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第34話 守りたい
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「コイツを頼む…」
まだ動ける様子のアロイに、ハロルドはシアンを預けた。
そして、再び剣を構える――
シアンはもう動けない。アロイは片手で弱々しく剣を振るうのがやっと。
今の今まで二人に頼りっきりだったハロルドは、ここにきて一人になった。
戦えるのは彼だけ…
だというのに、奴等を見据えた彼の瞳は強く、今度は腰が引けていなかった。
勝機があるわけではない。
奴等を倒せる自信も無い。
このままでは恐らく、三人まとめて死ぬのだ。奴等に食われて死ぬ。
こうして奴等に囲まれ、逃げ道も無い。
追い詰められている。
だというのに…
今の彼には、奴等に対する恐怖など無かった。
「うわぁああああああっ!!!」
ハロルドは叫び声を上げながら、奴等の内の一匹に斬りかかる。
それは、力任せに剣を振るうだけの、なんとも無様なものだった。
――チッ
剣先が、奴等の顔を掠める――
当たらない…
尚も剣を振るう。
「うぁあ!!」
――ブジュッ
肉を切り裂いた感触。
今度こそ命中した。
しかし、殺すには至らない。
斬りつけた奴に突き飛ばされてしまう。ハロルドは尻餅を着いた。
その様子を見て、ギヂヂッ!――と奴等は騒ぎ出す。
彼の無様な姿を嗤っているのだろうか。
ハロルドは立ち上がって、また剣を振るった。
斬りつけ、突き刺し、奴等に突き飛ばされる。
その度に奴等は嗤った。
彼を殴り、爪で引き裂き、いたぶった。
まるで玩具で遊ぶかのように…
それでもハロルドは立ち上がる。
何度も。
(何してるんだ僕は…)
自分でも馬鹿だとわかっている。
こんな数の相手に適うはずが無い。
それでも剣を振るわずにはいられない――
ショックだった。
あの二人が、密かに憧れていた彼等が、いま自分の後ろで弱々しく転がっている。
まるで物語の中の英雄のようであった二人。
自分の弱さを認めたくなくて、気付かないフリをしていた。
『人間離れしたコイツ等と自分を比べてもしょうがない…』
だが、彼等も自分と同じ人間だった。
自分と同じ、弱い人間なのだ。
――人間は、死ぬ
ハロルドは怖くなった。
奴等に対する恐怖よりも、シアンとアロイが居なくなってしまう事を「怖い」と思った。
二人に居なくなって欲しくない。
二人を死なせたくない。
ハロルドは、シアンとアロイを「守りたい」と思ったのだ――
そして、彼は奴等に立ち向かう。
ただがむしゃらに、何度も――――
一方で、そんな彼を嗤っていたバケモノ共は思う。
――目の前の生き物は、なぜ動きを止めない?
こうしていたぶっているというのに、足を止めるどころか、その勢いは増していく。
そもそも、なぜ動ける?
あれだけ毒を浴びせたはずだというのに――
奴等はハロルドの中にある“異様な何か”を感じ取っていた。
その内の一匹が痺れを切らし、ハロルドに飛び掛かる。
勢いのままに、グバッと大口を開きながら――
ハロルドはソイツを見据えたまま、避けようとしない。
――グジャッ
そのまま彼は、バケモノに飲み込まれた…
かに見えたが、力無く息絶えたのはバケモノの方であった。
ハロルドは、ソイツが飛び掛かってきた勢い合わせ、大口へと腕を突っ込んでいた。
そして、そのままソイツの体の奥深くへと、剣を突き立てたのだ。
ギチギチッと腕を引き抜く…
突き立てた剣は引き抜く事が出来なかった。
無数の鋭い歯に肉を抉られ、彼の腕はボロボロだ…
しかし、尚も彼の瞳はギラギラと光を湛えている。
バケモノ共から見ても、その光景は恐ろしいものであった。
ハロルドは、足元に転がっている白い剣をボロボロの腕で拾い上げる。
シアンが倒れたときに落とした物だ。
それを奴等に向けて突き出した――
「一匹目…」
ハロルドの瞳が琥珀色に輝き出す。
すると彼の腕の傷が、みるみるうちに塞がっていく…
それは、彼の血族の力によるモノであった。
彼の血の前では、毒など意味を為さない。
そして、彼を殺すためには心臓を貫くか、首を切り落とすしかない。
毒も効かない、小さな傷などたちどころに治してしまう生き物。
そう、ハロルドは奴等にとって初めての天敵――
貴き血族の一人。英雄達の末裔――――
まだ動ける様子のアロイに、ハロルドはシアンを預けた。
そして、再び剣を構える――
シアンはもう動けない。アロイは片手で弱々しく剣を振るうのがやっと。
今の今まで二人に頼りっきりだったハロルドは、ここにきて一人になった。
戦えるのは彼だけ…
だというのに、奴等を見据えた彼の瞳は強く、今度は腰が引けていなかった。
勝機があるわけではない。
奴等を倒せる自信も無い。
このままでは恐らく、三人まとめて死ぬのだ。奴等に食われて死ぬ。
こうして奴等に囲まれ、逃げ道も無い。
追い詰められている。
だというのに…
今の彼には、奴等に対する恐怖など無かった。
「うわぁああああああっ!!!」
ハロルドは叫び声を上げながら、奴等の内の一匹に斬りかかる。
それは、力任せに剣を振るうだけの、なんとも無様なものだった。
――チッ
剣先が、奴等の顔を掠める――
当たらない…
尚も剣を振るう。
「うぁあ!!」
――ブジュッ
肉を切り裂いた感触。
今度こそ命中した。
しかし、殺すには至らない。
斬りつけた奴に突き飛ばされてしまう。ハロルドは尻餅を着いた。
その様子を見て、ギヂヂッ!――と奴等は騒ぎ出す。
彼の無様な姿を嗤っているのだろうか。
ハロルドは立ち上がって、また剣を振るった。
斬りつけ、突き刺し、奴等に突き飛ばされる。
その度に奴等は嗤った。
彼を殴り、爪で引き裂き、いたぶった。
まるで玩具で遊ぶかのように…
それでもハロルドは立ち上がる。
何度も。
(何してるんだ僕は…)
自分でも馬鹿だとわかっている。
こんな数の相手に適うはずが無い。
それでも剣を振るわずにはいられない――
ショックだった。
あの二人が、密かに憧れていた彼等が、いま自分の後ろで弱々しく転がっている。
まるで物語の中の英雄のようであった二人。
自分の弱さを認めたくなくて、気付かないフリをしていた。
『人間離れしたコイツ等と自分を比べてもしょうがない…』
だが、彼等も自分と同じ人間だった。
自分と同じ、弱い人間なのだ。
――人間は、死ぬ
ハロルドは怖くなった。
奴等に対する恐怖よりも、シアンとアロイが居なくなってしまう事を「怖い」と思った。
二人に居なくなって欲しくない。
二人を死なせたくない。
ハロルドは、シアンとアロイを「守りたい」と思ったのだ――
そして、彼は奴等に立ち向かう。
ただがむしゃらに、何度も――――
一方で、そんな彼を嗤っていたバケモノ共は思う。
――目の前の生き物は、なぜ動きを止めない?
こうしていたぶっているというのに、足を止めるどころか、その勢いは増していく。
そもそも、なぜ動ける?
あれだけ毒を浴びせたはずだというのに――
奴等はハロルドの中にある“異様な何か”を感じ取っていた。
その内の一匹が痺れを切らし、ハロルドに飛び掛かる。
勢いのままに、グバッと大口を開きながら――
ハロルドはソイツを見据えたまま、避けようとしない。
――グジャッ
そのまま彼は、バケモノに飲み込まれた…
かに見えたが、力無く息絶えたのはバケモノの方であった。
ハロルドは、ソイツが飛び掛かってきた勢い合わせ、大口へと腕を突っ込んでいた。
そして、そのままソイツの体の奥深くへと、剣を突き立てたのだ。
ギチギチッと腕を引き抜く…
突き立てた剣は引き抜く事が出来なかった。
無数の鋭い歯に肉を抉られ、彼の腕はボロボロだ…
しかし、尚も彼の瞳はギラギラと光を湛えている。
バケモノ共から見ても、その光景は恐ろしいものであった。
ハロルドは、足元に転がっている白い剣をボロボロの腕で拾い上げる。
シアンが倒れたときに落とした物だ。
それを奴等に向けて突き出した――
「一匹目…」
ハロルドの瞳が琥珀色に輝き出す。
すると彼の腕の傷が、みるみるうちに塞がっていく…
それは、彼の血族の力によるモノであった。
彼の血の前では、毒など意味を為さない。
そして、彼を殺すためには心臓を貫くか、首を切り落とすしかない。
毒も効かない、小さな傷などたちどころに治してしまう生き物。
そう、ハロルドは奴等にとって初めての天敵――
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