何と言ったらいいのか全く思い浮かばなかったのだから仕方がない。
すると、息がかかるほどに近づいて覗き込んでいた先輩が、ようやく身体を起こしてくれる。
離れたことで見ることのできたその顔は、なんだか嬉しそうでどことなく楽しそうな表情を浮かべていた。格好いい顔のはずなんだけど、正直俺にとっては不気味で仕方ない。
「ふふっ、なるほどねぇ? まぁいいんですよ。そうであれば、それなりに攻める方法があるのでね。さぁ乙成さん、急いで教室に行かないと本当に遅刻してしまいますよ」
「は、はい! 失礼しますっ」
よく分からないが、追撃の手が弱まったのであれば言う通りにするしかない。全てを見透かすような先輩の視線にゾッとしながら、足早に校舎へ向かうのだった。
「ふーん、なかなか面白いことになりそうじゃないですか……?」
もしもその時振り返って、逃げるように去る背中を心底愉快そうに眺める先輩の目を直接見ていたとしたら、俺は恐怖のあまりそのまま家に直行していたかもしれない……。
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