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4月
友達は多いほうがいい
しおりを挟むクラスが違うミユとは廊下で別れ、浅黄と二人で自分たちの教室へと向かう。
「はよーー」
「浅黄おっすー」
「おはよー!」
勝手知ったる様子で先に教室へと入っていく浅黄。
進学校である我が高校にはクラス替えがない。ゲームならではの、システム上の都合なのかもしれないが、この世界では三年間同じクラスで勉強をすることが、常識になっているようだった。
浅黄には一年を共に過ごしてきた級友たちでも、俺にとっては今日初めて会うクラスメイトばかりだ。これから始まる乙成くんとしての新生活。最初が肝心である。実をいうと少し気になる記憶があるのだが……まずは、元気よく挨拶から始めよう。浅黄の後ろについて歩きながら、教室へと足を踏み入れて第一声。
「お、おはようっ」
なんの変哲もない、朝の挨拶。それなのに俺がそう言った瞬間、教室内の空気がざわりと変わった。
驚きに目を丸くしたクラスメイト達。浅黄ですらぽかんと呆けた顔をして、こちらを振り返っている。あからさまに囁き合っている人たちもいて、俺の挨拶に言葉を返してくれる相手はいなかった。聞こえていないわけではないと思うが、困惑しているのがありありと伝わるその様子に、俺の不安が現実だったことを知る。
(ああ……、やっぱり……――)
気になる記憶とは、乙成くんがクラスで浮いた存在だということ。
暴力を受けたり、物を隠されたり、そういう直接的ないじめを受けているわけではない。それでもクラスメイトが数十人いる中で、話しかけてくるのが浅黄だけ。浅黄が仕事で居ない時には、校内で一言も発さない日があるくらいという孤立っぷり。
乙成くんはそれを特に気にも留めていなかったようだけど、明らかに異常な環境だと思う。
まさか乙成くんほどの容姿をもって、陰キャポジにいる……という記憶がどうしても信じられなかったのだが、こうして突き付けられた現実を俺は受け入れなくてはならない。今までこちらが周りに関心を持ってこなかったのも原因の一つだとは思うが、これからは俺の目的を達成するために、交友関係も広げていかないといけないからな。少しずつでもクラスメイトと仲良くならなければ。
「えっと、おはよう……?」
「ひぇ!? は、はい!!!!!」
隣の席の男子に、にこりと笑顔を振りまいて挨拶をするも玉砕。
いやいや、ひぇって何? はいって??
おはようって言ったら、おはようって返してくれよ!
ついには椅子から転げ落ちたクラスメイトを見て、頬を引き攣らせながら、俺は小さくため息をついて自席に座る。記憶にないから本当に分からないんだけど、乙成くん、君はいったい何をしたんだい……。
「ゆ、優ちゃん今日は本当にどうしたの? 熱でもある?」
「…………ない。僕が挨拶をするのって、そんなに変かな……?」
乙成くんはどれだけ無言を貫いてたんだ。挨拶しただけで天変地異の前触れかのように驚かれるって、どういうことなの?
元々がコミュ力最弱のガチオタ・俺にとっては、このドン底の状態から這い上がるのは、かなりの高難易度だぞ。想像以上の状況に、今後が思いやられて涙が出そうだ。
「いや、変ってことはない……ってこともなくて。今まで優ちゃんが自分から話しかける事ってほとんどなかったから、みんな驚いているだけだと思うけど……」
うん。めちゃくちゃ気をつかってくれてるよね。ありがとう浅黄。お前は良いイケメンだな。
「……僕が話しかけても迷惑じゃない? これまでは……上手く話せなかったけど、みんなと仲良くなりたいんだ……」
それに比べて俺ときたら。こうして突然の奇行にも理由があるのだと、言い訳がましく呟くことしか出来ない。俺の話題のレパートリー、挨拶と天気の話とゲームのことくらいだもんな。
「迷惑なんてことないよ! な、なぁ!? みんなそうだよな!?」
自分の不甲斐なさにどんどん小さくなる声。浅黄が大きな声で周りに問いかけると、クラスメイト達がうんうんと肯首する。こんなところでも、人気者と陰キャの違いを感じてしまう俺は、心が狭いのだろうか。
「……ほんと…………?」
「ん゛……っ! うん、もちろん!! あ、そうだ。そしたら今日は俺と親睦深めちゃう? 放課後ショッピングモールで服でも見て帰ろうよ♡ なぁ~んて……」
「っえ! いいの!?」
「んぇ!?」
「行きたい! 放課後、お買い物……っ」
友達と放課後に寄り道だなんて、今まで一度もしたことないぞ!
浅黄とも仲良くなるチャンスだ。これは行くしかないでしょう。
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