乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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4月

side 赤塚-1

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 ――中学時代の二つ名は、赤の狂犬。

 死ぬほどダサいその呼び名と、ただ喧嘩に明け暮れるだけの日々はもう飽きた。受験のために必死こいて勉強して、自分のことを知ってる奴が絶対居ないだろう地域の進学校に入学した。金髪に染め上げていた髪も、地毛の黒髪に戻して。いつも眉間にシワを寄せ、周りの奴らを睨みつけていた顔には、人好きのしそうな笑顔を貼り付けながら高校生活をスタートした。
 初めて出来たヤンキーじゃない友人は、つまらないかと思いきや、新しい発見があってなかなかに面白い。普通に授業を受けて、普通に昼飯食って、普通に放課後遊んで、遊んで、そして帰る。そんな日常が楽しいな、と思えていた。

「あー、アレじゃね? 二年の乙姫様」
「オトヒメ?」

 移動教室に向かう途中、少し先の廊下を二人の生徒が歩いているのが見えた。離れていても存在感を感じるのは、その二人の周りに不自然なくらい他の生徒の姿が見えないからなのか。少し離れたところから、みんながチラチラと様子を窺うようにその姿を眺めていた。

「……なんだあれ」
「宗太郎知らないのかよ? 二年の超絶美人な先輩! 乙成さんって名前らしいんだけど、そこから文字って陰では乙姫様って言われてるんだってさ。いつもボディーガードみたいにあのイケメンの先輩が付いてるし、あの人がいなくても他のクラスメイトがガチガチに囲ってるらしいぜ」
「ふぅん……」

 たしかに遠目に見ても、非常に綺麗な顔をしているのが分かる。隣にいる男も、なかなか整った顔をしているし、どういう関係か知らないがいわゆる学園のアイドルってやつか。大して興味も生まれずに、適当な返事をかえす。

 地元には喧嘩で俺に敵うものは、もういない。周りに集まってくるのは、それでも勝負を吹っかけてくる馬鹿か、へらへらと媚を売る阿呆しか居なかった。力でどうしようも出来ないと分かったら、女も男も身体を使って籠絡しようとしてくる始末だ。初めのうちはそれらも美味しくいただいてしまっていたのだが、だんだんと俺の権力だけを目当てに群がってくる奴らに嫌悪感が増して、卒業前には一切手を出さないようになっていた。

(綺麗な顔してても、その下でどんなこと考えているか分かんねぇからな)

 興奮する友人たちをなだめつつ、お綺麗な顔を横目で眺めて内心毒づく。
 ――勝手なものだが、それが俺の先輩に対する第一印象だった。

 先輩に対するイメージが変わったのは、それから少しだけ経ったある日のこと。同じく移動教室に向かっていた際、忘れ物をした事に気付いて一人で取りに戻ったのがまずかった。流石にそろそろ行き方を覚えているはずだ、と過信していたら、最終的に自分がどこに居るのかさえ分からなくなってしまい、途方に暮れる。

(いやいや、校内で迷子とか……まじかよ……)

 どうしたものかとウロウロしていると、ふと離れたところから視線を感じる事に気付いた。

(アレは……乙姫様!)
「あ、あの! すみません!」

 一方的に知っている人間に出会えたことにホッとして、思わず駆け寄ってしまってから、ふと冷静になる。俺は相手のことを知ってるけど、この人は知ってる訳ないよな。しかもいつも守られている学園のアイドルが知らない奴にいきなり話しかけられたら、「お前何様?」とか言ってめちゃくちゃ罵倒されるかも。
 過去の自分だったらそうしただろうなという想像の元、もしそんな態度取られたらキレて殴りかかってしまうかも知れない、そしたら俺の平和な高校生活は終わりだ、と人知れず真っ青になる。 しかしそんな心配は現実になることなく、下から見上げてくるその人は、美しい顔に微笑みをたたえながら、優しく問いかけてくれた。

「どうかしたんですか?」

(やっば! 近くで見るとマジで美人……ちっせぇ……可愛い……)

 語彙力が欠如したかの様に貧相な感想しか出て来なかったが、至近距離で発揮される乙姫様の魅力にたじたじになりながら、恥を忍んで迷ってしまった事実を伝えてみる。まさか校内で、と思ったのだろうか。変な嘘ついてナンパしているとか思われないと良いんだけど。少しキョトンとした顔をした乙姫様は、俺の胸元に付いている学生章を見た後、恥ずかしさに震える手が持っていた書類を眺めて、俺の目指すべき教室を確認した。
 うつむく時にさらりと流れた髪を掻きあげる。そんな何気ない仕草一つに見惚れてしまう。まるで女神の様な微笑みを間近で受けて、俺の心臓はばくばくと煩いくらい高鳴っていた。

「B棟だね。ちょうど良かった、僕も次はそっちの方で授業があるから途中まで一緒に行こうよ」

 まさかの乙姫様からのお慈悲!
 一緒に行ってくれるとか、めちゃくちゃ良い人じゃねぇかよ、この人!

「本当ですか! すみません、助かります……俺ほんっとうに方向音痴で。何回か行くと覚えるんですけど、途中で忘れ物を取りに戻ったらよく分からなくなってしまいました……」

 喜びのあまり余計なことまで言ってしまった感が否めないが、それを聞いて姫が笑ってくれたから、もうどうでも良いです。笑顔可愛すぎる……。更には「うちの学校、似たような建物ばっかりだから分かりにくいよね」なんてフォローまで入れてくれて。ヤバくない? 見た目が綺麗で可愛い上に、心まで綺麗で優しいとか、国宝級の天然記念物なんじゃないの?!



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