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4月
side 赤塚-2
しおりを挟む本能で、この人に従いたいと思った俺は、尊敬していた兄貴分にしかしたことのない、気持ちを込めた全身全霊の礼をする。
「俺、赤塚宗太郎って言います。先輩は乙成さんであってますか?」
「え! なんで知ってるの?」
知らない奴など居ないだろうと思ったが、この先輩は恐らく本気でこの発言をしている筈だ。少しのやり取りの中で、俺はすでに周りが過保護までに守りまくっているのだろうと当たりをつけていた。こうして話している間も、ビシビシ警戒した視線を感じるしな。
「学年章見て二年だっていうのは分かったんで、あとは多分そうかなって。先輩、人気者で有名ですもん。多分ほとんどの生徒が知ってるんじゃないですかね」
当たり障りのないことだけを伝えて誤魔化してみると、へぇ~すごいねぇ~なんて言って感心している。マジで可愛い。そこから教室に辿り着くまでの間、とにかく俺はこの先輩との縁を切らしてはいけないと必死になって会話を繋ぐ。この時間が永遠に続けば良いのにと思っていた俺は、遂に教室近くまで来てしまったと先輩に告げられた時には、思わず舌打ちが出そうになったほどだ。
「わーまじでありがとうございました! 迷った時は終わった……って思ってましたけど、そのおかげでこうして先輩と話せたんで、初めて方向音痴で良かったって思いましたっ」
「ふふっ、大げさだなぁ」
くすくすと笑っている先輩。全然大げさじゃないですから。多分友達に話したら、血の涙流して羨ましがりますから。
「今度お礼に行くんで! 俺のこと忘れないでくださいね」
「もちろん、忘れないよ。でもお礼なんていいからね」
「絶対行きます! 絶対に! あと、先輩めっちゃ可愛いです!」
「あはは、意味分からないけどありがとう~」
さらりと本音を織り交ぜながら、全力で手を振って見送ると、控えめにその手を振り返してくれた先輩は、優雅に去って行った。
「まじでやばい……。女神見つけたわ……」
◇◇◇
せっかく掴んだ先輩との縁。その微かな繋がりを切ってしまわない様に、俺はその日の放課後になると速攻で二年の教室まで走った。迷わない様に、道ゆく人に都度確認を取りながら、猛スピードで駆け抜ける。会いに行く口実にするため、途中にあった購買でお菓子を全種類買い占めて、先輩のいるはずの教室へとなんとか辿り着く。
(先輩は……良かった! まだ居る!)
教室の中でぽつんと座っている姿を見つけてホッとする。先に帰ってたら終わりだったし、よかった~。てかただ座ってるだけで絵になるってどういうこと? 物憂げな感じがまじで芸術品。そんな事を考えていると、いつの間にか周りを先輩のクラスメイトたちに囲まれていた。
「君だれ? 一年だよね」
「なんで一年が、こんな所にいるの?」
「い、いや、俺はちょっと乙成先輩に用があって……」
「乙姫様に? なんの用?」
「待って、この子、今日の移動教室で乙姫様と一緒に歩いてた子じゃない?」
「え、もしかして追っかけとか?」
「いや、だから追っかけとかじゃなくて。俺本当に……」
な、なんなんだこの鉄壁のガードは!?
一切前に進むことが出来ず、根掘り葉掘りと聞いてくるその不躾さに苛ついてきた俺は、思わず近くにいた奴に掴みかかりそうになる。でも、クラスメイトを殴ったりしたら先輩が怖がるよなぁと思い立ち、手を止める。そのまま先輩の方に視線をやると、なんと目があったではないか!
「あ! 先輩、助けてください~」
(このままじゃコイツら殴り殺しちゃいますよ~!!)
そんな焦りを抱えながら先輩を呼ぶと、少し冷たい目をした先輩が近付いてきた。
「……ずいぶん楽しそうだね? 何してるの?」
そう言って先輩が近付いてくると、うざいまでに群がっていた人たちが捌け、俺の先輩だけがその場へ残る。すげぇ。女王様って感じの先輩、これもこれでアリかもしれない。性癖が歪みそうになりながらも、先輩に嫌われては堪らないと、言い訳? をしつつ買ってきたお菓子を手渡す。
「えっと、とりあえずなんで、すぐ買えるものですみません。今度是非ちゃんとしたもの奢らせてください!」
「わぁ~すごい量だね。本当に気にしなくて良かったのに」
「いえ! せっかくのチャンスなんで絶対に逃さないです!」
遠慮なんてしてられないと、鼻息荒くスケジュールを調整を試みる。さすがの俺の勢いに戸惑っているようだが、嫌がることなく空いている日を教えてくれる先輩にホッと胸をなでおろす。予定を確認する先輩を間近で眺めて、その触れそうな距離から香るいい匂いを堪能していると、背後から殺気立つ威圧的なオーラを感じた。
(なんだ……!?)
平和な学園生活では久しく感じなかった、肌にびりびりとくる空気。バッと振り返って、後ろに立つ人物を見ると、そこにいたのは憧れの兄貴分にどことなく雰囲気が似た男だった。
「乙成、ちょうど良かった。悪いけど、少しだけいいか?」
「黒瀬くん。どうかした?」
(黒瀬……この人は黒瀬っていうのか……)
姿形だけでなく、声色まで似ているなんて、そんなことあるんだろうか。先ほど感じた殺気は明らかに喧嘩慣れをしている奴のそれで。久しぶりに出会った強そうな相手に無性にわくわくする心が抑えられなかった。
鋭い目をしながらも、話の途中で邪魔をしたという自覚はあるのか、少し申し訳なさそうに俺を見る黒瀬さん。ちょっくら殴り合いしませんか? と誘いそうになってから、今のキャラ設定を思い出して踏みとどまる。先輩も不思議そうな顔しちゃってるし!
「あっ、俺のことは気にしないでください……!」
「え? あ、うん、ごめんね」
「全然っ! 大丈夫っす、約束楽しみにしてます!」
「ふふ、僕も。またね」
なんとなく黒瀬さんの邪魔はしたくなくて、挨拶をしてその場を去る。次の約束は取り付けたし、問題はないだろう。それまでにどうやってあの綺麗な人を手に入れるか、作戦立てないとな。
絶対、逃がさないですからね。先輩♡
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