26 / 40
第25話 獣
しおりを挟む
辺り一面どこを見回しても緑、緑…
おまけに奇妙な形の生き物や、見たことも無い植物だらけ。
天辺もわからぬ程の巨大な木々達はいつからここにあるのだろう。その表面はほとんど苔に覆われていた。
彼らが隠しているせいで、上を見上げても空などほとんど見えない。昼間だろうと薄暗い。
そんな樹海の中を行く、影が2つ――
一人の男はとても大柄だ。肌は色黒で、頭は綺麗にハゲあがっている。
その後ろを歩くもう一人の男。前の男とまでは言わないが、彼もそれなりの体格だ。
なんだか特徴的な髪型をしている…
それは、食糧調達中のアロイとハロルドであった。
ハロルドは数ヶ月に渡る地獄のシゴキのおかげで、人並みの筋力と運動能力を手に入れたのだ。
こうして度々外に連れ出されるようになった。
今の彼を見て貧相な身体だと思う者は居ないだろう。
ただ…ご自慢のキノコ頭は髪が伸びきり、ボサボサのおかっぱ頭になっている。
本人はもう気にしていないが、以前のキノコ頭より変であった。
「ここもダメだ。こりゃあ今日も肉は無しだな。」
アロイの仕掛けておいた罠を確認しにきていたのだ。
冒険者だった現役時代に覚えたらしい。
自然物を使った罠。獲物を捕獲するための物だ。
ナイフさえあれば出来るのだとか。
「それじゃあいつもみたいに、木の実やら虫でも集めますかね。」
アロイに付いて食料調達に出たのはこれで何度目になるのだろうか。
最近はもっぱらこんな感じだ。
なんでもここ数ヶ月は『魔物に襲われる頻度も減ったが、獲物に出会う頻度も減った』のだとか。
実のところ、魔物と獲物の違いはわからない。
ここでは見たこともない生き物にしか出会わないからだ。
襲ってくる連中は魔物、食える奴らは獲物と自分たちで勝手に区別しているだけであった。
それとアロイは『ぼっちゃんが居ると不思議と襲われる頻度が増える』とも言っていた。
(僕は魔物から見ても弱そうに見えるのだろうか…)
その話を初めて聞いたとき、ハロルドは軽くショックを受けたのだった。
帰り道――――
「ぼっちゃん…!」
アロイが手を上げる仕草で、ハロルドの動きを止めた。
息を潜め、周囲を見回す…
(あぁ…またか…)
ハロルドは何となく察していた。
しばらくすると辺りの茂みからガサガサッと音が聞こえてくる。キュルキュルという微かな鳴き声も。
奴等だ…
音を聞く限り、すでに四方を囲まれている。
すぐに終わるとわかっていたが、ハロルドは一応剣を構えた。
初めてソレに遭遇したときは、それはもう大げさに狼狽えたのだが…もはや慣れたものである。
アロイはというと…
気味の悪い笑みを浮かべていた。獲物を見つけた獣の様相だ。
ゆっくりと剣に手を掛ける。
その瞬間、茂みから奴等の内の一匹が飛び出した――
――パァンッ!
それと同時に何かが弾ける音が響く――
アロイによるものだ。
目に見えぬほどの速さで、彼の巨体から放たれた一撃。
その衝撃をモロに受けた為、標的の頭部が弾けたのだ。
斬るというより叩き潰した形であった。
ソイツの残骸がゴロンと地面に転がる。
体躯は狼に近い。全身が群青色のウロコに覆われ、首まわりや尾っぽは羽毛のような毛に包まれている。
辛うじて残った頭部は蛇にそっくりだ。
仲間の末路を目の当たりにし、身の危険を感じたのだろう。複数の何かが遠くへ去って行く音がする…
「やりましたぜぼっちゃん!」
これで肉が食える、とアロイは嬉しそうだ。
しかし、ハロルドの顔は冴えない…
彼はこの生き物が苦手であった。
見た目も理由の一つだが、肉が筋張っていて硬い。
そしてなによりものすごく、臭い…
だが、貴重な食料である。贅沢は言ってられない。
対照的な様子の二人。けれども同じ足取りで帰路に着くのであった。
シアンの待つ、三人の住処へと。
おまけに奇妙な形の生き物や、見たことも無い植物だらけ。
天辺もわからぬ程の巨大な木々達はいつからここにあるのだろう。その表面はほとんど苔に覆われていた。
彼らが隠しているせいで、上を見上げても空などほとんど見えない。昼間だろうと薄暗い。
そんな樹海の中を行く、影が2つ――
一人の男はとても大柄だ。肌は色黒で、頭は綺麗にハゲあがっている。
その後ろを歩くもう一人の男。前の男とまでは言わないが、彼もそれなりの体格だ。
なんだか特徴的な髪型をしている…
それは、食糧調達中のアロイとハロルドであった。
ハロルドは数ヶ月に渡る地獄のシゴキのおかげで、人並みの筋力と運動能力を手に入れたのだ。
こうして度々外に連れ出されるようになった。
今の彼を見て貧相な身体だと思う者は居ないだろう。
ただ…ご自慢のキノコ頭は髪が伸びきり、ボサボサのおかっぱ頭になっている。
本人はもう気にしていないが、以前のキノコ頭より変であった。
「ここもダメだ。こりゃあ今日も肉は無しだな。」
アロイの仕掛けておいた罠を確認しにきていたのだ。
冒険者だった現役時代に覚えたらしい。
自然物を使った罠。獲物を捕獲するための物だ。
ナイフさえあれば出来るのだとか。
「それじゃあいつもみたいに、木の実やら虫でも集めますかね。」
アロイに付いて食料調達に出たのはこれで何度目になるのだろうか。
最近はもっぱらこんな感じだ。
なんでもここ数ヶ月は『魔物に襲われる頻度も減ったが、獲物に出会う頻度も減った』のだとか。
実のところ、魔物と獲物の違いはわからない。
ここでは見たこともない生き物にしか出会わないからだ。
襲ってくる連中は魔物、食える奴らは獲物と自分たちで勝手に区別しているだけであった。
それとアロイは『ぼっちゃんが居ると不思議と襲われる頻度が増える』とも言っていた。
(僕は魔物から見ても弱そうに見えるのだろうか…)
その話を初めて聞いたとき、ハロルドは軽くショックを受けたのだった。
帰り道――――
「ぼっちゃん…!」
アロイが手を上げる仕草で、ハロルドの動きを止めた。
息を潜め、周囲を見回す…
(あぁ…またか…)
ハロルドは何となく察していた。
しばらくすると辺りの茂みからガサガサッと音が聞こえてくる。キュルキュルという微かな鳴き声も。
奴等だ…
音を聞く限り、すでに四方を囲まれている。
すぐに終わるとわかっていたが、ハロルドは一応剣を構えた。
初めてソレに遭遇したときは、それはもう大げさに狼狽えたのだが…もはや慣れたものである。
アロイはというと…
気味の悪い笑みを浮かべていた。獲物を見つけた獣の様相だ。
ゆっくりと剣に手を掛ける。
その瞬間、茂みから奴等の内の一匹が飛び出した――
――パァンッ!
それと同時に何かが弾ける音が響く――
アロイによるものだ。
目に見えぬほどの速さで、彼の巨体から放たれた一撃。
その衝撃をモロに受けた為、標的の頭部が弾けたのだ。
斬るというより叩き潰した形であった。
ソイツの残骸がゴロンと地面に転がる。
体躯は狼に近い。全身が群青色のウロコに覆われ、首まわりや尾っぽは羽毛のような毛に包まれている。
辛うじて残った頭部は蛇にそっくりだ。
仲間の末路を目の当たりにし、身の危険を感じたのだろう。複数の何かが遠くへ去って行く音がする…
「やりましたぜぼっちゃん!」
これで肉が食える、とアロイは嬉しそうだ。
しかし、ハロルドの顔は冴えない…
彼はこの生き物が苦手であった。
見た目も理由の一つだが、肉が筋張っていて硬い。
そしてなによりものすごく、臭い…
だが、貴重な食料である。贅沢は言ってられない。
対照的な様子の二人。けれども同じ足取りで帰路に着くのであった。
シアンの待つ、三人の住処へと。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
神よ願いを叶えてくれ
まったりー
ファンタジー
主人公の世界は戦いの絶えない世界だった、ある時他の世界からの侵略者に襲われ崩壊寸前になってしまった、そんな時世界の神が主人公を世界のはざまに呼び、世界を救いたいかと問われ主人公は肯定する、だが代償に他の世界を100か所救いなさいと言ってきた。
主人公は世界を救うという願いを叶えるために奮闘する。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる