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プロローグ ~俺と女神と僕~
どこかで聞いたことのあるフレーズですね
しおりを挟む嘘みたいに大量の花吹雪に襲われ、思わず足を止めて顔を覆ってしまう。呼吸をすることすら苦しいぐらいの風が吹き荒れた。
な、なんだ……!? 一体何が起こってるんだ……!?!?
口を開けば花弁が飛び込んでくるので、叫び声をあげることすらできない。俺はただひたすらにその場に立ち竦み、この謎の暴風が落ち着くのを待つしかなかった。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。ようやく世界が落ち着きを見せ始めると、ピンクに染まっていた視界が開けてくる。
「び……っくりしたぁ。なんだったんだ……?」
ふと気づけば、足元は花びらまみれになっていた。この辺に桜並木なんてあっただろうか。一体どこから飛んできたのかと何気なく辺りを見渡せば、少し進んだ所に数十段はあるだろう石段と鳥居があるのを見つけた。
「あれ。こんな所に神社? なんてあったっけ?」
ここはいつも通っている通学路。見慣れた景色のはずだった。特に意識をせずに歩いていた道ではあるけれど、少なくとも二年間は通っているのだ。ここまで存在感のあるものに今まで気付かないことなんてあるのだろうか、と首を傾げる。
さっきまで遅刻しそうだと慌てていたはずなのに。その時の俺は、何故だかその事をすっかり忘れて、目の前に突然現れた不思議な場所へと、吸い寄せられるように歩を進めていた。
「美癒流神社……」
石段を登り切り鳥居をくぐると、こじんまりとした神社が在った。賽銭箱の上には木彫りされた神社の名前が飾られている。口に出して読んでみても、やはりそんな名前の神社は聞いたことがなく、謎が謎を呼ぶばかり。近くにちょこんと備え付けられた立て看板は、どうやらこの神社に関する説明が書かれているようだった。
「えーと、なになに……『当社のご祭神"美癒流之命"は、人々の傷ついた心を癒し、美しく流れる川の如く良縁へと導き結ぶ。古くより縁結びの神として信仰されております』……ね」
別に俺自身、ものすごく何かを信仰しているようなわけでもない。しかし、ごく一般的な日本人であるため、困った時は決まって神頼みだ。こうして神社に来る機会があるのなら、何かお願いごとでもしてみようかな? と都合のいい時だけ当てにしてみたりね。まぁ、その相手がキリストなのか仏なのか、はたまた八百万の神なのかなんて事までは考えたりしないけど。
今回だって「叶えたい何か」があって、ここに来たわけではない。それでも、せっかくここまで登り切ったんだから、ととってつけたような理由を言い訳のように考えながら、願い事を捻りだす。
そうだなぁ。縁結びの神様だというのなら、いまだ影も形もない"恋人"というものについて頼んでみるか。
「縁結びだったら、やっぱり五円玉か? ちょうど十円もあるし、充分にご縁がありますように……っと」
――チャリチャリンッ
縁起の良さそうな語呂合わせで小銭を選び、賽銭箱に向けて放る。静かな境内に、軽やかな音が鳴り響いたのを聞いて、俺は手を合わせて目を閉じた。
「えーーー神様。美癒流之命様。どうか最後の高校生活こそは素敵なお相手に出会えますように……。あわよくば、ゲームの世界みたいにいろんなタイプの子と仲良くなっちゃったりして、ドキドキワクワクなハーレム生活を送ってみたりしたいです! むしろテンプレキャラたちとたくさん出会ってウハウハしたいです! めちゃくちゃ恋したいです!!!!!」
清々しいまでに欲望にまみれた願い事。
思わず最後の方は力が入り、叫ぶように祈った願いは果たして神様に届いたのだろうか。
「ははは、なぁんてな……」
誰もいないし構わないだろうと思っていても、冷静になれば馬鹿みたいな願ってしまったと恥ずかしくなる。誰に聞かせるでもなく、乾いた笑いを交えて冗談めかしたその時。どこからともなく不思議な声が聞こえてきた。
――その願い、叶えてしんぜよう……♡
「へ?」
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