乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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プロローグ ~俺と女神と僕~

新しい「僕」

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「ああ、お手洗いでしたら病室を出て、右手に進んだ突き当たりにありますので、そちらをご利用ください」
「は、はい。ありがとうございます……」

 にこにこと素敵な笑顔を向けられて、どうも調子が狂ってしまう。果たして今まで生きてきた中で、何もしていないのにこんなにも好意的な応対をしてもらったことがあっただろうか。
 妙な居心地の悪さにそわそわと目を泳がせているが、それすらも「あらまぁ♡」って具合に見守られるって、どういう状況??

「こほん。それではお母様、お帰りになる際は一度サービスカウンターにお越しいただいて、お手続きだけお願い致しますね」
「はい、ありがとうございます。お世話になりました」

 事務的な話が終わると、看護師のお姉さんはぺこりと一礼して病室を出て行く。まだ母と呼ぶには慣れない美女を確認すると、先ほど受け取ったらしい書類を片手に、帰り支度を始めていた。

「それじゃあ、ママは先に手続き終わらせて来るわね」
「あ、うん。僕もトイレ行ってくる」

 部屋の隅に置かれていた、おそらく俺の靴だと思わしき物を履いて、病室の外へと歩み出る。

(不思議だな……なんだか身体も軽く感じるし、目線も低い、気がする……)

 視界に入る身体のパーツが、全てひと回りは小さくなっているようだ。端々から感じられる違和感に、本当に別人になったのかもしれない、という気持ちが強くなる。ともあれ、まずはこの目で今の自分を確認しなければ。
 そうして辿り着いた、トイレに設置されている手洗い場。そこにある鏡に映った姿を見て、俺は思わず放心した。


「これが……僕……?」


 先ほど会った、新・母の面影の感じられる、まさに"可愛いお顔"がそこにはあった。小ぶりな頭にバランス良く配置されたパーツ。クリっとした大きな瞳に、スッと通った鼻筋。口元は、なにも塗ってはいないだろうが、ツヤツヤで血色のいいピンク色だ。ふわふわと柔らかそうな髪の毛は少し癖っ毛なのだろうか? 思わず触れてみたくなる質感をしている。うーん、語彙力。

「鏡と、おんなじ動きしてる……これ、本当に僕なんだ。信じられない……」

 触れてみたくなった髪の毛を弄りながら、回ったり、手足を動かし確認する。この鏡の中の人物は確かに自分なのだ。
 そうやって少しずつ現実を受け入れていくが、なんだか口調がおかしい気がしてならない。俺の勘違いじゃないよな? こうやって頭で考える分にはいいのだが、それを口に出そうとすると、実際に出る言葉が変わるのだ。僕ってなんだよ、僕って。
 鏡に映る相手の発言だと思えば、決しておかしいとは思わない。しかし、それが自分の言葉なのだと考えると、違和感しか残らない。

(これはもう、慣れるしかないのかな……?)

 しばらくの間、「僕」のことを「俺」だと認識するのは難しそうだが、これからずっとこの姿で生きていくのなら、いつかは慣れるだろう。よくある異世界転生物だと思って、受け入れるしかない。こういう時の、オタクの順応力を舐めるなよ。



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