乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

文字の大きさ
上 下
33 / 162
4月

ツッコミってそんなに重要だった?

しおりを挟む


 いろんなところで新しい知り合いを増やすチャンスかもしれないと、可能性の広がりに胸が躍る。にやにや笑いが止まらなくなっちゃうぜー!
 俺があまりにも嬉しそうにしているからなのか、浅黄もこちらを見て笑っている。なんていうか、あまりに優しい視線で見つめられ、少し照れくさい。そんなに見てくれるな、とぎこちなく顔を背ければ、浅黄はクスリと笑って話題を変えた。

「あ、そうだ。今度こそって思ってたんだけど、やっぱり今日も一緒に帰れなさそう~」
「そうなんだ。またお仕事?」
「いや、仕事じゃないんだけど……それよりも、朝も放課後も一緒にいられないなんて、優ちゃん不足で干からびるかもぉ~」
「ふふっ、なにそれ。明日も会えるんだから、その時に補充して?」
「もっと補充したい~あわよくば濃密な触れ合いによって癒されたい~」

 濃密な触れ合いってなんだよ。何ちょっと意味深な言い方をしてるんだ。
 大抵の場合は俺と一緒にいる浅黄だが、実は放課後は別々なことが殆どだったりする。以前は乙成くんがさっさと帰っていたから、というのもあるけど……今でもそれは変わらない。なんだかんだ言いながら、やはり浅黄は予定がたくさんあるみたいだ。まぁ学校にいる時間は常に共に行動していて、それが平日ずっと繰り返されてるんだから、俺不足、なんていうのも冗談の一種なんだと思うけど。

「俺がいない間に、変なやつに絡まれたりしてないよね? ナンパもされてない?」
「浅黄くんったら、学校でそんなことあるわけないでしょ」
「どうかな。最近の優ちゃんはどうにもガードがゆるゆるだから。黒瀬もいるしね」

 黒瀬とは浅黄がいない時を中心に、たまに話をする仲だ。いる時でももちろん話は出来るんだけど、この二人がすぐに喧嘩になるからちょっと面倒くさい。浅黄が喧嘩をふっかけてると思いきや、黒瀬も意外と好戦的なんだよな。なんでだ……。

「そういえば、練習。……進んでる?」

 イケメンの相乗効果が上手くいかないことにため息を吐いていると、少しだけ声を潜めた浅黄が耳元で囁いた。
 練習? 練習ってなんだっけ……。っは! そうか、ツッコミだ。自分で「練習するから許して」ってお願いしたのを忘れていたぞ……!

「あ、えっと、あんまり。一人だと……上手くできなくて……」

 なぜこの流れでツッコミ練習の話になるのかな?!いきなり過ぎて動揺してしまった。あんまりどころか一切やっていないし、むしろ忘れてたくらいだけど……嘘ってバレてないかな?

「そろそろリベンジしたいなぁ。……今度の週末とかは?」
「えっ! ま、まだだめ!」

 お前のその意欲はどこから来るんだ?
 なんでそんなに近々なスケジュールなの?!

「全然出来ないから、がっかりされたくないし……」
「絶対しないし、むしろそれがいいんだけど」

 素人のぐだぐだなツッコミを見て楽しむなんて、とても高度な趣味である。浅黄がまさかそんな「なんでも受け入れてくれるツッコミマニア」だったとは知らなかったけど、そんなのを見られる自分が恥ずかしいんだから、絶対にやりたくはない。この感じだと、いつか教室ここでやってくれなんてお願いされかねないぞ。流石にそれは無理だから、浅黄にお披露目する場所だけは事前に指定しておかなければ!

「二人っきりの時なら、ね。でももう少しだけ……時間ちょうだい?」

 見せるのは浅黄だけだと思ってたのに、実は他の人もいた……なんてことになったら憤死ものだからな。二人きり、というところを強調する。そして、誤魔化す時は伝家の宝刀、お願いポーズ。前にこれを使って切り抜けられてからは困った時に使うようになってしまった。こうすると浅黄はだいたいオッケーしてくれるので重宝しています。
 ガタッと大きな音がして周りを見ると、斜め後ろに座っている女の子が机に突っ伏してる。友達が後ろから背中を撫でてるけど、具合悪いのかな? 他のみんなは気に留めずにどこか遠くの方を見てるから、大したことないのだろうか。ちょっと心配。浅黄は浅黄で、例の発作が出たようで、自分の世界に入ってしまったから放置するか。

 あー今日の昼飯、何食べようかなぁ。


◇◇◇


 浅黄が先に帰ってしまった後、なんだかすぐに帰る気になれなくて、ゆっくり片付けをしながらしばらく教室でぼんやりしていた。家に帰ってもすることないし、どこか寄り道でもしようかな、なんて考えていると、なにやら教室の入り口付近が賑やかになってくる。

(なんだろう?)

「いや、だから追っかけとかじゃなくて。俺本当に……あ! 先輩、助けてください~」

 飛び抜けて高い身長で、周りに俺のクラスメイトを従えた赤塚は泣きそうな顔をして叫んでいた。
 ふーん、お前ってそんなに人気があるんだな?
 一年以上一緒に過ごしてきた俺にはあんなに人が集まってきたことはない。人気者っていうのは君みたいな奴のためにある言葉なのだよ。

「……ずいぶん楽しそうだね? 何してるの?」

 少し嫌味っぽかっただろうか? だ、だって羨ましかったんだからしょうがないじゃないか。ほら、今だって俺が近づくと潮が引くようにみんな席に戻っていくんだから。
 お願いだからもう少し分からないように避けて欲しい。いくらぼっちに慣れている俺だって、少しは傷付くんだぞ。

「いや全然楽しくないです! ちょっと誤解があって……俺は先輩にお礼に来たのにみんな寄ってたかって~」

 思わず手が出るかと思いました、なんて可愛い顔して物騒な冗談を言っている。そういうギャップが人気の秘訣ってことか? 赤塚の生態についてじっと観察を続けていると、急に慌て出した後輩は両手を俺の目の前に突き出した。

「えっと、とりあえずなんで、すぐ買えるものですみません。今度是非ちゃんとしたもの奢らせてください!」

 その手には購買で売っているお菓子が大量に袋詰めされている。あの時言っていたお礼ってやつか? いらないって言ったのに律儀なやつだ。

「わぁ~すごい量だね。本当に気にしなくて良かったのに」
「いえ! せっかくのチャンスなんで絶対に逃さないです!」

 え、チャンスって買い物の?
 購買でお菓子を買うなんて、いつでも出来ると思うけど。お役に立てた様でなによりです。



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

弟の可愛さに気づくまで

Sara
BL
弟に夜這いされて戸惑いながらも何だかんだ受け入れていくお兄ちゃん❤︎が描きたくて…

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

パパの雄っぱいが大好き過ぎて23歳息子は未だに乳離れできません!父だけに!

ミクリ21
BL
乳と父をかけてます。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...