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セブンドラマ

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もうこんな世界は嫌なんだ。俺を痛めつけたあいつらは許さない。紙に震える文字でそう書いた。紙は涙でぐしゃぐしゃだった。最後の文字を書き終えた瞬間、彼は椅子に登り縄に首をかけ、飛んだ。


首吊り自殺だった。普段当たり前だと思っていたものはあっけなくなくなってしまった。目の前で見る本物の死は普段物語で見るよりはるかに強大で生々しかった。その人物は椅子に登りゆっくりと縄から遺体を下ろし頬をすりよせ涙を流した


「イタタタ、、、」
重い頭を上げ目を覚ました俺が目にしたのは、俺が一番見たことがあるはずの場所。ステージの上だった。周りを見渡してみるとしっかりした素材の布でできたどんちょう。ざっと100人は入れそうな観客席。作りのいい舞台の上だった。そして俺の周りには俺のように頭を抱え周りを見渡している者が6人。
誰だこいつらは?
「あの、、、失礼ですがどちら様でしょうか?」
俺はだんだん覚醒してきた頭を回転させ6人に丁寧に尋ねた。
「あなたこそどなた様ですか。人に名前を聞く前にまず自らが名乗るのが礼儀ではないでしょうか。幼稚園もしくは保育園でそう教わらなかったのですか?」
その中の1人のぱっと見7歳くらいの男の子が生意気にもそう言った。ここは俺が大人になろう。俺はその男の子の態度に若干腹を立てながらこう言った。
「そうですね。失礼いたしました。
私の名前は神宮寺カイト。知り合いからはカイトと呼ばれています。」俺が簡単に名前を名乗ったその時だった。
『お目覚めのようだね。気分はどうだい?』天井にあった放送機器から低くも高くもない声が流れ出した。
「どなたですか?」
『わたしは君たちをここにやった張本人。まあ、そうだな。わたしのことは好きに呼んでくれて構わないが、、そうだな、ゲームマスターとでも呼んでくれたまえ。ここに君たちを閉じ込めたのは他でもない、君たちに一つの劇を演じてもらうためだ。』
「はあ?なんで劇作家の俺が劇なんかやんだよ!つーかここから出せよ。次の公演が迫ってるんだよ!」ヤンキー風の男がそうがなり立てる。うわ、怖。
劇作家という言葉に皆がピクリと反応する。「え、ぇ?あなたも?」気弱そうな少女がそう尋ねる。
「あなたも?、、てことはお前も、、、」
『もう分かったかな?この場に集められた7人の共通点は劇作家であること。そしてわたしは君たち才能のある劇作家である7人を集めて究極の劇を演じてもらおうと思ったのだよ。今日から7日間君たちにやろう。最終日にわたしが満足できる劇が行われなかった場合には、、、全員死んでもらう。』
「はあ?テメェ、、ざけたこと言ってんじゃねーぞ!俺をここから出せよ!」
『ごちゃごちゃうるさい男だ。1人かけたところで劇には影響しない、わたしはきみをどうすることもできるのだ。どうされたい?灼熱の炎と極寒の湖、どちらが君は好きかな?』
ゲームマスターがそう言う。
ヤンキー風の男は黙った。そしてどこからともなく7冊の台本が落ちてきた。
『これが君たちが演じる究極の劇の台本だ。人数分あるから読みたまえ。あ、そうそう。汚さないように気をつけたまえ。なんせ世界に7冊しかないんだからな。』そういうとゲームマスターは機嫌が良さそうにくっくっくと笑った。
そして俺たちは嫌々ながらも台本に目を通した。
読み終わった俺たち全員の心の声は一つだった。
「え、これって、、、」
誰からともなく呟いた。それは本当に普通の台本だった。元々仲の悪かった7人の陸上部員が助け合い支え合いついに全国大会で優勝する話だ。正直こんな台本は何度もみたことがある。よくある感動系の台本だった。こんな内容の本や劇は正直いってごまんとあるんじゃないか?
「なんでこんな普通の台本なの?究極の劇って言うならもっとすごい台本なんじゃないの?」
OL風の若いギャルみたいな女性が言った。少し怖そう、、。
『良い質問だねえ。普通な台本にしてこそ君たち7人の真の技量が見られる。そうは思わないかい?あえてこの台本はここまでシンプルにしたのだ。質問は以上かな?』誰も何も言わない。
『あ、そうだ。言い忘れていたけれど君たち8人の共通点は劇作家ということだけではない。全員なんらかの罪を抱えている、というもう一つの共通点があるだろう。そしておそらくこの罪をお互い暴きあい心を一つにしなければわたしが満足する劇を作るのは難しいだろう。』
そういうと7人は一様に動揺した顔をした。そして現場には少しピリッとした空気が流れた。暴きあう?もしかして罪って、、、。
『さあ、楽しい劇の始まりだ!It’s a show time!』
今度は完全にウキウキした声でゲームマスターが言う。それから放送機器はぷつっと切れてしまいうんともすんとも言わなくなった。ヤンキー風の男が放送機器に怒鳴っているがおそらく無駄な行為なのだろう。
それからしばらく時間がたち「あっあの まずは自己紹介をしませんか?」
気弱そうな少女がそういった 。「罪とかはよくわからないけど とりあえずお互いのことをよく知る必要があるんじゃないかなって 」
「それが良いんじゃないかの。あのゲームマスターが言うてたことに従うしかないじゃろ。ワシは老い先短いし今死んでも構わないがの。」初老の男がそう言う。老年特有の笑えない冗談だ。「はあ?なんでそんなことしなくちゃなんねんだよ !俺は死ぬのはごめんだ!」ヤンキー風の男が怒鳴る。「俺はお前らと違って暇じゃないんだよ!どこでもいいから窓とか割って扉ぶっ壊して出ていく!」
「無駄だよ。」その場に凛とした声が響き渡った。ショートカットのボーイッシュな女性が上手から出てきた 。綺麗な顔をしていて正直タイプだ。「さっき幕も下手も上手も全部調べていたけど何も見つからなかった。あと携帯の電波も入らないからおそらく地下だね。今は自己紹介するのが賢明なんじゃない ?素性のわからない相手と一緒にいたくないし 。」
どうやらとてもサバサバした女性のようだ 。
ヤンキー風の男は女性の言うことを聞きもせず壁をガンガンやったり窓を探したりしていたがやがて諦めたのかため息を吐きながら床に座り込んだ。
「さて、まずわたしからいこうか。わたしの名前は佐賀あかね。周りからはあかねって呼ばれてる。この業界に入って数年かな。」
「え?あの、さがあかね!?」OL風の女性がびっくりしたようにいう。
「書いた劇は全て売れる、若手の天才劇作家と言われているあの佐賀あかね⁉︎うち大ファンなんだけど!」OL風の彼女は見かけによらず気さくそうだ。
「天才ではないけど。そうだよ。ありがと」
「そういえばさっきの神宮寺カイトも書いた劇はトばないことはないって聞いたことさある、、、。もしかしてここにいるのって全員有名人⁉︎」女性はびっくりしたようにいう。そんな噂聞いたことないけど、、、?
「あ、そうそう。うちの名前は橋本ムウ!一応この業界に入って数年だよ」
え、橋本ムウ⁉︎有名人じゃないか。ダークでホラーなテイストの脚本から病みつきにならない人はいないという、、、。
すると気弱そうな女性が
「ヒェ~。有名人ばかりじゃないですか。あ、あの一応わたしは神崎奈美で、です。
よ、よろしくお願いします。」と消え入りそうな声で言った。
神崎奈美か、、。どこかで聞いたことあるような名前だな。まあ、関係ないか。
「ワシの番かの?ワシの名前は人造知仁。じんぞうは人造人間の人造じゃ。まあ気軽に人造じいさんとでも読んでくれ。ワシは老い先短いからこのゲームで死んでもいいのじゃが周りの若いののために頑張るからの。これでも若い時は名の知れた脚本家だったんじゃぞ。よろしくな。」そういうと人造さん、いや人造じいさんは杖に頼りながらゆっくりと座った。
人造知仁!まだ生きていたのか!彼は10年ほど前大ブレイクしていて、俺も観劇に行ったことがある。その時の感動は未だにおぼえている。
「おい。じじい大丈夫かよ!まあいいや、、、俺は神谷勝だ。絶対にここからでてやる。」
そうゆうとヤンキー、神谷さんはどかっとその場に座り込んだ。なんとも簡潔な自己紹介だ。この人とは仲良くなれそうにない。
そしてまだ1人自己紹介していないものがいる。6人の視線は自ずと最後の少年へ向けられた。
「僕の名前は、次葉 滝路。周囲の人間からはたっちゃんて呼ばれています。小さいからといって僕を舐めたら痛い目に合いますよ。以後お見知り置きを。」
そういうと小さな少年はペコリとお辞儀をした。次葉滝路、、、生意気そうな顔だ。そういえば彼の名前は聞いたことある。えらいプロデューサーの息子で権力を笠に着ていばっているが実力は確かだとか。
「さあ、一応全員の自己紹介がおわったところで今の状況を整理するか。今私たちはステージに閉じ込められていてどうやら出口はない。そして私たちを閉じ込めたゲームマスターとかいうふざけたやつによると私たちは7人で劇を演じなければならない。そして7日目にあいつの満足できる劇ができなかった場合、私達は、全員死ぬ。そしてもう一つあいつが言っていたところによると私達は全員なんらかの罪を抱えていてそれを明かし心を一つにしないと究極のゲキが完成しないと。」あかねさんがそうまとめた。
「そ、それにもう一日過ぎているのであと6日しかない、、、!」奈美さんが怯えたように言う。
「そうだね。それでとりあえず提案なんだけど経験上初日にいきなり舞台練習や読み合わせをやると失敗するから今日は一日休憩しない?異論、なんかある?」 彼女は見た目の通り勝気な性格のようだ。
「んな悠長なこと言ってる場合かよ!」
「神谷さん、私も今日はもう休んだほうがいいと思うんだ。知らないところに連れてこられて疲れていると思うし。」俺はつい口を挟んだ。
「知らねえよ。俺は疲れてねえ。俺はお前らと違って危機感があるからな。こんな状況だってのに練習しないとか信じらんねえ。お前ら絶対2流だろ!とにかく俺は練習する。」
そういいながら神谷さんは発声練習を始めてしまった。
「あ、い、う、え、え、お、あ、お!」なんだあの態度は。こちらが気を遣ってやっているのに。
「じゃあ私たちは寝ようか。」
正直緊張はしていたが体が疲れていたし精神の限界だった。どこからともなく用意された布団にくるまり俺たちは泥のように眠ってしまった。


次の日から俺たちは稽古を開始した。しかし、一つ問題があったのだ。それは俺たちが脚本家であるということ。俺たちは演技指導ならできるのだが演技なんてろくにしたこがなく、前途多難だった。あかねさんはすらすらとつっかえることなく読むことができるがまるで感情がこめられない。奈美さんは感情はこもっているのだがどうしても読むときにどもってしまったり噛んでしまったりする。次葉くんは読み合わせではうまくできるのだが動きがロボットの様にガタガタ。普通に歩くのでさえ不自然になってしまっていた。神谷さんはどうしても素のままになってしまい、演じることができないし、人造爺さんはセリフが覚えられない。同じところで何回も間違えてしまう。ムウさんも同じ。かくゆう俺も陸上部なんか入っていなかったし、走ることもあまりなかったから感覚がつかめない。しかしそんな俺が一番うまいのだから大問題だ。とりあえず2日目は読み合わせとマイムが大失敗して終わりになった。明日作戦会議をすることにしてみんなで休んだ。神谷さんも今度は素直にしたがった。体がついていかない。どうしよう。あと五日しかないのに。究極の劇なんて俺たちにできるのだろうか。2日目はそんな不安を抱え死の恐怖に怯えながら就寝した。三日目は朝早く起きて会議を始めた。俺達は脚本家なんだからお互いのダメ出しならうまいはずだというあかねさんの提案で。
しかし、次葉くんと神谷さんが喧嘩をし始めてしまった。また始まったよ、、、。そんなことしてる場合じゃないのに。
「だからあなたがやる役の一人称は俺じゃなくて僕ですから。それにあなたの役はヤベとか言いませんから。」
「お前こそ動き固すぎるんだよ。その状況でその手の動きはおかしいだろ!あと腹から声出せよ!」
「読み合わせができないあなたよりマシでは?あと声はただ出せばいいというわけではありません。」
「てんめー!!けんかうってんのか!!」
「ま、まあ落ち着いてくださいよー。け、喧嘩しても演技は上手くなりませんよ。今は、喧嘩しても、何にも、なりませんから。」
「「滑舌鈍感野郎は黙ってろ/てください!」」息ぴったりじゃないか。
奈美さんがヒッと言って涙目になってしまい現場の雰囲気は余計に悪くなってしまった。
「、、、あの2人とももういい加減仲直りしなよ。。あとうちからみんなの改善点をいわせてもらうと次葉の改善点としては自分で自分の動きの映像を撮ってみること。神谷の改善点としては登場人物の特徴を洗い出していくことだと思う。」ムウさんがそういうと2人はそれぞれ不本意そうにうなずいた。
「あとうちと人造爺さんの改善点としては台詞をきちんと覚えること。あかねさんは人の感情を書き出してみてセリフに当てはめていくのはどうかな?あと奈美ちゃんは腹式呼吸を意識して一息で言えるように。あとカイトの改善点は走っている時の感情を思い出すことじゃね?」
彼女の思ったより真面目な判断に俺たちは驚いてしまった。なんだかすごいリーダーシップだ。それからは基礎練習ばかりしていた。
まずは発声練習。
鼻から息を吸い込みお腹を膨らませ口から息を出すとともにお腹を凹ませる。そのタイミングであーと声を出す。基本中の基本でこれは流石にみんなできている。
「竹藪にたけたてかけ、たけたけかけ、」
奈美さんの滑舌の問題は解決するのが難しいようだ。
「ここの立ち上がりかたは片手を地面につけないで、、。」神谷さんとあかねさんが次葉くんにダメ出ししている。次葉くんは少し頬を膨らませながら聞いている。人造爺さんとムウさんは2人で台本を見ながら少しずつ覚えていってるようだ。
「陸上部やめてよ、、、。か。」「難しいのう。」俺だけ何もしないわけにはいかない。走る時の感情、、、。地面を見つめる。強く蹴り出す。前傾姿勢から少しずつ体を上に上げる、、。
個々の能力は少しずつ高まっている気がしたが何かが少し足りないような気もしていた。
そして最終日の前の6日目
あかねさんがこう切り出した。
「やっぱり罪のこと一度みんなで話しあってみない?ゲームマスターが最初に言っていたし、、、。」
その途端全員が顔を伏せる。それはみんなが避けていた話題だった。
罪だと思い当たることは一つだけある。でも、俺の中でそれはとても大きなことで未だにしこりのようになっていてまだ誰にも話したことがない。できれば墓場までもっていこうと思っていた。多分みんなそうだろう。でも、死ぬよりはマシだ。
「まず言い出しっぺのわたしからいうよ。実はわたしは1人の男の子を殺している、、、。
、、、ごめん、本当に殺したわけじゃないからそんなに距離を置かないで。言い方が悪かったね。正しくいうと1人の男の子の才能を殺したんだ。」そういうとあかねさんは膝を抱えた。
1人の男の才能を殺した?どういうことだ?
「実は有名な演劇作家になるはずだったのはわたしじゃなくてわたしの近所に住んでいた男の子だったんだ。彼には本を書く才能、演技力を磨く才能、たくさんの才能を持っていた。とにかく彼は劇作家としての天性の才能をもっていた。彼の話は嘘みたいに面白くて劇作家としての才能があったんだと思う。彼は未発表の作品の内容をわたしにいくつか話してくれたけれどそれらを発表する気はないって。そしてわたしは彼の未発表のアイデアを利用した。彼の作品と劇作家としての経験を積んだわたしはいつしか天才一流作家と呼ばれるようになった。名前も知らない男の子からわたしは作品を、全てを奪った。それがわたしの罪だよ。」彼女のショートカットが顔に暗い影を落とす。神谷が盗作じゃんとポツリとつぶやいた。
「そうだよ、わたしは盗作した。才能もないゴミみたいなただの三流劇作家。わたしの劇なんか誰も必要としてない。」
「そんなことない!うちの大好きな佐賀あかねを悪く言わないで!」
奈美さんが急に叫んだ。驚いて顔をあげる。
「うち、はあなたの劇に、救われたよ。会社ばかり行っていた日々に、分厚い雲に一筋の光が差し込んだとおもったよ。あなたの劇は盗作かもしれないよ。それでもそれを世間に伝えてくれたことに感謝してるから。正直尊敬する劇作家はあなたじゃないって知って混乱してる。それでも、あなたはうちに夢と希望を、すべてを与えてくれた人。だから誰も必要としてないなんて言わないで。」
あかねさんの目から雫がボロボロこぼれ落ちてきた。彼女は声を上げて泣き出した。泣きながらごめんなさいと嗚咽混じりに言っていた。数分後彼女はさっぱりと付き物が落ちたような顔になって「わたしは観客のため、エゴかもしれないけど、泥臭く生きのこる。さあ、次は?」と言っていた。今まで泣いていたことが嘘のようだ。立ち直りの早い人だ。あかねさんはもともとそういう人なのだろう。ここで黙っていればあかねさんに救われる人が大勢いるなら正しくなくても俺は盗作のことは黙っている。きっとみんなそうだろう。
奈美さんが話し始めた。
「確証はないけれど、うちの罪はきっと会社に勤めていたときに新人の男を、、虐めてしまっていたことだと思う。その時上司のパワハラやセクハラからただ耐えていうちはその男に目をつけてしまった。わたしも同じようにパワハラやセクハラをしてしまった。そんな時あかねさんの舞台を見に行って。こんな世界もあるんだって。その時からこうやって劇作家になりたいっておもってエゴだけど、けじめのために謝りにもいった。その時からわたしはケジメでこのスーツを着てるの。橋本ムウは偽名だから誰もわたしがいじめていたことは知らなくて世間では話題にならなかったの。」すると次葉くんが「ひどいことを言ってしまいますがあなたのその行為は1人の生命を奪いかねない他殺行為です。あなたはその業を背負わねばならない。死ぬ気でここからでなければいけませんね。」と言った。彼女は「うん、わかってる」と決意のにじむ声でうなずいた。俺はそんなかっこいい彼女に憧れてしまった。
すると、人造が急に立ち上がった。
「ワシの番かね。ワシの罪は他でもない。婆さんを見殺しにしてしまったことだ。ワシが全く売れてない頃の話じゃった。ワシは婆さんを老人ホームに入れる金もなく、自宅で看病していたがある日婆さんが急に苦しみはじめてなぁ、ワシは流石に救急車を呼ぼうとしたのだがなぁ、思ってしまったんじゃよ。入院費はかかるしワシはこれからも婆さんを看病しなくてはいけなくなる、とな。」
俺は唾をのみこんだ。
「ワシは救急車を呼べるのに呼ばなかったんじゃ。」
「おいじじい。ざけてんじゃねーぞ!!」
そう言って神谷さんが人造爺さんの胸ぐらを掴む。
人造爺さんが激しく咳込んでしまっている。
俺たちは慌てて神谷さんを引き剥がした。
「離せよ!救える命を救わなかった奴なんて殺してしまえ!!こいつは人でなしだ!」
「俺の罪はたぶん、パンピから金をたかりすぎたことだよ!それでもこいつみたいなことはしてねーよ!こいつは人殺しだ!」
すると奈美さんがすっと立ち上がり神谷の方へ向かっていった。
パチン!!小気味いい音が聞こえたと思ったら神谷の頬が真っ赤に腫れていた。目が点になった。今、何がおこった?あの気弱そうな奈美さんが、、、
「ふ、ふざけないでください。じ、人造さんの苦しみなんてあなたには何もわからないくせに!
人を介護する難しさはわかります。む、昔介護士だったから。1人ならなおさらです。でも最後までか、看病した!さ、さ殺意をむけても仕方ないと思います。そ、それに私達は、皆罪を抱えているんです。誰か1人を殺す権利なんてあなたにはない!」 
つっかえながらだが口をわななかせながら奈美は勇ましくそう言った。
神谷さんは殴られたことなんて初めてだったのか、腫れ物に触るように物珍しそうに片頬を撫でていた。なかなかにいたそうだ。
そして少し落ち着いたのか悪かったと腹から絞り出すようにつぶやいた。
そして奈美は静かに話し始めた。
「わたしにも殴る権利なんてなかった。ごめんなさい。わ、わたしの罪は一つしか思い浮かばなかった。たた、たぶん小さい頃近所の男の子を虐めてしまったこと。」
「それだけですか?」俺は思わず言ってしまった。たかが小さい頃のいじめくらいでここに閉じ込められるだろうか?そんなこと誰でもするような気もする。
「わ、わたしは彼の心を殺してしまったんです。小さい頃は喧嘩が強くて気が強くてか、体が大きくて、、、。友達にはゴリラみたいって言われてて、腹いせでカエルを食べさせたり、トイレに顔を突っ込ませたりしてしまったんです。」
「えぐ、、、」神谷がポツリとつぶやいた。
それっきり誰も喋らなくなった。葬式のような無言の気まずい時間が流れた。
俺は静寂を打ち破るように自らの罪を呟くことにした。
「私の罪は小さい時に虐待されていた親友を助けなかったこと、、、」
「わたしには小さい頃親友と呼べる男の子がいました。その子の小さな体にはどんどんあざが増えて火傷やタバコ痕もついて、でも太陽みたいな笑顔で、大丈夫大丈夫って。俺は安心しきってた。俺の両親は厳しくてだんだんそいつとも遊べなくなっていった。そしてわたし、いや俺はそいつを見捨てた。俺はいまだにそいつのことを引きずっている。人にいうのもこれが初めてだ。」
急に口調がかわった俺をみんなが驚いたように見る。「騙してたみたいで悪いけどこっちが本性なんだ。次は次葉くんだな。君はなんの罪を犯したんだ?」
「わ、私は、、、親の権力をつかってあるスタッフをいじめてしまいました。そのスタッフはとろくて鈍感そうでいじめるにはぴったりだったんです。彼を馬車馬のように働かせて。わたしはほんとうはムウさんに偉そうなこと言えなかったんです。両親はわたしにとても優しくて調子に乗ってしまった。わたしは世界の中心で可愛い可愛い7歳児。なんでも自分の思い通りになると思い込む馬鹿で生意気な子供でした。外に出たらそのプロデューサーに謝りたいです。」
次葉くんはそんなことをかかえていたのか。有名プロデューサーの息子だから色々あるのだろう。
何はともあれ俺たち7人は自らの罪を話終わった。今は俺たちの心は一つだ。
ゲームマスターを満足させる。そして外に出て罪を背負い生きていく。
初めて自らの罪を告白した。清々しい気持ちだった。みんなも少しスッキリした顔をしていた。俺は初めて人と心を通い合わせたような気がした。
まぶたが鉛のように重い。その時俺はようやくだいぶ疲れていたことに気が付いた。体が重い。俺は布団に倒れ込んだ。
そして最終日の七日目はあっという間に来てしまった。
『あ、あー。今日で最終日だ。自分がやりきったことを全力で出し切り究極の劇を私に見せてくれたまえ。あと1時間後に始まる。楽しみに待っているぞ』
神谷さんが絶対にでてやると叫んでいた。

「とりあえず、やるべきことはやったし私たちは絶対出られるはず。自分たちを信じよう。」あかねさんがいい、みんなで円陣を組む。こういうノリは中学生以来で恥ずかしかったが気分は悪くなかった。
「やるわよ!、、、おー!」
口から馬鹿みたいに奇声を発しながら俺たちは薬をやっているようにハイになっていた。死の恐怖と隣り合わせで少しおかしくなっていた。皆で気合を入れ直したその瞬間ついに最後の舞台の幕は上がった。
―――ブー
始まった。まずはあかねさんのセリフだ。お願いだ!
「なんでわたしは走れないの、、、。」
やった!決まった!
次は香奈さんのセリフだ
「飛べない豚はただの豚なように走れないあなたなんてただのデブじゃない。」
さすがは元いじめっ子。迫力満点だ。次はムウさんの番だ。
「本当あなたなんかクラスにいらないから学校こないでよ!」
一字一句間違っていなかった。完璧だ。
次は次葉くんの番、、。
「何で陸上部辞めちゃったの?」
顔を覗きこむその動きは自然だ。やった!
次は神谷さんの番。 
「ぼく、陸上やっているあなたが大好きだった。」多少声が大きかっだけど及第点だ。
次は俺の番だ。
「現実から目を逸らしたら逃げてるのと同じだ!!」
月並みなセリフが俺自身とリンクする
俺は親友が心も傷ついて体も傷だらけになっていることに本当は気がついていた。それでも逃げた。現実と向き合うのが怖かったから。今は少し変わった気がする。
クライマックスだ。
「俺たち7人なら世界を変えることができる。」
―――
ゲームマスターの反応は、、?
パチパチパチパチ
放送機器から拍手が聞こえる。
『実に素晴らしい演技だった。百点満点で涙が出てしまいそうだったよ。』
やった!勝ったんだ!
俺が仲間達と顔を見合わせ嬉し涙を流したその時だった
―バン
上から天井が迫ってきた?あ、え?
な、ん、で、?
気づけば俺たちは象に踏み潰されたありのようぺちゃんこになっていた。
だんだん意識が、、、遠く、、、







一つ、影がゆらりと立ち上がった。人造だった。
「あっけないものじゃ。孫を苦しめた奴らがゴミのように踏み潰されるのは滑稽じゃのう、、、。
ふぅふぅふぅ。最初から全て嘘だったんじゃよ。
ワシの婆さんは死んでいない、、、じゃがワシの大切な孫は死んだ。何が俺たち7人なら世界を変えられるじゃ。れっきとした人殺しのくせに。これはワシの復讐じゃ。希望じゃ。本当は劇なんぞどうでもよかった。希望を見せてから殺したいだけだったんじゃ。
孫を苦しめた6人の人間は全ていなくなった。さて、次は孫を虐待した親かの?
ふぅふぅふぅ。。
楽しみじゃ。」


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