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4月
はじめまして!同級生くん
しおりを挟む「優くんおはよう~。ちゃんと寝られましたかぁ?」
「うん。ちょっといろいろ考えてて遅くはなったけど……ぐっすり寝られたよ」
「それならよかったぁ。さ、私達は同じ高校ですから。記憶はあると思いますが、初日くらい一緒に行きましょう~」
そう。前の世界では春休みに入ったばかりだったが、こちらの世界は今日から新学期なのだ。俺だけ春休みをスキップしてしまったようで、なんだか損した気分である。
(まぁ、もう一回高校二年生を出来るわけだし。人より長く高校生活を楽しめるんだから、それくらい我慢我慢……)
ミユと一緒にとりとめのない話をしながら歩く通学路は、いつもの味気ないものとは違って、あっという間に学校まで辿り着いてしまった。
あーーいいなぁ、女の子と並んで登校。
隣を歩くミユの姿を盗み見て、幸せを噛み締める。これが彼女だったらもっと最高なんだけどなぁ……。そんなことを考えていると、校門を抜けたところで後ろから、ハイテンションな声とともに誰かに抱きつかれる。
「優ちゃ~ん♡ おっはよー♡」
「っわぁ?!」
「今日も可愛いねぇ。いつデートしよっか? 今日の放課後とかどう? 仕事入ってないし俺は大丈夫だけど♡」
「び、びっくりしたぁ……浅黄くんおはよう」
補足しておくと、朝からこちらが引くほど高いテンションで絡んできた、この男子のことを俺は知らない。
このウザ絡みが初めましてなのだが、乙成くんの記憶がこれまでの関係性と合わせて、情報を補完してくれているのだろう。すんなりと名前が出てきたし、なるほど、この言動に関してはスルーでいいわけね。
「浅黄くん、私がいるのも忘れないでくださいよぉ?」
「おっと、もちろん忘れてなんていないよ。ミユちゃんおはよ♡ いつもと少し雰囲気が違う気がするけど……あ、リップ変えた? すっげー似合ってる!」
「ふふ、おはよう~。そうなんですぅ、さすがですね~♡」
彼の名前は浅黄壱成。例にも漏れず美形なこいつは、明らかに攻略対象の一人であることは間違いない。誰が見てもイケメンな顔を武器にして読者モデルをしている浅黄は、女性読者のみならず、意外にも男性読者からの支持もあるらしい。ゆくゆくは芸能界に入るのでは? と囁かれている有望株だ。
なるほど。しっかりとセットしているだろうに自然な感じで見える髪型は、上級者のテクニックに違いない。襟足を刈り上げているところなんてまさにパリピって感じだし、赤い髪色がチャラさを際立てているが、こういうヘアスタイルが女性にモテるポイントなのかもしれない……参考にしよう。
「ゆ、優ちゃん……? どうしたの? そんなに可愛い顔でじーっと見つめられちゃうと、さすがに俺も照れちゃうんだけど、なぁ……」
「あっ、ごめん。浅黄くんが格好いいのってなんでかなぁって、考えてたの」
「へ?!?!」
そして自分が女性にモテるための分析をしていた。というところまでは、ミユがいる手前口には出さなかったが、別に変なこと言ってないよな? どうせ格好いいなんて言われ慣れてるだろうし。男から褒められたところで「当り前じゃ~ん」くらい言われるかな、と思っていたら、意外にも浅黄は顔を赤くして照れていた。
「ゆ、優ちゃんがそんな風に言ってくれるの珍しいね?」
「そうかな? いつも思ってたよ。僕、浅黄くんとお友達でよかった」
なんてったって、俺の作戦にはイケメンの友達が必要不可欠なのだ。乙成くん自身の魅力で女の子を惹きつけられるようになるまでは、攻略対象たちのおこぼれがすべての希望。よろしく頼むよ、浅黄くん。
万感の思いを乗せた笑顔でごまをすると、さっと顔をそむけた浅黄は、ミユを引っ張って少し離れたところに行ってしまう。
えっ、えーーー???
ちょっとあからさま過ぎた? やっぱお前は最高のダチだぜ! みたいな気持ちで言ったんだけど、乙成くんの口調だと、ずいぶん優しい言い回しになるからなぁ。
「ちょちょちょ、ちょっと! ミユちゃん! 優ちゃんってばどうしちゃったの?! 顔が可愛いのは前からだけど、なんか言動の可愛さに磨きかかってない?!」
「さぁ~? 学年が変わって心境の変化でもあったのかもしれないですねぇ♡」
ミユと浅黄がぼそぼそと話し合っているが、よく聞こえないな。
仲間外れにされて少し寂しいけど仕方ない。少しずつ距離を縮めていくしかないんだから、これからは浅黄ともっと仲良くなれるように頑張っていくぞ!
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