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4月
泣きたいのはこっちなんですけど! ※黒瀬
しおりを挟むくうっ、しかし流れるような一連の動き……これは参考にせざるを得ないぞ。さすがイケメン、慣れている。めちゃくちゃ勉強にはなるんだけど、別に俺自身にしてくれなくてもいいんだからね?! 一応俺だってファーストキスに夢見てたりしたんだからね?!
力では敵わないと分かってしまったので、せめてもの抵抗をと、怒りを込めた鋭い視線で睨み付けてみる。
「黒瀬くん、ひどい。こんないきなり、僕初めてだったのに……っ」
おっと、ついつい最後は恨みがましい気持ちが漏れ出てしまった。本当に出来ることなら全てをリセットしてしまいたい気分だ。ゲームを元に作られた世界なんだから、そういう救済措置も用意してくれていたらよかったのに。
俺の恨み節を聞いて息を飲んだ黒瀬は、そのまま大きな溜息とともに下を向く。
ヘッ! 今更ことの重大さに気づいたか? 後悔したところで、しばらく許してなんかやらねぇからな!
「…………お前、馬鹿なの?」
「っば……! んぅ………っ」
馬鹿とはなんだ! と叫ぶはずだった俺の言葉は、再び黒瀬の口の中に吸い込まれていった。
しかもこれは、いわゆるディープキスというやつなのではないか?
「……ぁ……、やっ……!」
「……そんなこと言われて、止められる訳ないだろ」
「な、ん……っ! ……ぁん……ぅ」
深く深く、肉厚な舌を口の中に差し込まれる。
ぐちゅぐちゅといやらしい水音が静かな夜道に響いて、さらに羞恥心を煽ってきた。
(やだ! やだ! なんで……っ!)
逃げるように舌を動かしても、それを探り当てるように的確に絡めとってくる。離れたいのに離れられない。きつく抱き締められた身体は小刻みに震え、気付けば足の隙間に黒瀬の片足が捻じ込まれていた。
ぞろり、と上顎を撫でられた瞬間、踏ん張っていた足の力が抜けカクンと腰が落ちる。
「っ……ゃ、ん………!」
「……っ。ふう……」
俺の身体が下へとずり落ちてしまったが為に、足の狭間に差し込められた黒瀬の足と俺の大事な所が擦れてしまった。
「ぅ、ぁ………っふ………っ」
(や、ばい………僕、勃って…………)
擦れたことにより強く感じた今までにない快感と、どうすればいいのか分からない不安に押し潰されそうになり、それ以上動くことが出来ずに固まってしまう。
すると、黒瀬が深く深く息をついた後、押さえ込んでいた身体の力を抜いて、俺の脇に手を差し込んで立たせてくれた。
(いや。くれたっていうか、全部黒瀬くんのせいなんだけど……!)
目まぐるしく変わる状況に付いていけず、俺は呼吸を荒げながら混乱をしていた。盛大にハテナを飛ばす俺に、おもむろに黒瀬の手が伸ばされ、頬へと触れた瞬間。ぼうっとしていた意識を突然引き戻されて、思っていた以上に身体がびくりと震えてしまう。
(びっ、くりした! 突然触るから……!)
「……すまん。こんなこと、するつもりじゃなかったんだが」
「……!」
その一言に、俺の怒りが頂点に達した。
こんなこと? するつもりじゃなかった?!
じゃあ何か。
俺は黒瀬の気まぐれによる戯れで、大事な大事なファーストキスを奪われたって訳か? 別に女の子じゃないんだから、今日のことは犬に噛まれたと思って忘れてやってもいいが、その一言はいただけない。
悔しくて涙が出そうだが、それだけは男のプライドが許さないと、なんとか踏ん張って耐える。すると、何かの痛みに耐えるような顔をした黒瀬が、ふいに目を逸らす。いやいや、なんでお前がそんな顔してるわけ? 被害者、俺だからな。そこ間違えんなよなっ!
「帰ろう。家、もうすぐだろ?」
「ひ……ひとぃで……」
おいおい。ぢゅうぢゅうと吸われ続けた弊害で、舌が痺れて喋れないんですけど? って、なにあちゃー、みたいな感じに顔覆ってるんですか。お前のせいだぞ、お前の。
「……そんな顔したお前を一人で歩かせたら、変なやつに拐われる。足もふらつくんだろ? 家まで送らせてくれ」
「…………」
足がガクガクするのは事実だったので、仕方なく黒瀬の言う通りにしたが、俺は許してないんだからな。お前なんて杖代わりだ。
おい、どさくさに紛れて身体を撫でるんじゃない!!!
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