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4月
ノリツッコミくらい簡単に出来ないと。
しおりを挟む「えっ……!」
「? あれ、違うの?」
「あっ、いや、違くない! ちょっと待って……っ」
自分から入ってきたくせに、俺が頼むと途端に戸惑うような顔を見せる。一緒に入って、チェックしてくれるのではないのか?
真意が分からずに首を傾げていると、浅黄は一度外に出て、店員さんに一声かけてから戻ってきた。ああなるほど、二人で入る時は先に断っておかないとダメなんだな。覚えておこうっと。
(さて、どれから試そうかな……)
浅黄の奇行に納得した俺は、制服を脱ぎ始める。
うーん、どれもシンプルだけど小洒落ている。今までだったら服の雰囲気に顔面が負けて、ちぐはぐでおかしな格好になっていたはずだ。でも今は最強乙成くんのビジュアルがあるからな。なんでも完璧に着こなしてしまうに違いない。
どんな感じになるのかなぁ~と、ウキウキした気持ちでネクタイをほどく。シャツのボタンに手をかけて幾つか外したところで、急に浅黄に両手を掴まれた。
び、びっくりしたー! いきなりなんなんだ?!
「優ちゃんごめん。ふざけ過ぎました!」
え、何が? ふざけるポイントなんてあった?
苦しそうな顔をして目を背ける浅黄を見て、俺が何かを間違えてしまったらしいことは分かった。冗談のつもりだったのに、俺が本気にしちゃった系の痛いやつか……? そこまではなんとか想像がつくものの、残念ながらそれが何なのかまでは分からない。
・実は俺に似合わない服を選んだ
・友達と試着室に入ることは普通ではない
・そもそも俺と浅黄は友達ではない
思い当たるのはこれくらいだけど、もし三番目だったら俺泣いちゃう。一番現実的なのは、試着室に一緒に入るのが違うってやつだけど……。とにかく確かなのは、俺は冗談を真に受けちゃったんだって事。それに気づいたら、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。多分、今めちゃくちゃ顔が赤いと思う。
ここはもっとノリツッコミとかで上手い返しをするべきだったのかも……こいつ笑いもわかんねぇのかよって思われてるよな、絶対。
「えっと、僕こそごめんね……? こういうことする相手って今までいたことなかったから、その、初めてで……」
とりあえず言い訳をしてみる。
だって、しょうがないだろ? 今まで休みの日は家でゲームをしてばかり。友達も殆どオンラインで出来た奴らばかりだったんだから。た、タイミングとか教えてくれたら、次はちゃんとツッコんでみせるから!
それより俺ってば、自分でぼっち宣言とか悲しすぎない? やばい、この惨めな状況に気づいてしまったら今度は泣きたくなってきた。いや乙成くん涙腺緩くてガチで泣きそうかも。
「本当にごめん。下心込みのちょっとした冗談のつもりだったんだけど、俺が間違ってた」
呆れてしまったのだろうか。そう言う浅黄の顔が、先程よりも曇ったような気がする。
「ううん。僕がちゃんと出来なかったから。でも別に嫌だったわけじゃないよ?」
これで終わりになってしまったら困る!と、俺は慌てて言い訳を積み重ねる。なんてったって、まだ読モお薦めのモテる服も買えていないし、女の子も紹介してもらっていないからである!
浅黄に握りしめられている両手は、ちょっと痛いくらいだけど、それくらい我慢してみせる。次こそ頑張るからまた今度ね、と愛想笑いで誤魔化しを試みると浅黄が固まってしまった。
「えーと、これは棚ぼたってことかな? 優ちゃん頑張ってくれるんだ?」
「う、うん。上手に出来るかわからないけど。僕にやれそうなら、頑張ってみたいな」
改めて確認されると、浅黄が満足するようなノリツッコミ出来るのか、不安になってくる……。え、素人相手にそんな完成度高いのは求めてないよな?
そわそわしながら浅黄の様子を伺うと、急にしゃがんでぶつぶつ言い出したんだが。おいおい、大丈夫かよ。
そっか~え~マジか~って、ごめん。何が?
いきなり怪しい挙動の浅黄にちょっと引いていると、持ち直したのか無事立ち上がってくれた。
「優ちゃんありがとう。こんな騙すような形じゃなくって、これからはもっと正攻法でいくことにするよ。次はこんな所じゃなくて、ちゃんとした場所で頑張って見せてね♡」
ちゃ、ちゃんとした場所とは?!
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