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「うーん・・・・」


 一方アルベルタのほうは眠気が強まったのか、まっすぐ立つこともできなくなったようだ。


「眠いのか?」


 聞くと、アルベルタは返事の代わりに、こくこくと頭を縦に振る。


「まったく・・・・」


 この状態では自力で自室まで戻れないだろうから、俺のベッドを使わせるしかなかった。でも運ぶには体勢が安定しないので、いったん床に寝かせる。

 仰向けに寝かせてから、身体を持ち上げようとすると、アルベルタは寝言を言いながら、寝返りを打ってしまった。


「・・・・・・・・」


 アルベルタが寝返りを打った時にウィッグの髪が後ろに流れて、彼女のうなじが見えた。



 ーーーーうなじにほくろが二つ、並んでいる。アルベルタの特徴らしい特徴を見たのは、それがはじめてだった。



「何をやってるんだよ・・・・」


 身体を仰向けに寝かせなおしてから、抱き上げて、ベッドに寝かせた。


「・・・・なんで誘拐された人間が、誘拐犯の世話をさせられてるんだ? ・・・・本当にどういうことなんだよ・・・・」


 ぶつくさ文句を言いながらも、もぞもぞと動くアルベルタの靴を脱がして、毛布をかける。


 しばらくするとアルベルタは完全に眠ったらしく、まったく動かなくなった。静かな寝息が聞こえてくる。



 嵐のような時間が過ぎて、俺は一息ついた。



「・・・・・・・・」


 気づくと、アルベルタの寝顔に見入っていた。仮面のせいで、顔の半分も見えないのに、なぜか目がそらせなかった。



「アルベルタ様!」



 次の瞬間、またしても断りなく、バルドゥールが部屋に入ってきた。



 静かだった反動で音に驚き、口から心臓が飛び出しそうになる。



「ああ、やっぱり、ここにいたんですね!」


 バルドゥールはベッドに寝かされているアルベルタを見て、また叫ぶ。


「・・・・なんでお前らは、ノックもせずに押しかけてくるんだ?」


「す、す、すみません!」


 睨みつけると、バルドゥールは震え上がり、ぺこぺこと頭を下げた。だけど出ていこうとはせずに、カニ歩きでベッドに近づき、アルベルタを抱え上げようと悪戦苦闘している。


「何がどうなってこのありさまなんだよ?」

「わかりません。どこかで飲みすぎたらしく、ここに来た時はもうこの状態でして・・・・」

「・・・・あんたも苦労してるみたいだな」


 バルドゥールがアルベルタを抱き上げようとしたが、彼女はこのまま眠りたいのか、手足をばたつかせる。そのせいで、うまく抱えられないようだった。


「そのまま寝かせててもいいぞ」

「いえ、ベッドを占拠すると、殿下が困るでしょう?」

「床で寝るだけだ。庶子扱いだった時は、他の兵士と雑魚寝してたぐらいだし、これぐらい慣れてる」

「で、でも、彼女と殿下を二人きりにするわけには・・・・」

「・・・・まさか俺が、酔って意識を失った女を襲うとでも思ってんのか?」


「ま、まさか、そんなことは思ってません! むしろアルベルタ様が失言する可能性があるため・・・・!」


 そこまで言って、バルドゥールも言いすぎたと気づいたのか、自分で自分の口をふさぐ。



 誘拐犯側の間抜けなドタバタ劇を見ているうちに、怒りも萎んでいった。



「どけ、俺が運ぶ」

「え?」

「そいつの部屋に運べばいいんだろ?」


 早く一人になりたいと思って、アルベルタを部屋まで運ぶのを手伝った。


 運び終えて、部屋に戻ってきた時は、他に何をする気力もないぐらいに疲れ果てていた。







 翌日、酔いがさめて正気に戻ったアルベルタは、さっそく謝りに来た。


「・・・・昨晩は、部屋に押しかけた上にご迷惑をかけてしまったようで、本当に申し訳ありませんでした」


 酒に飲まれて前後不覚に陥ったことを、本人なりに恥じ、反省しているらしい。委縮しているアルベルタの姿からは、確かに反省の色が見えるし、声も消え入りそうなほど小さかった。


 だけど昨日は俺ももやもやした気持ちを引きずって、よく眠れなかった。だから謝ってくるアルベルタを見ても、素直に謝罪を受け入れる気にはなれない。


「俺のことを、〝綺麗なごろつき顔〟とか言ったことは覚えてるか?」

「そ、そのあたりは、記憶が曖昧でして・・・・」


 アルベルタは冷や汗を流し、目を泳がせる。


「俺が無名の舞台役者だったらとか、意味不明なたとえ話をしたことは?」

「な、なぜそのようなことを・・・・」

「突然踊ろうとか言いだして、俺の足を何度も踏んだり、俺に向かって吐きそうになったことは?」

「・・・・殿下、そのあたりでご容赦ください」


 俺の追求で、酔った勢いで口走った、自分の意味不明な言葉の内容を知り、アルベルタは悶絶しているようだった。顔は真っ赤になり、細い肩が、ぷるぷると震えている。



 しかもその黒歴史の罪状を、目の前で淡々と語られるのだから、酒を飲んだことを猛烈に後悔していることだろう。



 その情けない姿を見て、ようやく溜飲も下がった。


(あと数週間は、このネタで煽りかえせるな)


 俺は満足して、またアルベルタから煽られたら、このネタで煽りかえしてやろうと思った。



          ※ ※ ※



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