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プロローグ ~俺と女神と僕~
女神様、再び。
しおりを挟む「えっ?! 君は……」
「うふふ♡ 無事こちらの世界に来られたようですね~」
そこにいたのはこの世界の開発者、もとい、美癒流之命だった。長かったはずの髪の毛はボブになり、現実離れしていた可愛さは、少しだけ人間らしくなった気がするが、間違いない。女神様その人である。
「ところで優くん、そちらの方はお知り合いですかぁ?」
「え……っ、あ……!」
彼女が視線を向けた方を振り返ると、先ほどトイレでしつこかった男がすぐ近くまで来ているではないか。俺と目が合うと、ニコリと人好きのする笑顔を見せて、こちらへと歩いて来るのだが、得体が知れなくて恐ろしさが増す。
「い、いや、知らない人……だと、思う……」
「なるほどぉ。う~ん、初期設定ミスっちゃいましたかねぇ」
男にビビって動くことができない俺をその場に残し、あとで確認しておきます~と、朗らかに笑った女神様は、なんの戸惑いもなく男へと向かって行った。
「み、美癒流之命……っ、危ないよ……?!」
絶対やばいやつなのに、可愛くて華奢な女の子が相対するなんて危険すぎる! そう思って腕を引くのだが、その手を美癒流之命は優しく振り解いてしまう。
「ふふっ、大丈夫ですよぉ♡」
笑顔を崩さないままに、男の前へと進み出る女神様。一瞬怪訝な顔をした男だったが、美癒流之命の顔を見るとぽぉっと頬を染めた。
わかるよ。めちゃくちゃ可愛いよな。
「さぁモブさん。まだ貴方の出番にはヒーローが足りないんです~当て馬は当て馬らしく、出所を間違えてはいけませんよ……♡」
「…………はい……」
女神様が相手の額をトン、と突くと、男はびくんっと身体を跳ねさせた後、ふらふらと何処かへ去って行った。
「な、なんだったんだ……」
「デバッグ不足ですねぇ。失礼しました~」
てへ♡ っと笑う姿はたいそう可愛らしいのだが、あれは本当に大丈夫なのか? なんか人やら壁やらにぶつかりまくってるんだけど。
男の様子が気になる俺を尻目に、女神様は俺の背中を押しながら、どこかへ連れていこうとする。
「さぁ! もう大丈夫ですぅ。行きましょ~」
「えっ、え? あの人は放っておいて平気なの!?」
「ちゃぁんとお話しして、自分の役割を思い出していただいたので、もう平気ですよ~♡ 優くんの魅力値が想定以上に高くなっていたみたいで、怖い思いをさせてすみませんでしたぁ」
「魅力値……?」
いや、一応言葉の意味は分かるんだけど、俺の魅力値とあの男の異変になんの相互関係が……?
質問と回答を上手く結びつけることができず、さらに首を傾げていると、向かった先の少し離れたところで、新・母がキョロキョロとあたりを見回していた。誰か探しているのだろうか、と眺めていると俺と目が合った途端に、慌てたようにこちらへ駆け寄ってきた。
「優太! 貴方、一体どこにいたの? 電話しても出ないし、心配したじゃない」
「あ、えっ?! ご、ごめんなさい……」
誰かっていうか、そりゃ探すなら俺のことだよな。まだまだ、他人行儀が抜けなくて申し訳ない。心配をかけてしまったようなので、ここは素直に謝ろう。
「おばさま、優くんはまだ本調子じゃないみたいなので、私が一緒に帰りますわ。たしかどこか寄るところがあるんですよね~?」
「あら、そう……? お夕飯の買い物をして行きたかったんだけど、ミユちゃんが一緒なら、お任せしちゃおうかしら。なんだかこの子、いつも以上にぼんやりしているというか。ぽやぽやしていて、ちょっと心配なのよねぇ」
そりゃあ人格が変わってるからだろうな、とは思うけど、そんなこと言えない俺は、はははと乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。
「よかったわね~優しい幼馴染が来てくれて。そしたらママは先に行くわ。寄り道しないで帰るのよ? ミユちゃん、何かあったら連絡してね」
「はぁい。おばさまもお気をつけて~♡」
女神様に見送られ、新・母の背中が遠くなってから、俺は隣にいる少女へ、矢継ぎ早に質問を投げかける。
「ねぇ、僕と美癒流之命は幼馴染なの……? 僕はヒロインの幼馴染ポジってこと?」
「優くん、私この世界では"神崎ミユ"っていう名前があるんですぅ。真名で呼ぶのはお控えくださいね~」
「あ、ごめん。って、そうじゃなくて! ちょっといろいろ情報が足りなくて……この世界と僕について、もう少し詳しく教えてくれないかな?」
上手く立ち回ろうにも、圧倒的な事前知識不足である。せっかくこの世界の創造主が現れたんだから、しっかり教えてもらわないと。
「そうですよねぇ。ミユもそのつもりで来たんですよ~♡ とはいえ、ここでお話しするのも少し味気ないですし、よかったらお外を歩きながらにしませんかぁ?」
「うん、いいよ」
「やったぁ~じゃあ行きましょう♡」
女神様……いや、ミユは頷いた俺の手を引いて歩き始める。女の子と手を繋ぐのなんて初めての俺は、それだけで顔が熱くなってしまう。
こ、これって……周りの人にカップルだって勘違いされちゃうんじゃ……。あ! ほら、待合スペースの椅子に座ったお婆ちゃんが、微笑ましそうにこちらを見ている!
「あらあら、仲良しなのねぇ。二人ともとっても可愛いお嬢さんだわ」
……………解せぬ。
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