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プロローグ ~俺と女神と僕~
開発者さん、出てきてください!
しおりを挟む次に考えるべきは、この世界についてだ。
重度のゲームオタクを自称する俺は、ありとあらゆるゲームをプレイしてきたつもりだ。RPGにADV、シューティングゲームから音ゲー、スポーツ系にボードゲームまで。中には恋愛シュミレーションだって含まれる。
「たしか、美癒流之命は"乙女ゲームの世界"って言ってたんだよね……」
乙女ゲームとは、女主人公が数多のイケメンと仲良くなり、最終的には結ばれることを目指して生活をしていく恋愛シュミレーションゲーム。多少の語弊があるかもしれないが、ざっくり説明をしたらそんな感じだろう。そのゲームの性質を考えると、たしかに夢見る女神様が作る世界の基盤としては、シンプルでわかりやすいのかもしれないと思う。
俺自身の恋愛嗜好がノーマルのため、好んで選ぶのは基本的にギャルゲーがほとんどだった。それでもゲームオタクの嗜みとして、乙女ゲームもやったことがある。初めは冗談半分でプレイしていたそれも、いつしか女主人公に感情移入するようになり、男の身でありながらも攻略対象の一挙手一投足に、毎度ときめきを覚えたものだった。
(でも乙女ゲームの美形キャラって、基本的に攻略対象のはずだよね?)
鏡に映るのは、そこいらの女子が泣いて逃げ出すような、稀に見る美少年だ。可愛い顔をして実は腹黒……みたいなキャラが人気だと聞いたことがあるけど、そういう立ち位置なのだろうか。
この世界のヒロインは美癒流之命。だけど、物語の当事者になりたくなくて、俺を連れてきたって話だったはず。うーん、ヒロインとは別の友達枠の女子と恋愛出来るってことなのか? よく分からんな。
「なぁ、君……ーー」
鏡の前でうんうんと唸っていると、いつの間にか背後に他の利用者がいたことに気付く。おっといけない。考え事に夢中になって、この場所を占拠してしまっていた。
「っ、あ! ごめんなさい……っ」
「え? あぁ、いや、そうじゃなくて……」
さっと横に移動して場所を空ける。慌てて謝った俺に、声をかけてきた男は、少しだけ困ったような様子を見せる。よくよく考えると、隣にもいくつか手を洗う場所はあったので、俺が一つくらい占領していても困ることはないのだ。しかし、ではなぜ声をかけられたのだろう? と首を傾げていると、熱に浮かされたような、どこかぼんやりした顔の男が一歩、また一歩と近づいてくる。
「あの、さ。ずっとここで俯いてたから、体調が悪いのかと思って」
いやいやそれを言うなら、貴方こそ顔が真っ赤なんですけど。熱でもあるんじゃないの? よく見たら目も血走ってないですかね。
「ええと、僕は大丈夫です。お気になさらず」
「いやでも無理は良くないよ! どこかで休んだ方が良いんじゃないかな?!」
「えぇっ? あの、ちょっと考え事をしてただけで、大丈夫です……っ」
なんかこの人、異様に距離が近いな? 大丈夫だって言ってるのにしつこいし、うわっ。手を握ってきたぞ?!
相手が近づいて来る度に、こちらも少しずつ後ろに下がるのだが、ついに壁際まで追い込まれてしまう。どうして俺は病院のトイレで、見ず知らずの男に手を握られているんだ? それともこの人も「俺」が知らないだけで、実は知り合いだったとか?
「何か悩んでるの? 俺でよければ話を聞くよ。お茶でも飲みながらさ、なんなら家まで送るし」
いやいやいや。知り合いだったとしても怖すぎるわ! 息がかかりそうなほど近寄って来る男に、嫌悪感に合わせて恐怖が募る。
なんなのこれ! どういう仕様?
ちゃんと説明してくれ女神様!!!
兎にも角にも、行き過ぎた親切は迷惑でしかないということが分かる。きつく握り締められた手をなんとか振り解き、俺は男から逃げるように離れた。
「あ、あの、本当に大丈夫なので……!」
「あっ! 待って……!」
誰が待つか! 知り合いだったとしたら、あとでちゃんと謝るから。今は一人にさせてくれっ!
しつこい男を撒くべく、俺はとりあえず人の多いところを、縫うようにして逃げていく。ちらちらと背後を気にしながら、小走りで進んでいると、いつの間にか総合受付の近くまで来ていたようだ。ここなら人目も多いし、変なことをされる事もないだろう……と胸を撫で下ろしていると、突然肩をポンッと叩かれた。
「ひゃわっ?!?!」
ーーまさかあの男に追いつかれて……?
恐るおそる背後を確認すると、そこに居たのは思いもよらない人物だった。
「やだぁ、優くんったら。おかしな叫び声~♡」
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