捨てられた令嬢と錬金術とミイラ

炭田おと

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(どうしよう! どうしよう!)


 アンティーブ辺境伯の領主館の敷地内を逃げ惑いながら、私は考える。


(誰かに助けを求める? ううん、だけど、誰を信じたらいい?)

 殺されたかもしれないと思っていたルゥセーブルさんは、生きていた。おそらくはじめから、ゼレールさんと結託していたのだろう。白磁の研究のことをゼレールさんに教えたのは、彼かもしれない。

 だとしたら、ゼレールさんが、領主館の他の使用人と繋がっている可能性もある。疑心暗鬼になって、誰も信じられなくなっていた。


「この辺りも、くまなく捜せ!」


「・・・・!」

 どこかから声が聞こえたので、私は慌てて、立木の影に隠れた。

 身を潜めながら、そっとその方向を見ると、数人の男達が集まっていた。


 暗くて、シルエットしかわからなかったけれど、燕尾服を着ているようだったから、おそらく、領主館の使用人達なのだろう。


「見つけたか?」

「いや、いないな。もう外に逃げたのかもしれない」

「それはありえない。門は封鎖したんだ。外には出られないはずだ」

「全員で探しているんだから、いずれ見つかるさ。・・・・とにかく今は、敷地内をくまなく捜索するぞ」

 そして、男達は別々の方向へ散っていく。


 心臓が、早鐘のようにバクバクと鳴っていた。


(・・・・どうして? どうして他の使用人まで、私を捜しているの?)


 領主館の使用人が全員、ゼレールさんに協力しているのだろうか。もしかして領主館の使用人全員が、ゼレールさんと共謀していたのだろうか。


 恐怖で、身体の震えが止まらなくなる。


(逃げなきゃ――――とにかく逃げなきゃ!)


 混乱して、立木の影から出たところで、人影とぶつかりそうになった。


「カロル様!?」

「ブランカさん!」


 そこにいたのは、ブランカさんだった。


「お願いです、助けてください!」

 ブランカさんが何か言う前に、私は彼女の手をつかんだ。

「理由はわからないけれど、追われているんです! それにどうして、ゼレールさんが領主館に・・・・」

「突然ゼレール様が領主館に戻ってきて、陛下の使者を名乗っている詐欺師がいる、手紙は偽物だと言い出したんです。みんなその話を信じて、あなたを捕まえようと――――」

「詐欺師? 私が?」

「・・・・ゼレール様の話は本当なんですか?」

「もちろん嘘です! 私は正式に陛下の許可を得て、アンティーブに調査をしに来たんです!」

 即座に私は否定した。

(もしかして、私を殺して、発覚を遅らせようとしている?)

 ゼレールさんは、カデーナ卿がノアム陛下であることを知らないし、今、陛下がアンティーブに向かっていることも知らない。私を殺せば、逃亡する時間が稼げると考えているのかもしれなかった。

「どうしてゼレール様が、そんなことを?」

 ブランカさんは戸惑っている。

「・・・・おそらくゼレールさんが、アンティーブ辺境伯夫人を殺害した本人だからでしょう。逃亡する時間を稼ぐために、私を殺そうとしているんだと思います」

「まさか、そんな!」

「セシールさんが、バルビエさんと恋人だったと私に教えたのは、ゼレールさんなんです。・・・・でも、真実は違った。ゼレールさんは嘘を言って、事実を捻じ曲げようとしたんです」

 ブランカさんは息を呑み、固まっていた。


「そっちにいたか?」

「・・・・!」


 近くから誰かの声が聞こえて、私はとっさに、低木の影に隠れた。

 なぜかブランカさんまで、低木の影に身を潜める。


「いや、こっちにはいないみたいだな。向こうを捜そう」

 使用人達の足音が、遠ざかっていく。足音が聞こえなくなったので、私は肩から力を抜いた。

「・・・・どうしてですか? ブランカさん」

 彼女が、捜している人物がここにいると叫べば、私は捕まっていたはずだ。


 でも、ブランカさんはそうしなかった。


「・・・・あなたを信じます」

「え?」

「こっちに来てください」


 彼女は私の手を引いて、走り出した。

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