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4月
side 浅黄-2
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★分割数の関係で昨日公開済みの全話を追記してます!そちらを先にお読みくださいm(._.)m(20.06.24.)
あからさまに嫌そうな態度に、もっと上手く有効活用しちゃえば良いのにと思いはするが、そんな助言をしてやるほど優しくもない。
(このタイプはチャラけた奴を嫌うしな)
「……あれ? 黒瀬、くん……?」
「乙成」
関わらないのが一番だとさっさと退散しようと声をかけようとした瞬間、その男の名前を呼ぶ優ちゃんに驚かされる。
はじめは思わず声をかけてしまった、という感じだったのに、あっという間に楽しげに話を始めた二人に、俺は完全に蚊帳の外である。優ちゃんを前にして、さっきまで仏頂面晒してた野郎が、驚くほど優しい笑顔を浮かべていることも気に食わない。
「何なに~優ちゃん知り合い?」
作り上げられた二人の世界を破壊するべく、空気の読めなさを全面に押し出してデカい声で切り込んでいく。勿論優ちゃんの所有権は俺にあるのだというアピールも忘れずに。あー、抱き心地最高~♡
「そう! 偶然なんだけどね、昨日仲良くなったんだ」
「ふーん、昨日ね……」
「…………」
なぁんだ。たったそれだけの関係か。
そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。男が嫌そうに顔を顰める。優ちゃんの話を聞いていて、この男が黒瀬という名前なことは分かったが、どうでもよかった。お前なんか、名前を呼んでやる価値もねぇよ。
しかもこいつ、俺が優ちゃんに「クラスメイト」って紹介されたことに対して馬鹿にしたな? お前はまだ分かってないんだよ。この学校における、同じクラスだということのアドバンテージを。
「どぉ~も~、優ちゃんをいつも助けてるクラスメイトの浅黄でーす♡」
それに気づいた時、あとから悔しがる顔をじっくり眺めてやるぜ、と殊更に笑顔で言葉を返す。
――こうして俺と黒瀬の間で、静かなる戦いの火花は切って落とされたのだった。
◇◇◇
放っておいたらそのまま、延々と話を続けてしまいそうだった優ちゃんに「俺と買い物に行く」という目的を思い出させて、その場から無理やり連れ出すことに成功する。
あー、あの時の黒瀬の顔!
良い顔してたなぁ。思い出しただけで笑えるわ。
目の前にあった大好物を他人にかっ攫われた顔。それに気付いて睨みつけて来たけど、優ちゃんは俺との約束を優先したのだから仕方ない、仕方ない♡
本日の勝利に胸を躍らせながらお気に入りの服屋へと向かう。優ちゃんを着飾ると思ったら楽しみで仕方ない。
(しっかし、今日はすげぇ見られるな……)
普段から人目に晒されることには慣れてはいるが、今日は特にすごかった。それもこれも隣に優ちゃんがいるからだろうけど。本人は気付いているのか分からないが、何人もの男女が優ちゃんを見て振り返り、声を掛けようとして隣にいる俺を見て諦める、という挙動をしている。
俺がいる以上は簡単にナンパなんてさせないよ、と親密な雰囲気を醸し出して周りを牽制するのは忘れない。
「優ちゃん、この店とかどうかな? 多分似合うの沢山あると思うよ~」
「わぁ、なんかすごいお洒落だね……僕に上手く着こなせる?」
「全く問題なし! てか優ちゃんに着こなせない服とかないから!」
本気で言っているのだろうが、知らない人が聞いたら嫌味にしか聞こえないような発言をする優ちゃんを全力で促して店内へと入る。
これまで培って来た知識を総動員して、美しい人を飾り立てるべく服を探す。
この店は普段も使っている店な上、店長は知り合いだ。事前に店に寄ることは連絡をしていたし、普段の接客は不要であるとお願いをしているので邪魔をされることはないだろう。そんな連絡をしたのは初めてのことだった上、連れてきた人物がとんでもない美人だったら色々も勘繰りたくもなるよな。遠くから見ているくらいは許してやろう。
(んー、何でも似合うのも困りもんだな)
選ぶ服全てがマッチするのは素材のおかげなのか、俺の目利きのおかげなのか。恐らくどちらもだな、と頷きながら特に似合いそうな服を数着選び抜き試着をお願いする。
ふと、悪戯心が出てきた俺は服を持って試着室へと入る優ちゃんに付いて、自分も同じところへ滑り込む。
「なんで一緒に入ってくるの?」
「友達同士で買い物に来てたら普通じゃない? 他に知らない人が一緒な訳じゃないし。結構みんな一緒になって入って、見たり触ったりしてるよ」
きょとんとして問いかけてくる優ちゃんに、まるで驚いているかのような顔をしてそんな事を言ってみた。
(さて、どんな反応が返ってくるかな?)
「えっ、そ、そういうものなんだ……。じゃあ、お願いしてもいいかな?」
…………。
って、えええ?!
受け入れちゃうわけ?!
・ハイハイと流される
・ふざけないでと怒られる
・冗談言うなよと笑われる
この三パターンしか想像していなかった俺は、思わぬ優ちゃんの反応に固まってしまう。違った? と聞かれた時に正直に冗談でしたと白状すれば良かったのに。このままいけば優ちゃんの柔肌を拝めるかも? と欲を出した俺は、わざわざ店員に呼ぶまで来るなと足止めまでして、優ちゃんと同じ試着室に入ってしまった。
うーん、と首を傾げながら真剣に服を選んだ優ちゃんは、なんの躊躇いもなく服を脱ぎ始める。
最初は途中で「冗談だよ~♡」ってネタバレするはずだったのに、順に外されていくシャツのボタンを呆然としながらも目で追ってしまう。男の裸に何でこんなに興奮することがあるんだ。冷静にそう言って笑う自分がいるのに、細い指の動きから目が離せない。
そうしてチラリとその隙間から覗いた、薄ピンクの突起が目に入った瞬間。俺の頭は一気に血が上った。
思わず優ちゃんの手を掴み、その動きを静止させる。
ドキドキと高鳴る鼓動が信じられなかった。
これ以上見ていると自分が何をしでかすか分からなくて、そして優ちゃんの考えていることも分からなくてとにかく謝った。
「優ちゃんごめん。ふざけ過ぎました!」
あからさまに嫌そうな態度に、もっと上手く有効活用しちゃえば良いのにと思いはするが、そんな助言をしてやるほど優しくもない。
(このタイプはチャラけた奴を嫌うしな)
「……あれ? 黒瀬、くん……?」
「乙成」
関わらないのが一番だとさっさと退散しようと声をかけようとした瞬間、その男の名前を呼ぶ優ちゃんに驚かされる。
はじめは思わず声をかけてしまった、という感じだったのに、あっという間に楽しげに話を始めた二人に、俺は完全に蚊帳の外である。優ちゃんを前にして、さっきまで仏頂面晒してた野郎が、驚くほど優しい笑顔を浮かべていることも気に食わない。
「何なに~優ちゃん知り合い?」
作り上げられた二人の世界を破壊するべく、空気の読めなさを全面に押し出してデカい声で切り込んでいく。勿論優ちゃんの所有権は俺にあるのだというアピールも忘れずに。あー、抱き心地最高~♡
「そう! 偶然なんだけどね、昨日仲良くなったんだ」
「ふーん、昨日ね……」
「…………」
なぁんだ。たったそれだけの関係か。
そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。男が嫌そうに顔を顰める。優ちゃんの話を聞いていて、この男が黒瀬という名前なことは分かったが、どうでもよかった。お前なんか、名前を呼んでやる価値もねぇよ。
しかもこいつ、俺が優ちゃんに「クラスメイト」って紹介されたことに対して馬鹿にしたな? お前はまだ分かってないんだよ。この学校における、同じクラスだということのアドバンテージを。
「どぉ~も~、優ちゃんをいつも助けてるクラスメイトの浅黄でーす♡」
それに気づいた時、あとから悔しがる顔をじっくり眺めてやるぜ、と殊更に笑顔で言葉を返す。
――こうして俺と黒瀬の間で、静かなる戦いの火花は切って落とされたのだった。
◇◇◇
放っておいたらそのまま、延々と話を続けてしまいそうだった優ちゃんに「俺と買い物に行く」という目的を思い出させて、その場から無理やり連れ出すことに成功する。
あー、あの時の黒瀬の顔!
良い顔してたなぁ。思い出しただけで笑えるわ。
目の前にあった大好物を他人にかっ攫われた顔。それに気付いて睨みつけて来たけど、優ちゃんは俺との約束を優先したのだから仕方ない、仕方ない♡
本日の勝利に胸を躍らせながらお気に入りの服屋へと向かう。優ちゃんを着飾ると思ったら楽しみで仕方ない。
(しっかし、今日はすげぇ見られるな……)
普段から人目に晒されることには慣れてはいるが、今日は特にすごかった。それもこれも隣に優ちゃんがいるからだろうけど。本人は気付いているのか分からないが、何人もの男女が優ちゃんを見て振り返り、声を掛けようとして隣にいる俺を見て諦める、という挙動をしている。
俺がいる以上は簡単にナンパなんてさせないよ、と親密な雰囲気を醸し出して周りを牽制するのは忘れない。
「優ちゃん、この店とかどうかな? 多分似合うの沢山あると思うよ~」
「わぁ、なんかすごいお洒落だね……僕に上手く着こなせる?」
「全く問題なし! てか優ちゃんに着こなせない服とかないから!」
本気で言っているのだろうが、知らない人が聞いたら嫌味にしか聞こえないような発言をする優ちゃんを全力で促して店内へと入る。
これまで培って来た知識を総動員して、美しい人を飾り立てるべく服を探す。
この店は普段も使っている店な上、店長は知り合いだ。事前に店に寄ることは連絡をしていたし、普段の接客は不要であるとお願いをしているので邪魔をされることはないだろう。そんな連絡をしたのは初めてのことだった上、連れてきた人物がとんでもない美人だったら色々も勘繰りたくもなるよな。遠くから見ているくらいは許してやろう。
(んー、何でも似合うのも困りもんだな)
選ぶ服全てがマッチするのは素材のおかげなのか、俺の目利きのおかげなのか。恐らくどちらもだな、と頷きながら特に似合いそうな服を数着選び抜き試着をお願いする。
ふと、悪戯心が出てきた俺は服を持って試着室へと入る優ちゃんに付いて、自分も同じところへ滑り込む。
「なんで一緒に入ってくるの?」
「友達同士で買い物に来てたら普通じゃない? 他に知らない人が一緒な訳じゃないし。結構みんな一緒になって入って、見たり触ったりしてるよ」
きょとんとして問いかけてくる優ちゃんに、まるで驚いているかのような顔をしてそんな事を言ってみた。
(さて、どんな反応が返ってくるかな?)
「えっ、そ、そういうものなんだ……。じゃあ、お願いしてもいいかな?」
…………。
って、えええ?!
受け入れちゃうわけ?!
・ハイハイと流される
・ふざけないでと怒られる
・冗談言うなよと笑われる
この三パターンしか想像していなかった俺は、思わぬ優ちゃんの反応に固まってしまう。違った? と聞かれた時に正直に冗談でしたと白状すれば良かったのに。このままいけば優ちゃんの柔肌を拝めるかも? と欲を出した俺は、わざわざ店員に呼ぶまで来るなと足止めまでして、優ちゃんと同じ試着室に入ってしまった。
うーん、と首を傾げながら真剣に服を選んだ優ちゃんは、なんの躊躇いもなく服を脱ぎ始める。
最初は途中で「冗談だよ~♡」ってネタバレするはずだったのに、順に外されていくシャツのボタンを呆然としながらも目で追ってしまう。男の裸に何でこんなに興奮することがあるんだ。冷静にそう言って笑う自分がいるのに、細い指の動きから目が離せない。
そうしてチラリとその隙間から覗いた、薄ピンクの突起が目に入った瞬間。俺の頭は一気に血が上った。
思わず優ちゃんの手を掴み、その動きを静止させる。
ドキドキと高鳴る鼓動が信じられなかった。
これ以上見ていると自分が何をしでかすか分からなくて、そして優ちゃんの考えていることも分からなくてとにかく謝った。
「優ちゃんごめん。ふざけ過ぎました!」
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