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第13話 果物

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「それじゃあぼっちゃんも詳しいことは覚えてないし、ここがどこかもわからんという事ですね。」

 ハロルドは自分の本来の目的と、目覚めた時には洞窟に居たという事のあらましをアロイに説明したのだった。
「人探ししてたぼっちゃんが迷子たぁ面白いですな」とアロイは笑うのだが、何も面白くは無い。
 使用人や兵士達の話は伏せておいた。それがきっかけであの洞窟に向かうという事になりかねないと思ったからだ。

「一体何なんでしょうな…俺達ゃ三人とも夢でも見てるんでしょうか…」

 アロイにも、この場所へ来た当時の記憶は無かった。
 しかし、現実はこうして樹海の中だ。考えたところで何も答えは出ない。

「とにかく、ぼっちゃんを屋敷まで護衛するにもこの樹海を出ねぇことには始まらねぇ。今はここから出ることだけ考えやしょう。」

 話はまた後にして、飯にしようと言う事になった。
 今回は例の白い彼女、シアンが調達に行ってくるそうだ。
 ハロルドはそれが嫌だったのだが、彼女に何も言えるはずは無く、さっさと調達へと行ってしまった。
 あの女のことだ、得意げな顔でもしながら両手いっぱいに変な虫でも抱えて帰ってくるのがオチだ…と思ったのだ。

 彼女が調達に行っている間、やはりアロイも周囲の見回りをしている。
 昨日、シアンなる彼女もそうであった。
 ハロルドは気にも留めていなかったが、少し大袈裟過ぎないか?程度には思っていた。
 今にでも一戦交えそうな雰囲気なのだ。あれでは魔物や野盗の類いも近づけぬな、と安心は出来た。
(そもそも樹海に野盗など居るのだろうか…?魔物は居るであろうな…)
 等と考えながら、彼女が帰ってくるまで時間を潰していたのだった。
 
 しばらくして調達から帰ってきたシアンは両手に何かを抱えていたのだが、ハロルドの予想と反し虫ではなく、どうやら果物のようであった。甘い香りが漂う。
 そして、彼女の腰に下げた例の袋はパンパンに膨れ上がっている。やはり虫も獲って来てはいるようだ…
 穴でも掘ったのだろうか、顔や手が泥だらけである。フフッっと得意げな顔をしているのは予想通りだ。
 傍から見たらやんちゃな子供が外遊びから帰ってきたかのようだった。
 その様子を見てアロイが何やら安堵したかのような表情で、ふぃーっと息をついていた。よほど心配でもしていたのだろうか。
(この女ならば心配することも無かろうに…)
 過保護な奴だ、とハロルドは思った。

 彼女の獲って来た果物を川でささっと水洗いし、食卓代わりの平たい岩に並べる。
 その隣には例のパンパンに膨れ上がった袋も一緒に並べられていた。もぞもぞと動いている。
 これだけは早々にどこかへ仕舞って欲しいと思うハロルドであった。

 さぁ食べよう、とそれぞれ思い思いに果物を手に取る。
 これまた見たことも無い果物しかない。

 ハロルドはその中でも多少見た目のマシな、まるまるとしただいだい色の果物を手に取った。
 食には関心の薄いハロルドだが、果物は好みなほうだ。
 表面にボコボコとトゲのようなものがいくつも生えているが、鋭くないので痛みは無い。
 さすがにこのまま食べる勇気はないので、皮を剥く。すると琥珀色の果汁が溢れ出し、あたりが柑橘系の爽やかな香りに包まれる。艶々とキラめく果肉は果汁と同じく琥珀色だ。思わずかぶり付いた。
 なんとも甘酸っぱく、食感はシャクシャクと小気味良い。噛むほどに果汁が口に広がり、まるで飲み物のようだ。
 結構な大きさだったのだが、あっと言う間に平らげてしまった。
 
 次に手に取ったのは血の様に真っ赤で小さなつぶつぶの実が一塊になった果物。
 なんだか虫の卵のように見えて嫌なのだが、果梗かこうが見えているので果物に間違いない。
 そのまま口に放り込んだ。果物にしては甘みは少ない。だが、つぶつぶの実がプチプチと弾ける食感が面白い。
 手頃な大きさなのでいくらでも食べられる。

 見た目の悪い果物にも挑戦してみた。青紫で細長いそれは、一見果物には見えない。だが、一際甘い香りを放っているのがソレであった。
 不気味な色の皮を剥くと、真っ白な果肉が露わになる。中身はまともそうなので安心してかぶり付く。
 食感はねっとりとしている。そしてとにかく甘ったるい。まるで菓子でも食べているかのような甘さだ。
 ハロルドはそれだけで満足であった。

 アロイとシアンは果物を堪能した後に、虫を摘まんでいた。
 普通逆ではないだろうかとハロルドは思ったのだが、何が普通なのかはよく分からない。

 食事の後、ハロルドはアロイと話をした。

「ぼっちゃんがどこまで動けるのか知りたい」

 どうやらハロルドの体力がどの程度あるのか測りたいらしい。
 護衛をするに当たって必要な事なのだろう、とハロルドは了承する。
 彼の残念な運動能力を知っているシアンはなんとも言えない表情をしていた。

 斯くして、食後の体力測定が始まったのであった。
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