乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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4月

side 浅黄-1

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 ねぇ、本当に優ちゃんってばどうしちゃったわけ?
 これまでの無関心・無反応が嘘のように、驚きの行動を連発してくれた優ちゃんに、我がクラスは今までにない程の混乱の渦に飲み込まれていた。

 まずはクラスメイトへの挨拶。俺に続くように「おはよう」と優ちゃんが言ったときには、驚きすぎて言葉を失ってしまった。え、今まで一年間過ごしてきて一度も言ったことないはずの挨拶を?
 嘘みたいに可愛い顔しているくせに、本人はあまりに自分にも周りにも無頓着。一人でぼんやりとしている優ちゃんは、深窓の令嬢感が増してそれはそれはやばくて。入学してすぐは優ちゃんに対する不可侵条約が作られたほどだった。それを知ってか知らずか、周りの態度を気にする様子もなく、周囲とまったく慣れ合わない姿を見て、影で「孤高の乙姫様」なんて二つ名を付けられている優ちゃんが、笑顔で挨拶を……?

「えっと、おはよう……?」
「ひぇ!? は、はい!!!!!」

 ああっ! そんな最高の笑顔でモブ男子に声を掛けたりしたら、腰を抜かすに決まってるじゃないか! 優ちゃんと隣の席というだけでも緊張していただろうに、突然話しかけられたクラスメイトは、面白いくらい顔を真っ赤にさせて言葉を無くしていた。
 他のやつらも優ちゃんの変わりように戸惑いが隠せないようだ。至るところから「どういうこと?」「説明して」「なんとかしてくれ!」という視線が突き刺さる。いやいや、俺だって驚いているのは一緒なんだって……。

「ゆ、優ちゃん今日は本当にどうしたの? 熱でもある?」
「…………ない。僕が挨拶をするのって、そんなに変かな……?」
「いや、変ってことはない……ってこともなくて。今まで優ちゃんが自分から話しかける事ってほとんどなかったから、みんな驚いているだけだと思うけど……」

 悲しそうに肩を落とす姿を見て、思わずそんな風にフォローの言葉が口をついて出る。クラスメイト達も聞いていないふりをしながら、固唾をのんで様子を見守っているのが分かる。

「……僕が話しかけても迷惑じゃない? これまでは……上手く話せなかったけど、みんなと仲良くなりたいんだ……」

 はぁ~~~~~~???
 なんですか、この可愛い生き物は~~~~???? あーもう無理。俺一人で処理しきれんわ!

「迷惑なんてことないよ! な、なぁ!? みんなそうだよな!?」

 優ちゃんの上目遣いに心臓を鷲掴みにされそうになって、赤くなる頬を誤魔化すように慌てて視線を逸らす。周囲に同意を求めれば、全員が全力で首を振っている。そりゃそうだよな、今まで積極的に他者と関わりを持とうとして来なかった優ちゃんだからこそ、クラスメイト達は見守りの姿勢を貫いてきただけで、本人から仲良くなりたいなんて言われたら嫌がる奴がいるわけないよな。
 しかしこの一年、優ちゃんの関係を構築するのに躍起になっていた俺の頑張りを思うと、残念な気もしなくない。ま、つまらない学生生活の暇つぶしがてら、ゲーム感覚で始めた関係だし? 別にいいんだけどね。

「……ほんと…………?」

 俺の心の中の葛藤を感じ取ったのか、不安げにこちらを仰ぎ見る優ちゃん。綺麗な瞳がうるうると涙で潤んで、こてっと首を傾げる姿は言うまでもなく可愛さが爆発していた。こちらの様子を盗み見て流れ弾に当たったクラスメイトは、うめき声を上げながら机に突っ伏していた。

「ん゛……っ! うん、もちろん!! あ、そうだ。そしたら今日は俺と親睦深めちゃう? 放課後ショッピングモールで服でも見て帰ろうよ♡ なぁ~んて……」

 あはは、と笑いながら冗談で乗り切ろうとしたところ、まさか優ちゃんがノリノリで同意してくるなんて。本当にどうしちゃったのさ。


◇◇◇


(それにしても、優ちゃんと一緒に買い物なんてねぇ……)

 正直めちゃくちゃ嬉しい。「お買い物、行きたい……!」と僅かに頬を染めながらはにかんで告げる優ちゃんに、その場に居合わせたクラスメイトは全員悶絶していた。優ちゃんにバレないようにこっそりと。
 孤高の乙姫様と運良く同じクラスになれた面々は、その幸せを噛み締め、そしていつの間にか影で暗躍する優ちゃん親衛隊となったのだ。まぁ、そんなことを本人が知ったらきっと嫌がるので、大々的には動いていないが。入学当時の不可侵条約を守り抜き、優ちゃんの平穏な学校生活のために日々尽力している……らしい。

 俺はというと、同じクラスメイトでもあるし? 自分たちで優ちゃんに話しかけることの出来ない親衛隊の代わりに、俺がいろいろと代行しているので多少お目溢しを受けているのだろう。あとは俺が親衛隊のお眼鏡に適ったってことかな。あー、イケメンに生まれてよかった~♡

 放課後デートなんて、何十回としてきたはずなのに、その相手が優ちゃんというだけでどうしようもなくソワソワしてしまうのは何でだろう。まさか冗談でした~なんて事はないよな? と、HRが終わった後すぐに駆け寄ったら、「浅黄くんも楽しみにしてくれてるんだ。嬉しいな」なんて言っちゃってさ。可愛すぎませんかね?
 しまいには勇気を出したクラスメイトが声を掛けると、それはそれは嬉しそうに笑うんだぜ。あーあ。今までは俺だけが特別だったのに。ちょっと気に食わないけど、優ちゃんが嬉しそうだから……まぁ、仕方ないか。俺たちが出た後の教室は、W杯で日本がゴールを決めた時のような歓声を上げて、喜びに震えている。優ちゃんは優ちゃんで何が起きてるのか分かってないみたいだし、全くこの子は。

(先が思いやられるなぁ……)

 以前とはどこか変わった優ちゃん。それは良い変化のようにも思えるけど、何が彼をそうさせたのだろうか。なんとも言えない違和感に首を捻らせていると、前を歩いていた優ちゃんがふと視線を動かしておもむろに足を止めた。

「? なんだろ」
「あぁ、なんか隣のクラスに転入生が来たらしいよ~。男みたいだし、俺は興味なしだけど」

 優ちゃんは特別だと軽口を言いながら、不思議そうに人混みを覗き込む背中を追いかける。

(うわ、転校生ってあいつか? 俺の一番嫌いなタイプだわ)

 そこに居たのは、多分俺と同じで自分の見た目が良い事を理解している男。ただ決定的に違うのはそれに対して……というより、その優れた見目に惹かれて近づいて来る人間を嫌悪している奴だということ。



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