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4月
迷子の迷子の
しおりを挟む「なんでだ……」
どうも。乙成優太です。俺は今、絶賛ぼっちで移動中です。
特別授業のため二限目は移動教室。
普段は浅黄と一緒に移動したり昼食をとったりするのだが、今日は午前中に仕事が入ったとかでいないんだよな。そんな時はどうしても一人になる。
初日の頑張りから、何とかクラスメイトと「おはよう」と「またね」の挨拶は出来るようになった。しかしそれ以外はてんで駄目。元々俺がコミュ障で、何を話しかけたらいいのか分からないっていうのも原因の一つなんだけど。乙成くんは美形だし、性格だって悪くないから友達は多そうなものなのに、浅黄以外のクラスメイトが話しかけてくることってほとんどないんだよな……。むしろ避けられているというか、遠巻きに眺められている感じだ。
(まぁ、元々一人でいることが多かったから苦ではないんだけどね……)
こんなに寂しい慣れがあっていいのだろうか。少しふてくされながら歩いていると、視界の端になんだか途方に暮れたような顔をしてウロウロしている男子生徒が見えた。
なんだなんだ、ぼっち仲間か? 今なら優しくしてやってもいいぞ。
遠い目をして、そんな風に考えながらその人を見ていると、本当に目があってしまった。 あ、こっち来た! めっちゃ走ってくる……!
「あ、あのっ、すみません!」
おおおお? 近づくとこいつ背高いな!
めっちゃ見上げてしまう。とても困っていたんだろうな。縋るように見つめてくる目が潤んでいて、駆け寄ってきた姿と相まっておねだりする大型犬のようだ。うん、でっかいけど可愛いなぁ。
「どうかしたんですか……?」
「あの……俺、一年なんですが、まだ教室の場所とか分かってなくて。次この教室に行かないといけないんですけど、ま……迷ってしまって……」
(わぁ~これで年下なのかぁ。今時の子は発育がいいというか)
少し恥ずかしそうに言うそいつの胸元を見ると、たしかに一年の学生章が付けられていた。
うちの学校は在学生の多いため、一目で学年の判別ができる様に胸ポケットに学年章をつける決まりになっている。これがあると先輩に間違ってタメ口をきいてしまって、後から冷や汗をかくような心配がなくていいよな。ちなみに制服はブレザーね。
ここ分かりますか? と涙目で問われ、改めて見せられた書類を確認すると、新入生に向けた校内の案内図を持っているようだった。
「B棟だね。ちょうど良かった、僕も次はそっちの方で授業があるから途中まで一緒に行こうよ」
「本当ですか! すみません、助かります……俺ほんっとうに方向音痴で。何回か行くと覚えるんですけど、途中で忘れ物を取りに戻ったらよく分からなくなってしまいました……」
それは中々に重度の方向音痴だな。
そんなことでは普段の生活にも支障が出るでは? ってだから今困ってるのか。思わず苦笑いを浮かべてしまうと、大きな身体を丸めてしょんぼりとする。なんというか、喜怒哀楽が激しくて見ていて面白い。後ろに尻尾が見えそうだ。
「うちの学校、似たような建物ばっかりだから分かりにくいよね。マンモス校だから教室もいっぱいあるし」
「そ、そうなんです! だから、本当にありがとうございます」
可哀想なので思わずフォローすると、次はパッと顔を上げて笑顔でそう言ってくる。律儀にお辞儀しながらのお礼なんて、よく出来たやつだ。ピシッとした背筋が妙に清々しい。
「俺、赤塚宗太郎って言います。先輩は乙成さんであってますか?」
「え! なんで知ってるの?」
「学年章見て二年だっていうのは分かったんで、あとは多分そうかなって。先輩、人気者で有名ですもん。多分ほとんどの生徒が知ってるんじゃないですかね」
間違ってなくて良かったと笑っているが、学年章だけで推理するとはとんだ名探偵だな。でも、俺が人気者だなんて何かの間違いでは? 本当の人気者はぼっちで移動教室に向かわないと思う。浅黄のオマケとして知れ渡っているのだろうか。
一人寂しかった移動教室は、赤塚のおかげでたいそう賑やかなものになる。入学してこんなところに驚いたとか、これって本当ですか? とか、ぽんぽん飛び出る話に相槌を打ったり答えながら歩いていると、目的の教室が近くなってきた。
「あ。赤塚くんの教室は、あそこを曲がってすぐ左だよ」
「わーっ、まじでありがとうございました! 迷った時は人生終わった……って思ってましたけど、そのおかげでこうして先輩と話せたんで、初めて方向音痴で良かったって思いましたっ」
「ふふっ、大げさだなぁ」
ここまで全力で喜ばれると、俺も悪い気はしない。ボールでも投げてあげたい気分だ。それとも髪の毛わしゃわしゃ? どちらにせよ、完全にペット扱いです。
「今度お礼に行くんで! 俺のこと忘れないでくださいね」
「もちろん、忘れないよ。でもお礼なんていいからね」
「絶対行きます! 絶対に! あと、先輩めっちゃ可愛いです!」
「あはは、意味分からないけどありがとう~」
支離滅裂だけど勢いがすごくて面白いな~こいつ。
しかしここで仲良くなっておけば、年下の彼女ができる可能性も出てくるよな? 悪い奴じゃなさそうだし、打算的で悪いけど、後輩とも仲良くなって損はないよな。
ぶんぶんと手を振りながら去っていく赤塚を見送って、思わぬチャンスに気分も明るくなる。
さて、俺も遅れないように教室行かないと!
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