98 / 152
97
しおりを挟む「うーん・・・・」
一方アルベルタのほうは眠気が強まったのか、まっすぐ立つこともできなくなったようだ。
「眠いのか?」
聞くと、アルベルタは返事の代わりに、こくこくと頭を縦に振る。
「まったく・・・・」
この状態では自力で自室まで戻れないだろうから、俺のベッドを使わせるしかなかった。でも運ぶには体勢が安定しないので、いったん床に寝かせる。
仰向けに寝かせてから、身体を持ち上げようとすると、アルベルタは寝言を言いながら、寝返りを打ってしまった。
「・・・・・・・・」
アルベルタが寝返りを打った時にウィッグの髪が後ろに流れて、彼女のうなじが見えた。
ーーーーうなじにほくろが二つ、並んでいる。アルベルタの特徴らしい特徴を見たのは、それがはじめてだった。
「何をやってるんだよ・・・・」
身体を仰向けに寝かせなおしてから、抱き上げて、ベッドに寝かせた。
「・・・・なんで誘拐された人間が、誘拐犯の世話をさせられてるんだ? ・・・・本当にどういうことなんだよ・・・・」
ぶつくさ文句を言いながらも、もぞもぞと動くアルベルタの靴を脱がして、毛布をかける。
しばらくするとアルベルタは完全に眠ったらしく、まったく動かなくなった。静かな寝息が聞こえてくる。
嵐のような時間が過ぎて、俺は一息ついた。
「・・・・・・・・」
気づくと、アルベルタの寝顔に見入っていた。仮面のせいで、顔の半分も見えないのに、なぜか目がそらせなかった。
「アルベルタ様!」
次の瞬間、またしても断りなく、バルドゥールが部屋に入ってきた。
静かだった反動で音に驚き、口から心臓が飛び出しそうになる。
「ああ、やっぱり、ここにいたんですね!」
バルドゥールはベッドに寝かされているアルベルタを見て、また叫ぶ。
「・・・・なんでお前らは、ノックもせずに押しかけてくるんだ?」
「す、す、すみません!」
睨みつけると、バルドゥールは震え上がり、ぺこぺこと頭を下げた。だけど出ていこうとはせずに、カニ歩きでベッドに近づき、アルベルタを抱え上げようと悪戦苦闘している。
「何がどうなってこのありさまなんだよ?」
「わかりません。どこかで飲みすぎたらしく、ここに来た時はもうこの状態でして・・・・」
「・・・・あんたも苦労してるみたいだな」
バルドゥールがアルベルタを抱き上げようとしたが、彼女はこのまま眠りたいのか、手足をばたつかせる。そのせいで、うまく抱えられないようだった。
「そのまま寝かせててもいいぞ」
「いえ、ベッドを占拠すると、殿下が困るでしょう?」
「床で寝るだけだ。庶子扱いだった時は、他の兵士と雑魚寝してたぐらいだし、これぐらい慣れてる」
「で、でも、彼女と殿下を二人きりにするわけには・・・・」
「・・・・まさか俺が、酔って意識を失った女を襲うとでも思ってんのか?」
「ま、まさか、そんなことは思ってません! むしろアルベルタ様が失言する可能性があるため・・・・!」
そこまで言って、バルドゥールも言いすぎたと気づいたのか、自分で自分の口をふさぐ。
誘拐犯側の間抜けなドタバタ劇を見ているうちに、怒りも萎んでいった。
「どけ、俺が運ぶ」
「え?」
「そいつの部屋に運べばいいんだろ?」
早く一人になりたいと思って、アルベルタを部屋まで運ぶのを手伝った。
運び終えて、部屋に戻ってきた時は、他に何をする気力もないぐらいに疲れ果てていた。
翌日、酔いがさめて正気に戻ったアルベルタは、さっそく謝りに来た。
「・・・・昨晩は、部屋に押しかけた上にご迷惑をかけてしまったようで、本当に申し訳ありませんでした」
酒に飲まれて前後不覚に陥ったことを、本人なりに恥じ、反省しているらしい。委縮しているアルベルタの姿からは、確かに反省の色が見えるし、声も消え入りそうなほど小さかった。
だけど昨日は俺ももやもやした気持ちを引きずって、よく眠れなかった。だから謝ってくるアルベルタを見ても、素直に謝罪を受け入れる気にはなれない。
「俺のことを、〝綺麗なごろつき顔〟とか言ったことは覚えてるか?」
「そ、そのあたりは、記憶が曖昧でして・・・・」
アルベルタは冷や汗を流し、目を泳がせる。
「俺が無名の舞台役者だったらとか、意味不明なたとえ話をしたことは?」
「な、なぜそのようなことを・・・・」
「突然踊ろうとか言いだして、俺の足を何度も踏んだり、俺に向かって吐きそうになったことは?」
「・・・・殿下、そのあたりでご容赦ください」
俺の追求で、酔った勢いで口走った、自分の意味不明な言葉の内容を知り、アルベルタは悶絶しているようだった。顔は真っ赤になり、細い肩が、ぷるぷると震えている。
しかもその黒歴史の罪状を、目の前で淡々と語られるのだから、酒を飲んだことを猛烈に後悔していることだろう。
その情けない姿を見て、ようやく溜飲も下がった。
(あと数週間は、このネタで煽りかえせるな)
俺は満足して、またアルベルタから煽られたら、このネタで煽りかえしてやろうと思った。
※ ※ ※
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?
星野真弓
恋愛
十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。
だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。
そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。
しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――
妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?
田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。
受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。
妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。
今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。
…そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。
だから私は婚約破棄を受け入れた。
それなのに必死になる王太子殿下。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる