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4月
クールイケメンの笑顔はすごい
しおりを挟む思った以上に懐かれてしまったようで、赤塚はいつなら行けそうですか? と前のめりで聞いてくる。そのまま入り口の前で予定を合わせていると、通りがかりに俺に気付いた黒瀬が声をかけてきた。
「乙成、ちょうど良かった。悪いけど、少しだけいいか?」
「黒瀬くん。どうかした?」
話している途中で声をかけたからか、少しだけすまなそうに赤塚に視線を向ける。黒瀬の視線を追って俺も再び赤塚に向き直ると、何故かとてもキラキラした目で黒瀬を見ていた。ずいぶんと熱烈な眼差しだけど、知り合いだったのか? その割には黒瀬は若干戸惑いがちに……というより、むしろ引いているようにも見えるけど。そんな俺たちの不思議な視線を受けて、赤塚はハッとした様子で話を切り上げた。
「あっ、俺のことは気にしないでください……!」
「え? あ、うん、ごめんね」
「全然っ! 大丈夫っす、約束楽しみにしてます!」
「ふふ、僕も。またね」
俺も楽しみなのは一緒だったので、素直にそう言うと、赤塚は嬉しそうに笑った。そうして黒瀬に深々とお辞儀をしてから、元気に駆け出していく。
なんとなく赤塚の背中が見えなくなるまで、無言のまま二人で見送ってしまった。明るくハツラツとした赤塚がいなくなるだけで、周りが一気に静かになったような気がする。
「えっと、黒瀬くんの話っていうのは?」
「あーー……そうだな。ここじゃなくて、向こうで話してもいいか?」
ちらりと俺の後ろに視線をやると、外を指差しながらそう言った。俺の背後にはクラスメイト達がいるわけだけど、多分みんな俺のことなんか全然興味ないと思うけどな。しかし黒瀬が気になるというのなら仕方ない。そのまま俺は促されるままに場所を移動した。
◇◇◇
「悪いな。あまり他の奴には聞かれたくなくて」
「全然大丈夫だよ! それよりもどうしたの?」
黒瀬とともに訪れたのは中庭の方だった。昼時は賑わっているのだが、放課後になって部活に勤しむ生徒も多いためか、まばらにしか人がいない。
「ああ……その、実はアルバイトの勧誘なんだが……叔父が経営してる喫茶店で、人手が足りなくて困ってるんだ。他になにかしているなら気が向いた時だけでもいいんだが手伝ってもらえないかと思ってな」
おお!アルバイトとな!
実は乙成くん、びっくりするくらい箱入りだったのか、今まで部活はおろかアルバイトもした事がないらしい。本人が興味がなかったのもあるかもしれないが、どちらかというと単身赴任中の父親が過保護みたいなんだよな。たまにしか会えないのもあって、目に入れても痛くないってほど、乙成くんを溺愛している。とにかく危険なことはさせたくないみたいで、父さんのチェックが入ると大抵のものはNGが出る。部活とアルバイトが危険なこと認定ってどれだけハードル高いんだよ。
今まではそれでも良かったのかもしれないが、残念ながら俺はそうじゃない。買いたい物も沢山あるし、これから自由に動くためには、稼げる時に稼いでおくべきだろう。知り合いの店なら多少の融通もきくかもしれないし、これはまたとないチャンスかもしれないぞ。多分母さんは、自分からも積極的に勧めては来ないけど、別に俺がやりたいと言ったことを止めないだろうしな。
「もちろん! 僕でいいなら手伝わせてよ」
「そうか、よかった」
そう答えると、ほっとした顔で黒瀬が笑う。普段はあまり笑ったりしない黒瀬だが、最近では俺の前だとたまにこういう顔を見せてくれるようになってきた。
(いつも無愛想にしてるから、たまに笑顔を見るとその差にびっくりするんだよね……)
いわゆるツンデレ? いや、クーデレか? とにかく赤塚に引き続き、イケメン達はいろんなギャップを駆使しているということを再認識した。イケメンの笑顔ほど破壊力の凄いものはない。しかし俺が手伝うと言っただけで、こんなにも安心した顔するなんて、本当に困ってたんだな。ちゃんと役に立てるか分からないけど頑張ろうっと。
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