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22_ミイラの正体

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 ※一部、残酷な表現があります。



 また目に入ったのは、片方だけ短い親指だった。

「・・・・あの、陛下。最後に一つ、いいでしょうか?」

「なんだ?」

「ミイラを作るのに、何日かかるんでしょう?」

 陛下は研究者に目を向ける。

「い、いえ、私もよく知らないので・・・・ただ、商人達の話によると、七十日ぐらいでできることもあるようです」

「そんなものなのか」

 陛下は、拍子抜けしたようだ。


「七十日・・・・」


 ――――アンティーブ辺境伯夫人が殺されてから、すでに二か月半が過ぎようとしている。


「陛下。確か行方不明になっている侍女のセシールさんも、金髪でしたよね?」


 突然の質問に面食らったのか、陛下は目を瞬かせた。


「髪色? 報告によれば金髪のはずだが・・・・どうして、そんなことを聞く?」

「・・・・・・・・」

 嫌な予感が、確信に変わった気がした。

「どうした?」


「事件が起こったのは二か月半前・・・・ミイラを作るには、十分な時間です」


 私が言おうとしたことに気づいたのか、陛下の顔が強ばる。


「・・・・まさか、このミイラがセシールの可能性があると考えてるのか?」


「セシールさんの特徴に、左腕の指だけ、生まれつき短いという特徴が書かれていました。そういった特徴を持つ人物は、少ないはずです。そんな特徴を持つミイラが、事件に関わった可能性があるバルビエさんの家から見つかったとなると・・・・」


 今のところ、類似点は金髪と、親指の短さという二点しかない。でもその特徴を持つ人が、事件に関わった錬金術師と繋がると、無関係には思えなくなる。


「セシールさんが実際に殺人に加担していたかどうかは、わかりません。だけど内通者がいたことは間違いないし、彼女は犯行現場にいて、犯人の凶行も目撃したでしょう」

「口封じのために殺し、なおかつ逃亡資金も稼ぐ――――か。人とは思えない所業だが、捜査から逃れるには、確実なやり方なのかもしれない」

 私は頷く。

 違っていてほしいけれど、犯人の立場になって考えると、そんな選択肢も出てくるのだ。

「・・・・なるほど。確かに君の言う通りだ。共犯者であれ、ただの目撃者であれ、犯人なら彼女を生かしておくことはしないだろう」


(・・・・怖い)


 その女性が知っている人なのかもしれないと思うと、とたんに身体の震えを止められなくなった。

 最初にミイラを見た時も、怖いと思ったけれど、いつしかその感覚は薄れていた。遠い国の、知らない人で、どうやって亡くなったのかもわからない。

 だから、それが人間の遺体なのだという感覚まで、薄れていた。


 でも、知っている人だった。――――名前だけしか知らないけれど、二か月前までは、ここで暮らしていた人なのだ。


「わかった。調べさせよう。・・・・カロル嬢」


 私の顔を見た陛下の表情が、険しくなる。


「どうした?」

「え?」

「顔色が悪い」


 陛下の手が、私の額に触れる。息が止まった。


「客間で少し休め。アンベール」

 陛下の呼びかけで、アンベールさんが地下に降りてくる。

「カロル嬢が気分が悪いようだ。彼女を客間まで案内しろ。それから、侍医を呼んでこい」

「いえ、陛下、私は大丈夫――――」

「いいから、アンベールと一緒に行くんだ。文句を言うようなら、強制的に運ぶぞ」


 有無を言わせぬ口調でそう言われて、私は従うしかなかった。


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