30 / 162
4月
side 浅黄-3
しおりを挟むふざけた俺に仕返しをしようとでもしたんだろうか。慌てふためく姿に優ちゃんは笑っているのかもしれない。
恐る恐るその表情を確かめようと動きを完全に止めたその人の方を見ると、顔を真っ赤にして目を泳がせる姿が視界に飛び込んできた。
「僕、こういうことする相手って今までいたことなかったから、その、初めてで……」
は? なにそれ、どういうことだ?
ちょっと待て。冷静になるんだ俺。
優ちゃんの言う「こういうこと」ってなんだ?なんで彼はこんなに顔を赤らめて恥ずかしがっているんだ?
次第に瞳まで潤んできたその姿を見て、俺は一つの結論を導き出した。
(まさか……まさかだけど、優ちゃんここでスケベなことしようとしてた……?)
友達で相互オナニー、なんてどこかのBL漫画の中でもあるまいし……何より俺は男は対象外だ。優ちゃんは他の女の子が霞むくらいに美人だからちょっかいはかけていたけど、本気で好きになったわけではない! ……はず。
あーーもう、泣きそうになってる優ちゃん可愛すぎるんだけど!
っていうか、優ちゃんも優ちゃんだし! なんでいきなりスケベな方向に思考が行っちゃうかなぁ!? いくら何でもただの男友達と試着室に二人きりになって、えっちな雰囲気になるわけなくない!?
…………は!
そこで俺は再び気付いてしまった。優ちゃんにとっては、俺はただの男友達ではなかったのではないか、という事に。
え、嘘。優ちゃんって俺のこと好きなの?
半密室に二人きりになっただけで、えっちな想像しちゃう対象として俺を見てたってこと?
ま じ か よ ……!
もしそうだとしたら、俺は純情な気持ちを踏みにじってしまったのだろうか。自他ともに認めるプレイボーイの俺は、これまで可愛い女の子限定ではあったものの、自分に好意を持ってくれた相手を傷つけることが一番嫌いだ。
まぁ、今まで全くと言っていいほど、優ちゃんからの好意なんて感じられなかったけどね。でも、もしかしたら優ちゃんが……って思いはじめたら、自分自身の気持ちすらわからなくなってきた。
あの時黒瀬に感じた独占欲も何もかも、単純に「俺も優ちゃんが好き」ってことなんじゃないだろうか。微かに芽生えはじめた気がする、自分でもビックリの甘い甘い感情が信じられなくて、ほんの少し嘘を混ぜつつ相手の様子を伺う俺は卑怯だ。
「ううん。僕がちゃんと出来なかったから。でも別に嫌だったわけじゃないよ?」
え。
「う、うん。上手に出来るかわからないけど。僕にやれそうなら、頑張ってみたいな」
ええええええーー。
なんなのその笑顔。嫌じゃなかったって何。ナニを頑張ろうとしてくれちゃってるの? 何なのこれ……俺の妄想かなって、話しながらもじもじすんのやめて! 可愛すぎて心臓持たないから!!
目の前の可愛い生き物の姿を直視することができなくなって、思わずしゃがみ込んでしまう。
「そっか~。え~、マジか~」
(まさか……優ちゃんが……。信じられないけど、いま俺、嬉しいって思ってる……)
これまで付き合ってきた数多の女の子。残念ながらその子たちには感じることのなかった、甘酸っぱい気持ちが、俺の胸いっぱいに広がっていることが答えなんだと思う。
あーあ。気付いちゃったんなら、しょうがないよな。
「優ちゃんありがとう。こんな騙すような形じゃなくって、これからはもっと正攻法でいくことにするよ。次はこんな所じゃなくて、ちゃんとした場所で頑張って見せてね♡」
これまでっていうか、厳密にいうと昨日までの様子も含めて考えると、正直優ちゃんが自分の気持ちを理解しているとは思えない。もしかしたら自覚したからこそ、今日の様子がおかしかったのかもしれないけど、ただ友人としての好きを勘違いしている可能性だってある。
だからこそ、俺は本人が少しずつ気付いていく気持ちを邪魔しないように見守っていきたい。
「浅黄くんに見せるのはいいんだけど、他の人にはちょっと……恥ずかしいから……。れ、練習して、その、自信がつくまで待って欲しいな」
「練習」
「……だめ、かな……?」
正直今のセリフと小首を傾げた可愛いポーズに涙目で、俺の決心は崩壊寸前です。
「ちゃんとツッコめるように、頑張るから」
突っ込むって、ナニを?! どこに?!
もう、話が飛躍しすぎなんですけど!!!!
「っ……全然だめじゃないよ! 正直言うと、むしろその練習見せてくれって感じだけど、優ちゃんの気持ちを優先する」
そんな言葉を発せた自分を全力で褒めてあげたい。その後の伏せ目がちな照れた表情とか、安心して喜ぶ顔とか、兎にも角にも俺のハートをぶすぶす刺してくる小悪魔に翻弄されながら、楽しいお買い物は終わった。
もちろん、強敵になりそうな黒瀬について釘を刺しておくのは忘れずに。
あまりよく分かってなさそうだったけど、明確に言葉にして意識をさせるよりは今のまま気づかずにスルーし続けてくれる方がいいはずだ。
あいつからは全力で引き離しつつ、こちらの距離は詰めていく。あとは……俺の理性がどこまで保つかっていうのが一番の問題かな。
うーーーん、これから忙しくなりそうだ。
26
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる