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第07話 貴き血族

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とうとき血族』
 ハロルド達の世界では貴族を表す言葉であると同時に、特殊な力を持った者達の呼び名でもあった。
 ひとえに特殊な力と言っても、鷹のごとく遠方を見渡す目、容姿が不老の身体、人間離れした筋力等々、その能力は様々である。
 それ故に『戦争で数々の武功を立てるつわもの』『世の中を変えるほどの発明家』偉大な功績を残した人物のほとんどが、その特殊な力を持つ人間達であった。
 そして、力が親から子へ受け継がれることがわかると、時の権力者達はおのが一族に取り込むべく、こぞってその血筋を求めた。
 後の世に血は薄まり、今ではその数こそ減ったものの、未だ存在している。
 その者達のほとんどが貴族の身分であった。
 人々からは血族と呼ばれ、自らも『貴き血族』と名乗った――――

 
「そなたもそうなのだろう…?違うのか…?」

 彼女の威圧に負けまいと、ハロルドは話し続けた。
 だが、彼女はすぐさま涼しい顔に戻り、フイッと前へ向き直すと、例のごとくそのままスタスタと歩き出した。
 結局答えは聞けなかったが、恐らく彼女もそうなのだ。洞窟で見たあの瞳の光や、バケモノを一刀のもとに斬り伏せる力、血族で間違いない。ということは高貴な身分の者なのだろう。
 それにしても、なんで僕の方が気を使わなきゃならないんだ…と怒りが込み上げたが、怖かったので黙っていた。
 それよりもこのままでは置いていかれる。スクッっと立ち上がり、彼女を小走りで追いかけた。

 見たことも無い植物が生い茂る樹海、見上げたところで天辺もわからぬ程に巨大な木々。
 あの洞窟よりはマシだろう…と、彼女に付いて歩き続けた。
 だがハロルドだ、騎士見習いごっこで多少は運動の真似事もしていたが、この貧相な身体に体力などほとんどない。
 すぐに息も絶え絶えになる。

(この女は『待て』と言っても聞かないのだろうな…)
 それならば…と声を出した。

「おいっ!…おいっ!…肩を、肩を貸してっ…くれ…!それぐらい、いいだろう…!」

 必死で呼びかけた。
 何やら先程から物騒な雰囲気の彼女は、周囲をしきりに警戒しているようだ。
 ようやく声に反応したかと思うと、顔を半分だけこちらに向け視線を送ってくる。
 ハロルドはその目に覚えがあった。

 ――人をさげすむ目

(あの目は…嫌いだ…)

 ハロルドは恐怖というよりなんだか物悲しい気持ちになって、それ以上何も言えなかった…
 
 するとその時、前方に倒木が見えた。
 他の木に引っかかっているのか、ちょうど彼女の頭ぐらいの位置に来ている。
 しかし、彼女はこちらに目線を向けていて気付かない。
 ハロルドが『アッ…』と声を掛けようとするも間に合わず、彼女は前へ向き直した瞬間、額をその木に打ち付けた。
 その反動で彼女はぺたんと尻餅をつく。
 二人の間に時が止まったかのような沈黙が訪れる――――気まずい――――

 その後、何事もなかったかのように彼女は立ち上がり、再び歩き出した。
 ハロルドは、ざまぁみろ!と言ってやりたかったが、やはり彼女が怖いので腹の中で笑ってやることにした。
 ところが…何かを勘付かれたのか、彼女の歩みがだんだんと速くなる…

「ま、待ってぇえ!」

 ハロルドは情けない叫び声を上げながら彼女を全力で追いかけた。
 樹海での決死の戦いは、ハロルドが木の根に蹴躓けつまずいて倒れるまで続いたのだった。
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