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27_誤解を招く態度

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「・・・・そういえば、陛下」

 残りはデザートだけになったところで、アデレードのお父様が陛下に話しかけた。

「夏になれば、避暑のため、北のパレゾー城へ行くのでしょう?」

「その予定だが」

「侍女が足りないようならば、アデレードを同行させましょうか? 親の贔屓目を除いても、気配りができる娘ですから、なにかとお役に立てるはずです」


 アデレードのお父様は、避暑を利用して、アデレードを売り込もうとしているようだ。そこで陛下とアデレードが接近すれば――――そんな狙いが見て取れる。


 ミュレー一家は楽しそうだけれど、マルタン一家は、あからさまに面白くなさそうな顔をしていた。


(当り前よね・・・・)

 ベンジャミンとアデレードは結婚の準備を進め、両家の挨拶まですませていると聞いていた。

 だけどここで、陛下に近づけるかもしれない可能性が出てきたから、アデレードは狙いを陛下に変えて、しかも彼女のお父様が、それを後押ししようとしている。

 ベンジャミンは、アデレードが陛下に近づこうとしていることを知っていたのだろうか。

 いや、知っていたのなら、今、あんな表情はしていないはずだ。

(因果応報・・・・)

 私を捨てたベンジャミンが、今度は捨てられる側になる。これで少しは、彼も私の傷を理解できるだろうか。


「いや、侍女の人数は足りている。君の大事なご令嬢に、身の回りの世話などさせられない」

 陛下は笑顔で、そつなく答えた。

「そ、そうですか・・・・」

 アデレード達は肩を落とす。

「それに君の娘は、マルタン伯のご子息と結婚の話が進んでいるんだろう? 忙しいはずだ」

「い、いえ、まだ結婚という段階では・・・・両家の間で、話し合いを進めていただけで・・・・」

「いい話ではないか。二人は美男美女で、お似合いだと思う。祝福しよう。結婚式には、ぜひ俺も呼んでくれ」

「は、はい・・・・」


 陛下はうまく、アデレード達のアプローチをかわしたようだ。

 それどころか、陛下から、結婚を祝福する、とまで言われたから、アデレードはベンジャミンと結婚しないわけにはいかなくなってしまった。


 陛下の意地が悪い面が、見えた気がする。どちらにしても、二人に振り回されてきた私からすると、いい気味だという感想しか浮かばない。


「・・・・・・・・」

 なぜか、アデレードに睨まれてしまった。

(あ、もしかして、ベンジャミンと結婚間近だったことを、私が陛下に話したことを怒ってる?)

 怒られても、こんなことになるなんて、私も思ってなかったのだ。


「避暑と言えば――――カロル嬢」


 アデレードに逆恨みされたら、また面倒だと思っていると、テーブルに置いていた私の手に、陛下の手が重ねられた。

 ぎょっとして、私は凍り付く。空気も凍り付いていた。

「君も一緒に、パレゾー城に行かないか?」

「え、いえ、その・・・・」

 指を絡められて、手を引っ込めることもできない。

(こ、これは、友人の態度じゃない!?)

 これでは、誤解されてしまう。

「どうかな?」

「え、あ、その! 誘っていただけるのなら・・・・」

 混乱して、適当なことを言ってしまった。


 陛下の笑みが深くなる。


「君がそう言ってくれてよかった。パレゾー城で過ごす時間は退屈なものだが、君が来てくれるのなら、きっと楽しく過ごせることだろう」


 焦るあまり、答えを――――答えを間違ってしまった。


(どうしよう、今さら撤回できない!)


「ブロトンス卿」

「は、はい!」

 名前を呼ばれて、マテオおじさんの背筋が、しゃきっと伸びる。

「君が、行き場をなくしていたカロルを助けてくれたそうだな?」

「え、ええ、はい」

「感謝する。君は、情に厚い人間だ」

「お、お褒めに預かり、こ、光栄です・・・・」


 マテオおじさんは笑顔を浮かべていたけれど、緊張のあまり、顔の筋肉は引きつっていた。


「マルタン伯、ミュレー伯」

「は、はい」

「ブロトンス卿によくしてやってくれ」

「も、もちろんです」

 陛下のおかげで、マテオおじさんに迷惑をかけずにすんだようだ。

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