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4月

アルバイト、始まりました!

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 ――……約束の日。
 そう、今日は俺のバイト初出勤日なのである!

「悪かったな乙成。こんなにすぐ来てもらうことになって」
「ううん! 僕も早くバイト始めてみたかったし、全然大丈夫だよ」
「そう言ってくれると助かる」

(わ。また笑った)

 最近、二人きりで話している時には、黒瀬がよく笑うようになった……気がする。なんでこいつはいつも仏頂面なんだろうな? 学校で見かける時は、たいてい一人でむすっとしてばかりだ。こんな風に笑顔を見せたら、すぐに友達だって出来るだろうに。せっかくのイケメンが勿体ないぜ。黒瀬の隣を歩きながら、そんなことを考えているうちに、どうやら目的の場所に着いたらしい。

「着いた。店、ここな」
「……わぁ~!」
「昼間は喫茶店だけど、夜にはバーの営業もしてる。乙成は休日の昼と、学校終わりにバー営業が始まるまでの時間だけ、手伝ってくれたら大丈夫だから」

 少し古びた外装だが、それが逆に洒落て見えるようなレトロな雰囲気の漂うお店だった。

 ーーカランッカラン……

 扉を開けるとベルの音が鳴り響き、広すぎず、落ち着いた店内の様子が窺える。真ん中にテーブル席が数席用意されているが、奥にはカウンター席もあり、満員となれば結構な人数が入るだろう。夜の営業に合わせてなのか、カウンターには様々な種類のお酒がずらりと並んでいる。
 初めて入る店に興味津々でキョロキョロと見渡していると、カウンターの奥から一人の男性が出てきた。

「いらっしゃ……おー! 湊、その子が言ってたバイトくんか?」
「そう。乙成、この人が俺の叔父さんな。一応ここのオーナー」

 叔父と紹介された人物に視線を向けると、「黒瀬が歳をとったらこんな感じになるんだろうな」と想像した姿がそのまま出てきたようなイケオジが立っていた。イケオジと言っても、事前に叔父さんと聞いていなければ、少し歳の離れた兄だと勘違いしてもおかしくないくらい若々しい。顎ひげがワイルドさをマシマシにしているのだが、決定的に黒瀬と違うと感じる部分は、その表情と態度だろう。
 無愛想、仏頂面の黒瀬とは異なり、かなり表情豊かでフレンドリーな人らしい。朗らかに笑いながらカウンターから出てきてその人は、ずんずんと距離を詰めて、今は俺の目の前に立っていた。

「おいおい、一応ってお前なぁ。黒瀬克春かつはるだ。よろしくな、乙成クン」
「はっ初めまして! 乙成優太です。精一杯頑張ります!」
「ハハッそんな肩肘張らなくって大丈夫大丈夫! 俺のことは克さんって呼んでくれよな」

(い、痛い……)

 バシバシと肩を叩かれ、身が竦む。悪気はないのだろうが、少し手加減をして欲しいものだ。乙成くんは繊細なんです。涙目になりながら苦笑いをしていると、見かねた黒瀬が叔父さんの手を掴み止めてくれた。ありがとうよ、黒瀬君。

「それにしても、はぁ~。なるほどなぁ?」
「なんだよ」
「いやぁね? 可愛い甥っ子がいきなりバイトを連れて来るなんて言うもんだから一体どうしたと思っていたらこういう事ね~? 随分と可愛い子じゃねぇか」
「余計な事言ってんなよ。俺とあんただけじゃ、明らかに回ってなかっただろ。いい加減俺も疲れた」

 そのまま始まった叔父甥トークだが、要はアレか? 俺がヒョロくて心配しているのか? 黒瀬の話じゃ心配ないということだったが、やはり実物を見て気が変わってしまったのだろうか。

(せっかく来たんだし、お小遣いのためにもここで働きたい。接客続けたらコミュ力上がるかもしれないし……)

「あの、僕……っ」
「おっさんの事は気にしなくていいから。店の中のこと説明するな」
「う、うん……」

 気にするなと言っても、オーナーの許可なしにバイトは出来ないだろう。本当にいいのかな、と克さんの方を見れば、にっこりと笑って頷いていた。

「おー頼むなぁ、乙成クン。人が足りないのは本当なんだ。来てくれて助かる」
「はい、頑張ります……っ!」

 とにかく克さんに使えないと思われないように、しっかり頑張らねば! より一層気合いを入れる俺を、少し心配そうにした黒瀬と、面白い物を見るような目をした克さんが見守っているのだった。




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