乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

文字の大きさ
上 下
19 / 162
4月

はじめまして!同級生くん

しおりを挟む


「優くんおはよう~。ちゃんと寝られましたかぁ?」
「うん。ちょっといろいろ考えてて遅くはなったけど……ぐっすり寝られたよ」
「それならよかったぁ。さ、私達は同じ高校ですから。記憶はあると思いますが、初日くらい一緒に行きましょう~」

 そう。前の世界では春休みに入ったばかりだったが、こちらの世界は今日から新学期なのだ。俺だけ春休みをスキップしてしまったようで、なんだか損した気分である。

(まぁ、もう一回高校二年生を出来るわけだし。人より長く高校生活を楽しめるんだから、それくらい我慢我慢……)

 ミユと一緒にとりとめのない話をしながら歩く通学路は、いつもの味気ないものとは違って、あっという間に学校まで辿り着いてしまった。

 あーーいいなぁ、女の子と並んで登校。
 隣を歩くミユの姿を盗み見て、幸せを噛み締める。これが彼女だったらもっと最高なんだけどなぁ……。そんなことを考えていると、校門を抜けたところで後ろから、ハイテンションな声とともに誰かに抱きつかれる。

「優ちゃ~ん♡ おっはよー♡」
「っわぁ?!」
「今日も可愛いねぇ。いつデートしよっか? 今日の放課後とかどう? 仕事入ってないし俺は大丈夫だけど♡」
「び、びっくりしたぁ……浅黄あさぎくんおはよう」

 補足しておくと、朝からこちらが引くほど高いテンションで絡んできた、この男子のことを俺は知らない。
 このウザ絡みが初めましてなのだが、乙成くんの記憶がこれまでの関係性と合わせて、情報を補完してくれているのだろう。すんなりと名前が出てきたし、なるほど、この言動に関してはスルーでいいわけね。

「浅黄くん、私がいるのも忘れないでくださいよぉ?」
「おっと、もちろん忘れてなんていないよ。ミユちゃんおはよ♡ いつもと少し雰囲気が違う気がするけど……あ、リップ変えた? すっげー似合ってる!」
「ふふ、おはよう~。そうなんですぅ、さすがですね~♡」

 彼の名前は浅黄壱成あさぎいっせい。例にも漏れず美形なこいつは、明らかに攻略対象の一人であることは間違いない。誰が見てもイケメンな顔を武器にして読者モデルをしている浅黄は、女性読者のみならず、意外にも男性読者からの支持もあるらしい。ゆくゆくは芸能界に入るのでは? と囁かれている有望株だ。

 なるほど。しっかりとセットしているだろうに自然な感じで見える髪型は、上級者のテクニックに違いない。襟足を刈り上げているところなんてまさにパリピって感じだし、赤い髪色がチャラさを際立てているが、こういうヘアスタイルが女性にモテるポイントなのかもしれない……参考にしよう。

「ゆ、優ちゃん……? どうしたの? そんなに可愛い顔でじーっと見つめられちゃうと、さすがに俺も照れちゃうんだけど、なぁ……」
「あっ、ごめん。浅黄くんが格好いいのってなんでかなぁって、考えてたの」
「へ?!?!」

 そして自分が女性にモテるための分析をしていた。というところまでは、ミユがいる手前口には出さなかったが、別に変なこと言ってないよな? どうせ格好いいなんて言われ慣れてるだろうし。男から褒められたところで「当り前じゃ~ん」くらい言われるかな、と思っていたら、意外にも浅黄は顔を赤くして照れていた。

「ゆ、優ちゃんがそんな風に言ってくれるの珍しいね?」
「そうかな? いつも思ってたよ。僕、浅黄くんとお友達でよかった」

 なんてったって、俺の作戦にはイケメンの友達が必要不可欠なのだ。乙成くんおれ自身の魅力で女の子を惹きつけられるようになるまでは、攻略対象たちのおこぼれがすべての希望。よろしく頼むよ、浅黄くん。
 万感の思いを乗せた笑顔でごまをすると、さっと顔をそむけた浅黄は、ミユを引っ張って少し離れたところに行ってしまう。

 えっ、えーーー???
 ちょっとあからさま過ぎた? やっぱお前は最高のダチだぜ! みたいな気持ちで言ったんだけど、乙成くんの口調だと、ずいぶん優しい言い回しになるからなぁ。

「ちょちょちょ、ちょっと! ミユちゃん! 優ちゃんってばどうしちゃったの?! 顔が可愛いのは前からだけど、なんか言動の可愛さに磨きかかってない?!」
「さぁ~? 学年が変わって心境の変化でもあったのかもしれないですねぇ♡」

 ミユと浅黄がぼそぼそと話し合っているが、よく聞こえないな。
 仲間外れにされて少し寂しいけど仕方ない。少しずつ距離を縮めていくしかないんだから、これからは浅黄ともっと仲良くなれるように頑張っていくぞ!



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

弟の可愛さに気づくまで

Sara
BL
弟に夜這いされて戸惑いながらも何だかんだ受け入れていくお兄ちゃん❤︎が描きたくて…

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

処理中です...