10 / 162
プロローグ ~俺と女神と僕~
新しい「僕」
しおりを挟む「ああ、お手洗いでしたら病室を出て、右手に進んだ突き当たりにありますので、そちらをご利用ください」
「は、はい。ありがとうございます……」
にこにこと素敵な笑顔を向けられて、どうも調子が狂ってしまう。果たして今まで生きてきた中で、何もしていないのにこんなにも好意的な応対をしてもらったことがあっただろうか。
妙な居心地の悪さにそわそわと目を泳がせているが、それすらも「あらまぁ♡」って具合に見守られるって、どういう状況??
「こほん。それではお母様、お帰りになる際は一度サービスカウンターにお越しいただいて、お手続きだけお願い致しますね」
「はい、ありがとうございます。お世話になりました」
事務的な話が終わると、看護師のお姉さんはぺこりと一礼して病室を出て行く。まだ母と呼ぶには慣れない美女を確認すると、先ほど受け取ったらしい書類を片手に、帰り支度を始めていた。
「それじゃあ、ママは先に手続き終わらせて来るわね」
「あ、うん。僕もトイレ行ってくる」
部屋の隅に置かれていた、おそらく俺の靴だと思わしき物を履いて、病室の外へと歩み出る。
(不思議だな……なんだか身体も軽く感じるし、目線も低い、気がする……)
視界に入る身体のパーツが、全てひと回りは小さくなっているようだ。端々から感じられる違和感に、本当に別人になったのかもしれない、という気持ちが強くなる。ともあれ、まずはこの目で今の自分を確認しなければ。
そうして辿り着いた、トイレに設置されている手洗い場。そこにある鏡に映った姿を見て、俺は思わず放心した。
「これが……僕……?」
先ほど会った、新・母の面影の感じられる、まさに"可愛いお顔"がそこにはあった。小ぶりな頭にバランス良く配置されたパーツ。クリっとした大きな瞳に、スッと通った鼻筋。口元は、なにも塗ってはいないだろうが、ツヤツヤで血色のいいピンク色だ。ふわふわと柔らかそうな髪の毛は少し癖っ毛なのだろうか? 思わず触れてみたくなる質感をしている。うーん、語彙力。
「鏡と、おんなじ動きしてる……これ、本当に僕なんだ。信じられない……」
触れてみたくなった髪の毛を弄りながら、回ったり、手足を動かし確認する。この鏡の中の人物は確かに自分なのだ。
そうやって少しずつ現実を受け入れていくが、なんだか口調がおかしい気がしてならない。俺の勘違いじゃないよな? こうやって頭で考える分にはいいのだが、それを口に出そうとすると、実際に出る言葉が変わるのだ。僕ってなんだよ、僕って。
鏡に映る相手の発言だと思えば、決しておかしいとは思わない。しかし、それが自分の言葉なのだと考えると、違和感しか残らない。
(これはもう、慣れるしかないのかな……?)
しばらくの間、「僕」のことを「俺」だと認識するのは難しそうだが、これからずっとこの姿で生きていくのなら、いつかは慣れるだろう。よくある異世界転生物だと思って、受け入れるしかない。こういう時の、オタクの順応力を舐めるなよ。
13
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。
丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。
イケメン青年×オッサン。
リクエストをくださった棗様に捧げます!
【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。
楽しいリクエストをありがとうございました!
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる