乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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4月

side 浅黄

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 正直に言おう。俺は女の子が好きだ。

 女の子は可愛いし、柔らかいし、いい匂いがするし、なによりおっぱいがついている。
 健全な男子たるもの、女の子を嫌いな奴なんていない……と俺は思っている。

 そして女の子も俺が好きだ。
 これは自意識過剰でもなんでもなく、事実としてね。だからこそ読者モデルなんてやつを仕事に出来ているわけだから、一定数の人間が俺の姿を見たいって思っている証拠だと思う。

 自分の見目に対する外部の印象っていうやつには人一倍敏感なつもりだし、それに合わせて演じもしてきた。どうやら少し垂れた目元と、無類の女好きを隠しもしない性格に、周囲の奴らは「チャラい」「軽薄」「女たらし」というようなイメージを持っている。それらを自覚した上で、事実とも大きく違いがないと思っている俺は、逆にその印象の恩恵で『遊びでもいいから付き合ってほしい……』と告白してくる女の子達と過ごす楽しくも幸せな夜を満喫しているのだった。

(実際には誰でもいいってわけではないんだけど。ま、相手から来る分には拒む必要はないよねー)

 女の子は可愛がるもの。
 男は基本空気と同じ。

 それが俺のスタンス。……だったはずなんだけど、最近の俺は少しおかしい。何故だかここ最近、一人の男子が気になって仕方がないのだ。

(お、あの後ろ姿は……)

「優ちゃ~ん♡ おっはよー♡」
「っわぁ?!」

 朝の学校。校門を抜けたところでまさに今、頭に描いていた人物を見つけた俺は、その後姿に駆け寄って思わず後ろから抱きついてしまった。
 俺より頭ひとつくらいは背が低いだろうか? ふわふわの猫っ毛が頬をくすぐり、なんだかむず痒くなる。胸に湧き起こる気持ちがなんだかよく分からなくて、いつも以上に軽薄な言葉が口をついて出た。

「今日も可愛いねぇ。いつデートしよっか? 今日の放課後とかどう? 仕事入ってないし俺は大丈夫だけど♡」
「び、びっくりした……浅黄くんおはよう」

 いつも通りの返し。デートの言葉に触れることもなく完全スルーでおしまい。
 当たり前だけど、可愛い顔をしていても彼はれっきとした男子なので、この返答は至ってなんらおかしくないと思う。自分で言っておきながらなんですが、「いいよ♡」と言われた方が引いてしまうかもしれない。

 この乙成優太という人物は、そこら辺の女の子よりもたいそう可愛らしい容姿をしている。女の子にしか食指が動かないこの俺でさえ、高校から外部入学してきた優ちゃんを初めてみた時、完璧に勘違いをして一目惚れ。即口説きにかかった後で、実は男だったと知っても尚、しばらくの間は信じられなかったんだよなぁ。
 中等部からのエスカレーター組は、俺が自分からアプローチをしているのに驚いたんだろうな。それから数週間は「来るもの拒まずの浅黄もついに一人に陥落か?!」などと、周りが騒ぎ立てたものだ。そのお相手である優ちゃんは、そんな周りの喧騒を気にする風でもなく、一人黙々と過ごしていた。きっと彼にとっては日常茶飯事の出来事だったのだろう。

 そんなことがあってからというもの、俺がどんなに甘い言葉を囁こうが、際どいボディタッチを行おうが、全て平然と受け流してくれる優ちゃんに俄然興味が湧いてきた。見た目が美少女然としているだけあって、自分に靡かない高嶺の花とでもいうのか。とにかく、今までにない気持ちを俺に味合わせてくれる、稀有な存在となったのだ。

「浅黄くん、私がいるのも忘れないでくださいよぉ?」
「おっと、もちろん忘れてなんていないよ。ミユちゃんおはよ♡ いつもと少し雰囲気が違う気がするけど……あ、リップ変えた? すっげー似合ってる!」
「ふふ、おはよう~。そうなんですぅ、さすがですね~♡」

 隣にいた優ちゃんの幼馴染みから声を掛けられて、はっと意識が現実に引き戻される。
 この子もまた可愛い見た目をしていて、なんだか目が離せないんだよな。って今さっき隣にいるのに気づかずスルーしてた俺が言うのもなんだけど。そんな事実を誤魔化しながら、ミユちゃんとの何気ないやり取りを楽しんでいると、優ちゃんからいつにない熱い視線を感じるような気が……?

「ゆ、優ちゃん……? どうしたの? そんなに可愛い顔でじーっと見つめられちゃうと、さすがに俺も照れちゃうんだけど、なぁ……」
「あっ、ごめん。浅黄くんが格好いいのってなんでかなぁって、考えてたの」
「へ?!?!」

 この子は一体何を言っているんだ。
 今までにない反応に、上手い返しも思い付かないなんて。この俺が!

 なんだか表情もいつもよりぽやっとしているような気もするし、醸し出す雰囲気が随分柔らかくなった気がする。それだけでも変なドキドキが止まらないのに、羨望のような、どこか探るような視線を全身に感じて、まるで視姦されている気分だ。

「ゆ、優ちゃんがそんな風に言ってくれるの珍しいね?」
「そうかな? いつも思ってたよ。僕、浅黄くんとお友達でよかった」

 おいおいおい、可愛すぎるんですけど!?!?
 にこっと笑った顔は、今まで見たことのないようなもので、その破壊力に俺はノックアウト寸前だった。え、あれ、優ちゃんってこんな感じだったっけ?

「ちょちょちょ、ちょっと! ミユちゃん! 優ちゃんってばどうしちゃったの?! 顔が可愛いのは前からだけど、なんか言動の可愛さに磨きかかってない?!」
「さぁ~? 学年が変わって心境の変化でもあったのかもしれないですねぇ♡」

 思わずミユちゃんに助けを求める俺に、笑みを深めた彼女はとても嬉しそうに見えた。



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