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4月
奪われちゃいました
しおりを挟む克さんの作ってくれたオムライスを食べ、店を出る頃には辺りは真っ暗になっていた。そうして……俺は今、いくら一人で平気だと言っても、心配だから送ると意見を曲げない黒瀬に、半ば折れる形で二人並んで家へと向かっている。
「初日なのに遅くまで悪かったな。疲れたか?」
「全然大丈夫! 克さんのオムライスも美味しかったし、仕事も覚えることはいっぱいだけど楽しかったよ」
「そうか、よかった」
「うん。黒瀬くんの普段と違う一面も見れた気がするし……ふふっ」
バイト中を振り返るように思い返していると、どうしても黒瀬と克さんの小競り合いが出てきて、笑いが込み上げてしまう。
「……何笑ってるんだ」
「だって。克さんと一緒にいると、黒瀬くんなんだか小さな子どもになっちゃったみたいで。可愛かったなぁって」
「っ、可愛いって……おい、こら逃げるな」
「あははっ、やだよ~絶対怒るでしょ?」
黒瀬の魔の手が伸びる前に逃げるのだ。
小走りで先へ先へと進む俺を、慌てて黒瀬が追いかける。この間花瑛ちゃんと遊んで童心に帰ったからだろうか、なんだか追いかけっこが楽しくなってきたぞ。
「そんなことで怒んねぇよ。ほら危ない……っ」
「……っあ……!」
調子に乗って黒瀬の手を避けながら走っていると、思った以上に疲れていた足が縺れて転びそうになる。そんな俺を抱き留めるようにして黒瀬が支えてくれた。
「……び、びっくりしたぁ。黒瀬くんありがとう」
危なかった……
あのまま転んでいたら確実に顔面強打してただろう。
ドキドキしている心臓が落ち着くのを待っていると、俺を抱える黒瀬が微動だにしないことに気づく。
「…………」
「黒瀬くん? わ!」
声をかけると、くるりと身体を反転させられて、黒瀬に向かい合う形で腰を支えられる。
「……軽いな、ちゃんと食べてるのか?」
「え? ああ、僕なかなか筋肉が付かなくて……黒瀬くんはすごいね。バイト中も思ってたんだけど、どうやったらこんなにがっしりした筋肉が付くの?」
「っ………!」
思わず目の前にある黒瀬の胸筋に手を添えた。
おお~見てるだけとはまた違って、ずっしりとした肉感を感じる……。しかもコイツも腹筋割れてやがるな? くそ、浅黄といい、どうしてイケメンはこうも腹筋がバキバキなのか。おっ動いた!? すごいな……。
恨めしい。という気持ちを込めてさわさわと腹筋を触っていると、おもむろに手を掴まれた。
「……なぁ、それ誘ってる? 違ったとしても悪いのはお前だぞ」
「え?」
ふと黒瀬を見上げると、目の前が暗くなる。と、同時に唇に何か柔らかいものが触れた……――
(え、なに、これ………)
突然のことに思考が止まる。
今この俺の口に吸い付いているのはなんだ?
柔らかくて、温かくて、少し湿ってて。
もしかしてだけど。
もしかしてだけど。
こ、これって……………
(き、キスーーーーー?!)
その事実に気付いた俺は、反射的に身体を逸らそうとする。しかしそんな仕草に気付いた黒瀬の方が一瞬ばかり早かった。顎は動かないように固定されるわ、もがく身体を横にあった塀に押し付けるような形で固定されるわで、思ったように動けなくなってしまう。
(な、なんで! なんでこんなことに!!)
目を白黒させて混乱の極みにいる俺は、他に縋る物もなく、とにかく目の前にいる黒瀬の肩口を必死で握りしめる。
「……ふ」
そんな俺の姿を見て、思わずといった感じで黒瀬が吐息で笑った。その音を聞いて一気に羞恥が駆け上がり、カァッと顔が熱くなってしまう。
(な、な、な、なに笑ってるんだ……!)
こちとら前の人生と合わせたところで初キスなのだ。驚いて、混乱して、なにが悪い。しかも男に奪われる予定なんぞこれっぽっちも無かったのだから、仕方がないだろう!?(泣)黒瀬が笑ったことで唇が離れた隙に、目の前の身体を全力で押して距離をとろうと試みる。畜生、隠れ筋肉だるまめ……全然動かないじゃねーか!!!
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