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「なあ、これさ、まずいと思うんだよね」
俺が自分の背中を見せながらそう言うと、山城は同意するように頷いた。
「そうですね。まずいですね」
「だろ? こんな鞭の後が残った背中、気持ち悪くて発情どころじゃないと思うんだけど」
「加虐的な性癖がある人にはたまらないでしょうね」
「え?!」
驚いて山城を振り返った。
山城は、眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
「困りましたね。ここは基本的に暴力行為は禁止です。そういう性癖がないかチェックはしますが、突然目ざめてしまうこともありますし」
「おいおいおい。俺、別にMじゃないからな? 普通に痛いのは勘弁してくれよ」
「まさか、こんなに傷跡が残っているとは思いませんでした」
「だからって、孤児院に戻すとか言わないよな?」
「まさか。知ってます? あの孤児院は発情期を迎えたΩをαに売っているんですよ」
山城の告白に息を呑む。
発情期を迎えたΩたちが次々といなくなるので、まさかとは思っていたが、やはりそうだったのか。
「我々も、貴方をあの孤児院から買ったんです。返品不可です」
「人のことをもの扱いするなよ! 腹立つな!」
「申し訳ありませんが、我々にとって貴方は商品ですので」
「ああああ! 本当に腹立つ!! 本当に腹が立つ!!」
頭にきて、同じことを何度も繰り返してしまう。
「とりあえず、研修は違う人にしてもらいましょうか」
「は? なんで? 突然」
「言ったでしょう。貴方の背中は、加虐的な嗜好があるものにはたまらないと」
「えっと……、つまり、山城さんはそういう性癖だと」
山城は、両目を眇めてにこりと微笑んだ。
「別に、鞭で打ったり縛ったり、そういう趣味はありませんよ。たまに、唐突に、行為中に首を絞めたくなってしまうことはありますが、しませんよ」
「こえー。止めてくれよ」
「ですから別の者を呼んできます」
「いい」
「はい?」
「山城さんでいい。多少乱暴にされても、別に馴れてるし」
「それは……」
山城は困ったように眉を顰めた。
「ただ単に馴れているだけで、好きなわけではないでしょう? 私には嫌がる子をむりやりする趣味はありませんよ?」
加虐的な嗜好があるというわりには、無理矢理は嫌だという。
俺にはよく分からなかったが、全く知らない人間よりは、山城の方が良いと思えた。
まったく謎な人物だが、顔は申し分ない。むしろ、今まで会ったことのある人間の中で、山城は群を抜いて美しい顔をしている。
「山城さんがいい。はやくやろうぜ」
そう言うと、山城に掴みかかってネクタイを外した。
「積極的な子は嫌いではありませんが、主導権を握られるのは嫌いなのですよ」
山城から引き抜いたネクタイを奪われ、押し倒された。
俺はベッドの上に俯せに倒れ込む。
起き上がろうとしたが背中を押さえつけられ、ネクタイで後ろ手に縛られてしまった。
「げ、縛るのは趣味じゃないって言ってなかったか?」
「そうですよ。好みではありませんでした」
「……っ」
背中を指先で撫でられ、体がびくりと震えた。
「私は手術の痕ややけどの痕、こういった傷痕を見ると興奮するたちでして」
「はあ、それは面白い趣味をお持ちで」
「しかも難儀なことに、自分ではない他人が付けた痕でないと駄目なんです」
「それは、まあ難儀だな」
山城の趣味に同調はできないが、自分の背中の傷痕が山城の性癖ど真ん中だということは理解できた。
「Ωのフェロモンなんて馬鹿らしいと思っていました。そんな目に見えないものに興奮するαが滑稽で仕方がなかった。「Ωの城」に来て、研修のために何人かΩを抱きましたが、一度も興奮をしたことがありませんでした」
話しながら、山城は俺の背中の傷を撫でる指を止めない。
「βの私には目に見えるものしか興奮の対象にはならないんです。私の場合は少々他人と異なり、特殊ではありますが」
山城の吐息を背中で感じ、肌が粟立った。
チュッと言う音と共に柔らかい感触がした。そのまま、傷口に沿って唇が降りていく。
「あ……っ」
幼い頃から何度も鞭に打たれ、背中の感覚が鈍くなっているはずなのに、山城に強く吸われた部分が熱い。
「本当に、素晴らしい背中ですね」
「あ、あ……っ」
「背中で感じるんですか?」
「そんなはず……っ」
そんなはずない。
しかし、山城に背中を吸われる度、触れられる度、ぞわぞわとした感覚が迫り上がり、股間が熱を持つ。
しばらく、俺の背中を堪能していた山城が動きを止めた。
突然、縛られていた手首が解放され、きょとんと山城を見上げた。
「どうしたんだ?」
「申し訳ありません。研修とは全く関係のない行為でした」
「え? いきなり素に戻っちまうなんて」
「貴方は、ここで働く人間ですから、私好みにしてもしょうがないのに」
「別に、あんた好みにしてくれて良いのに」
俺の言葉に、山城は「ふっ」と噴き出した。
そして、そのまま
「あははは!」
と、面白そうに声を上げて笑った。
今まで目が笑っていない張り付いた笑顔しか見せなかった山城が突然笑い出したので驚いた。
「あんた、ちゃんと笑えるんだな」
「そうですね。自分でも驚いています」
山城は、ふっと小さく笑って俺を仰向けに押し倒した。
俺が自分の背中を見せながらそう言うと、山城は同意するように頷いた。
「そうですね。まずいですね」
「だろ? こんな鞭の後が残った背中、気持ち悪くて発情どころじゃないと思うんだけど」
「加虐的な性癖がある人にはたまらないでしょうね」
「え?!」
驚いて山城を振り返った。
山城は、眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
「困りましたね。ここは基本的に暴力行為は禁止です。そういう性癖がないかチェックはしますが、突然目ざめてしまうこともありますし」
「おいおいおい。俺、別にMじゃないからな? 普通に痛いのは勘弁してくれよ」
「まさか、こんなに傷跡が残っているとは思いませんでした」
「だからって、孤児院に戻すとか言わないよな?」
「まさか。知ってます? あの孤児院は発情期を迎えたΩをαに売っているんですよ」
山城の告白に息を呑む。
発情期を迎えたΩたちが次々といなくなるので、まさかとは思っていたが、やはりそうだったのか。
「我々も、貴方をあの孤児院から買ったんです。返品不可です」
「人のことをもの扱いするなよ! 腹立つな!」
「申し訳ありませんが、我々にとって貴方は商品ですので」
「ああああ! 本当に腹立つ!! 本当に腹が立つ!!」
頭にきて、同じことを何度も繰り返してしまう。
「とりあえず、研修は違う人にしてもらいましょうか」
「は? なんで? 突然」
「言ったでしょう。貴方の背中は、加虐的な嗜好があるものにはたまらないと」
「えっと……、つまり、山城さんはそういう性癖だと」
山城は、両目を眇めてにこりと微笑んだ。
「別に、鞭で打ったり縛ったり、そういう趣味はありませんよ。たまに、唐突に、行為中に首を絞めたくなってしまうことはありますが、しませんよ」
「こえー。止めてくれよ」
「ですから別の者を呼んできます」
「いい」
「はい?」
「山城さんでいい。多少乱暴にされても、別に馴れてるし」
「それは……」
山城は困ったように眉を顰めた。
「ただ単に馴れているだけで、好きなわけではないでしょう? 私には嫌がる子をむりやりする趣味はありませんよ?」
加虐的な嗜好があるというわりには、無理矢理は嫌だという。
俺にはよく分からなかったが、全く知らない人間よりは、山城の方が良いと思えた。
まったく謎な人物だが、顔は申し分ない。むしろ、今まで会ったことのある人間の中で、山城は群を抜いて美しい顔をしている。
「山城さんがいい。はやくやろうぜ」
そう言うと、山城に掴みかかってネクタイを外した。
「積極的な子は嫌いではありませんが、主導権を握られるのは嫌いなのですよ」
山城から引き抜いたネクタイを奪われ、押し倒された。
俺はベッドの上に俯せに倒れ込む。
起き上がろうとしたが背中を押さえつけられ、ネクタイで後ろ手に縛られてしまった。
「げ、縛るのは趣味じゃないって言ってなかったか?」
「そうですよ。好みではありませんでした」
「……っ」
背中を指先で撫でられ、体がびくりと震えた。
「私は手術の痕ややけどの痕、こういった傷痕を見ると興奮するたちでして」
「はあ、それは面白い趣味をお持ちで」
「しかも難儀なことに、自分ではない他人が付けた痕でないと駄目なんです」
「それは、まあ難儀だな」
山城の趣味に同調はできないが、自分の背中の傷痕が山城の性癖ど真ん中だということは理解できた。
「Ωのフェロモンなんて馬鹿らしいと思っていました。そんな目に見えないものに興奮するαが滑稽で仕方がなかった。「Ωの城」に来て、研修のために何人かΩを抱きましたが、一度も興奮をしたことがありませんでした」
話しながら、山城は俺の背中の傷を撫でる指を止めない。
「βの私には目に見えるものしか興奮の対象にはならないんです。私の場合は少々他人と異なり、特殊ではありますが」
山城の吐息を背中で感じ、肌が粟立った。
チュッと言う音と共に柔らかい感触がした。そのまま、傷口に沿って唇が降りていく。
「あ……っ」
幼い頃から何度も鞭に打たれ、背中の感覚が鈍くなっているはずなのに、山城に強く吸われた部分が熱い。
「本当に、素晴らしい背中ですね」
「あ、あ……っ」
「背中で感じるんですか?」
「そんなはず……っ」
そんなはずない。
しかし、山城に背中を吸われる度、触れられる度、ぞわぞわとした感覚が迫り上がり、股間が熱を持つ。
しばらく、俺の背中を堪能していた山城が動きを止めた。
突然、縛られていた手首が解放され、きょとんと山城を見上げた。
「どうしたんだ?」
「申し訳ありません。研修とは全く関係のない行為でした」
「え? いきなり素に戻っちまうなんて」
「貴方は、ここで働く人間ですから、私好みにしてもしょうがないのに」
「別に、あんた好みにしてくれて良いのに」
俺の言葉に、山城は「ふっ」と噴き出した。
そして、そのまま
「あははは!」
と、面白そうに声を上げて笑った。
今まで目が笑っていない張り付いた笑顔しか見せなかった山城が突然笑い出したので驚いた。
「あんた、ちゃんと笑えるんだな」
「そうですね。自分でも驚いています」
山城は、ふっと小さく笑って俺を仰向けに押し倒した。
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