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第17話 癒し
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洞穴に光が差している。朝だ。
ハロルドは昨夜、あまり眠れなかった。
気付いた時には白い彼女、シアンが向かい側で膝を抱えながら眠りについていた。
彼女はまた何かを拾ってきたようだ。初日に見たときより見知らぬ物が洞穴に増えている…
ハロルドは彼女との二人きりの空間が怖いので、そそくさと寝床を後にした。
「おはようぼっちゃん」
アロイはすでに起き、何か鍛錬をしているようだった。
彼は自分の巨体に見合わない例の剣を構えている。剣は普通の大きさなのだろうが、彼の大きさと比べると小さく見えてしまうのだ。
その剣を上から真下へ。右上から下へ、左上から下へと振り下ろす。
その剣筋は、まるで同じ時を繰り返しているかのごとく、一切のブレも無しに同じ位置でピタリと止まるのだ。
横への薙ぎ払い、切り上げも同じように。
それがなんだか面白かった。ハロルドはいつの間にか見入っていたのだった。
ハッと我に帰る。
「私も騎士見習いとして修練せねばなぁ」
などと言いながらその場を離れた後も、アロイが剣を振るう姿を遠くから眺め続けたのであった。
食事の後は昨日に続いて『歩く』鍛錬だ。
今日はそれに加えて、何やら段差を延々と昇り降りさせられる事までやらされた。
アロイのうるさい指示に従いながら…
鍛錬の後はもちろん山盛りの虫。
シアンの獲って来たとっておきを、心を殺して消費した。
夜は例の悪夢にうなされながら、目を覚ます。
朝は、アロイの剣の鍛錬を隠れるように遠くから眺めるのが日課になった。
あぁでは無いこうでは無い等と彼の真似をして、ハロルドも剣を振るった。
次の日も、その次の日も――――
◇◇◇◇◇◇
――――そうして数日が経った頃。
「そろそろぼっちゃんも体を動かす事に慣れたでしょう?」
どうやら鍛錬の種類を増やすらしい。
いよいよ来てしまったか…とハロルドは思った。
「こっからはもっと気合を入れてやりましょう。いままでのやつは慣れる為の準備みたいなもんですからね。」
まさにその通りであった。これまでのものは鍛錬ですらない。
洞穴に眠っていた例の無骨な鎧を身に付けさせられる。重い、汚い。
コレを拾ってきたという彼女を、シアンを呪った。
それを身に付けたままこれまでの歩きや昇り降りをさせられるのだ。
体が悲鳴を上げているのがわかる。
辛い。ハロルドは辛かった。
加えて日に日に鍛錬の種類は増えていく。
腕立てやら、腹筋運動やら、屈伸運動というものまで。
生まれて初めてこんなに体を動かした。
歩き以外は鎧を着けずにやってよかったのだが、そのうちソレ等も鎧を着たままやる事となった。
もちろんアロイの暑苦しい指示付きだ。
挫けそうだった。何度も投げ出そうと思った。
『この樹海から生きて出たい。母と妹に会いたい。』という一心で何とか続けた。
そして挫けそうな日に限って、見計らったようにハロルドの好きな果物が食卓に並ぶのだ。
例のブサイクな生き物も。
食べるという行為に頓着の無かったハロルドでさえ、もはや食事の時だけが癒しになっていた。
虫だけは慣れなかったが…
癒しといえば朝の日課もそうだ。アロイの鍛錬を眺め、自らも剣を振るう。
なんだか自分が強くなった気がして、それが愉しかった。
月日は過ぎていく――――
◇◇◇◇◇◇
鍛錬を始めた頃から、二ヶ月程が過ぎていた。
その頃のハロルドはと言うと…
何やら横になりながら縦肘をつき、ボリボリと尻を掻いている。ご自慢のキノコ頭はボサボサだ。
淀んだ目をし、洞穴からアロイ達の様子を眺めている。
彼は、そこで一日のほとんどを過ごしていた…
そう彼は、洞穴に引き篭もってしまっていたのである――――
ハロルドは昨夜、あまり眠れなかった。
気付いた時には白い彼女、シアンが向かい側で膝を抱えながら眠りについていた。
彼女はまた何かを拾ってきたようだ。初日に見たときより見知らぬ物が洞穴に増えている…
ハロルドは彼女との二人きりの空間が怖いので、そそくさと寝床を後にした。
「おはようぼっちゃん」
アロイはすでに起き、何か鍛錬をしているようだった。
彼は自分の巨体に見合わない例の剣を構えている。剣は普通の大きさなのだろうが、彼の大きさと比べると小さく見えてしまうのだ。
その剣を上から真下へ。右上から下へ、左上から下へと振り下ろす。
その剣筋は、まるで同じ時を繰り返しているかのごとく、一切のブレも無しに同じ位置でピタリと止まるのだ。
横への薙ぎ払い、切り上げも同じように。
それがなんだか面白かった。ハロルドはいつの間にか見入っていたのだった。
ハッと我に帰る。
「私も騎士見習いとして修練せねばなぁ」
などと言いながらその場を離れた後も、アロイが剣を振るう姿を遠くから眺め続けたのであった。
食事の後は昨日に続いて『歩く』鍛錬だ。
今日はそれに加えて、何やら段差を延々と昇り降りさせられる事までやらされた。
アロイのうるさい指示に従いながら…
鍛錬の後はもちろん山盛りの虫。
シアンの獲って来たとっておきを、心を殺して消費した。
夜は例の悪夢にうなされながら、目を覚ます。
朝は、アロイの剣の鍛錬を隠れるように遠くから眺めるのが日課になった。
あぁでは無いこうでは無い等と彼の真似をして、ハロルドも剣を振るった。
次の日も、その次の日も――――
◇◇◇◇◇◇
――――そうして数日が経った頃。
「そろそろぼっちゃんも体を動かす事に慣れたでしょう?」
どうやら鍛錬の種類を増やすらしい。
いよいよ来てしまったか…とハロルドは思った。
「こっからはもっと気合を入れてやりましょう。いままでのやつは慣れる為の準備みたいなもんですからね。」
まさにその通りであった。これまでのものは鍛錬ですらない。
洞穴に眠っていた例の無骨な鎧を身に付けさせられる。重い、汚い。
コレを拾ってきたという彼女を、シアンを呪った。
それを身に付けたままこれまでの歩きや昇り降りをさせられるのだ。
体が悲鳴を上げているのがわかる。
辛い。ハロルドは辛かった。
加えて日に日に鍛錬の種類は増えていく。
腕立てやら、腹筋運動やら、屈伸運動というものまで。
生まれて初めてこんなに体を動かした。
歩き以外は鎧を着けずにやってよかったのだが、そのうちソレ等も鎧を着たままやる事となった。
もちろんアロイの暑苦しい指示付きだ。
挫けそうだった。何度も投げ出そうと思った。
『この樹海から生きて出たい。母と妹に会いたい。』という一心で何とか続けた。
そして挫けそうな日に限って、見計らったようにハロルドの好きな果物が食卓に並ぶのだ。
例のブサイクな生き物も。
食べるという行為に頓着の無かったハロルドでさえ、もはや食事の時だけが癒しになっていた。
虫だけは慣れなかったが…
癒しといえば朝の日課もそうだ。アロイの鍛錬を眺め、自らも剣を振るう。
なんだか自分が強くなった気がして、それが愉しかった。
月日は過ぎていく――――
◇◇◇◇◇◇
鍛錬を始めた頃から、二ヶ月程が過ぎていた。
その頃のハロルドはと言うと…
何やら横になりながら縦肘をつき、ボリボリと尻を掻いている。ご自慢のキノコ頭はボサボサだ。
淀んだ目をし、洞穴からアロイ達の様子を眺めている。
彼は、そこで一日のほとんどを過ごしていた…
そう彼は、洞穴に引き篭もってしまっていたのである――――
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