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4月
ツッコミってそんなに重要だった?
しおりを挟むいろんなところで新しい知り合いを増やすチャンスかもしれないと、可能性の広がりに胸が躍る。にやにや笑いが止まらなくなっちゃうぜー!
俺があまりにも嬉しそうにしているからなのか、浅黄もこちらを見て笑っている。なんていうか、あまりに優しい視線で見つめられ、少し照れくさい。そんなに見てくれるな、とぎこちなく顔を背ければ、浅黄はクスリと笑って話題を変えた。
「あ、そうだ。今度こそって思ってたんだけど、やっぱり今日も一緒に帰れなさそう~」
「そうなんだ。またお仕事?」
「いや、仕事じゃないんだけど……それよりも、朝も放課後も一緒にいられないなんて、優ちゃん不足で干からびるかもぉ~」
「ふふっ、なにそれ。明日も会えるんだから、その時に補充して?」
「もっと補充したい~あわよくば濃密な触れ合いによって癒されたい~」
濃密な触れ合いってなんだよ。何ちょっと意味深な言い方をしてるんだ。
大抵の場合は俺と一緒にいる浅黄だが、実は放課後は別々なことが殆どだったりする。以前は乙成くんがさっさと帰っていたから、というのもあるけど……今でもそれは変わらない。なんだかんだ言いながら、やはり浅黄は予定がたくさんあるみたいだ。まぁ学校にいる時間は常に共に行動していて、それが平日ずっと繰り返されてるんだから、俺不足、なんていうのも冗談の一種なんだと思うけど。
「俺がいない間に、変なやつに絡まれたりしてないよね? ナンパもされてない?」
「浅黄くんったら、学校でそんなことあるわけないでしょ」
「どうかな。最近の優ちゃんはどうにもガードがゆるゆるだから。黒瀬もいるしね」
黒瀬とは浅黄がいない時を中心に、たまに話をする仲だ。いる時でももちろん話は出来るんだけど、この二人がすぐに喧嘩になるからちょっと面倒くさい。浅黄が喧嘩をふっかけてると思いきや、黒瀬も意外と好戦的なんだよな。なんでだ……。
「そういえば、練習。……進んでる?」
イケメンの相乗効果が上手くいかないことにため息を吐いていると、少しだけ声を潜めた浅黄が耳元で囁いた。
練習? 練習ってなんだっけ……。っは! そうか、ツッコミだ。自分で「練習するから許して」ってお願いしたのを忘れていたぞ……!
「あ、えっと、あんまり。一人だと……上手くできなくて……」
なぜこの流れでツッコミ練習の話になるのかな?!いきなり過ぎて動揺してしまった。あんまりどころか一切やっていないし、むしろ忘れてたくらいだけど……嘘ってバレてないかな?
「そろそろリベンジしたいなぁ。……今度の週末とかは?」
「えっ! ま、まだだめ!」
お前のその意欲はどこから来るんだ?
なんでそんなに近々なスケジュールなの?!
「全然出来ないから、がっかりされたくないし……」
「絶対しないし、むしろそれがいいんだけど」
素人のぐだぐだなツッコミを見て楽しむなんて、とても高度な趣味である。浅黄がまさかそんな「なんでも受け入れてくれるツッコミマニア」だったとは知らなかったけど、そんなのを見られる自分が恥ずかしいんだから、絶対にやりたくはない。この感じだと、いつか教室でやってくれなんてお願いされかねないぞ。流石にそれは無理だから、浅黄にお披露目する場所だけは事前に指定しておかなければ!
「二人っきりの時なら、ね。でももう少しだけ……時間ちょうだい?」
見せるのは浅黄だけだと思ってたのに、実は他の人もいた……なんてことになったら憤死ものだからな。二人きり、というところを強調する。そして、誤魔化す時は伝家の宝刀、お願いポーズ。前にこれを使って切り抜けられてからは困った時に使うようになってしまった。こうすると浅黄はだいたいオッケーしてくれるので重宝しています。
ガタッと大きな音がして周りを見ると、斜め後ろに座っている女の子が机に突っ伏してる。友達が後ろから背中を撫でてるけど、具合悪いのかな? 他のみんなは気に留めずにどこか遠くの方を見てるから、大したことないのだろうか。ちょっと心配。浅黄は浅黄で、例の発作が出たようで、自分の世界に入ってしまったから放置するか。
あー今日の昼飯、何食べようかなぁ。
◇◇◇
浅黄が先に帰ってしまった後、なんだかすぐに帰る気になれなくて、ゆっくり片付けをしながらしばらく教室でぼんやりしていた。家に帰ってもすることないし、どこか寄り道でもしようかな、なんて考えていると、なにやら教室の入り口付近が賑やかになってくる。
(なんだろう?)
「いや、だから追っかけとかじゃなくて。俺本当に……あ! 先輩、助けてください~」
飛び抜けて高い身長で、周りに俺のクラスメイトを従えた赤塚は泣きそうな顔をして叫んでいた。
ふーん、お前ってそんなに人気があるんだな?
一年以上一緒に過ごしてきた俺にはあんなに人が集まってきたことはない。人気者っていうのは君みたいな奴のためにある言葉なのだよ。
「……ずいぶん楽しそうだね? 何してるの?」
少し嫌味っぽかっただろうか? だ、だって羨ましかったんだからしょうがないじゃないか。ほら、今だって俺が近づくと潮が引くようにみんな席に戻っていくんだから。
お願いだからもう少し分からないように避けて欲しい。いくらぼっちに慣れている俺だって、少しは傷付くんだぞ。
「いや全然楽しくないです! ちょっと誤解があって……俺は先輩にお礼に来たのにみんな寄ってたかって~」
思わず手が出るかと思いました、なんて可愛い顔して物騒な冗談を言っている。そういうギャップが人気の秘訣ってことか? 赤塚の生態についてじっと観察を続けていると、急に慌て出した後輩は両手を俺の目の前に突き出した。
「えっと、とりあえずなんで、すぐ買えるものですみません。今度是非ちゃんとしたもの奢らせてください!」
その手には購買で売っているお菓子が大量に袋詰めされている。あの時言っていたお礼ってやつか? いらないって言ったのに律儀なやつだ。
「わぁ~すごい量だね。本当に気にしなくて良かったのに」
「いえ! せっかくのチャンスなんで絶対に逃さないです!」
え、チャンスって買い物の?
購買でお菓子を買うなんて、いつでも出来ると思うけど。お役に立てた様でなによりです。
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