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4月
乙成優太の新生活
しおりを挟む「うぅ……見慣れないな……」
朝、鏡を見つめて溜息をつく美少年が一人。
――俺である。
ミユの言っていたとおり、家の場所や間取りはこれまで自分の住んでいた家と変化が無かった。多少の家具や、小物などに違いはあったが誤差の範囲だろう。
住みなれた我が家ではあるはずなのに、ここまで違和感を感じてしまうのは、自分の顔が今まで見た事がないレベルで可愛いからだと思う。
乙成くんの髪型は、前髪からサイドが少し長めになったヘアスタイルのため、ショートカットの女の子だと言われたら、ほとんどの人が信じてしまうはずだ。過去の記憶を辿ると、乙成くん自体は身なりに関して、特に深いこだわりはなかったみたいに思う。適当な髪型にしたり、趣味じゃない服を着たりすると、母さんが激しく反対をしてくるため、その対応が面倒で好きに着せ替えられていた、ようだ。
(なんていうか、無気力? っぽいんだよなぁ……)
こんなに綺麗な顔に生まれたのだから、もっと人生を謳歌していてもおかしくないのに。お助けキャラとしての立ち位置がそうさせるのか、乙成くんの生活は随分とひっそりとしたものだったらしい。
少しずつ乙成くんのことを知っていきながらも、まだまだ全てを己に重ね合わせるのは難しい。特に、これまでの人生でほとんど女性と関わり合いのなかった俺としては、何かしらに映り込んだ美少女然とした自分の姿が視界の端に見えるたび、緊張してしまうのは仕方のない事だと思っている。
ちなみに俺は、母さんの美しさにも全然慣れていない。朝起こしに来てくれた時には、それを現実として受け入れるまでに時間がかかったので、早く起きろと頭を叩かれた。
(せめてもの救いは、お母さんの性格がすごいサバサバしてることかな……)
「優太? なぁに、自分の顔をずっと眺めて。そんなに見つめなくても、今日も優太は可愛いわよ~」
「ちょっと! 可愛いって言わないでってば! ……これから筋トレ頑張るんだから、見ててよね」
「えー……? 筋肉なんていらないわよぉ。せっかくママとパパの良いところを受け継いでくれたんだから。いくら筋トレしても、ゴリゴリになる事はないと思うけど、パパ方の隔世遺伝とかあったら嫌だし~」
そう。乙成くんのお父上はフランス人と日本人のハーフイケメンなのだ。つまり乙成くんはクォーター。
とても仕事の出来る人らしく、総合商社に勤務している父さんは、一年のほとんどは海外に駐在しているため、あまり会う事はできない。リビングに置いてある家族写真、凄いんだぜ? お爺ちゃんお婆ちゃんに至るまで、とにかく家族全員美形揃いなのである。
たしかに、この顔でゴリゴリのマッチョになるのはご遠慮したいが、可愛い可愛いと言われるのもなんとかしたい。
(今のままじゃ、可愛すぎて女の子から敬遠されそう。乙成くんは顔がめちゃくちゃ綺麗だから、このまま身体がしっかりして背が伸びたら、普通に超イケメンになると思うんだよね)
そしたら絶対モテモテになるはず。目指せ父さんのような、ハリウッド俳優風イケメン。絶対に可愛い彼女を作るんだい。俺は諦めないぞ!
一人、薔薇色の未来を夢見ている俺を、母さんが可哀想なものを見る目で見てきたので、気付かないふりをする。気持ち新たに意気込んでいると、玄関のチャイムが鳴った。
「あ、ミユかな。それじゃあ行ってきます」
「気をつけていってらっしゃい。あ、知らない人について行ったらダメよ~」
「行かないよっ!」
高校生にかける言葉じゃないだろ、それ。
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