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19_悪化していく状況

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「聞いたわよ、カロル!」


 その日、王宮に着くなり、私はミラに捕まってしまった。


「え、ミラ、どうしたの?」


「ベンジャミンと復縁したそうね!」


「・・・・え゛?」


 頭が真っ白になって、しばらく声が出てこなかった。


「違うの?」

 私の反応を見て、ミラは首を傾げる。

「だ、誰からそんな話を聞いたの?」

「ベンジャミンから聞いたのよ。昨日、カロルの家に行って、仲直りした、って」

「・・・・・・・・」


 頭痛と目眩に襲われて、私は真っ直ぐ立てなくなり、近くの立木に寄りかかった。


「ちょっと、カロル、大丈夫?」

「だ、大丈夫・・・・」


 一方的に押しかけられているだけで、仲直りしたつもりなんてないのに。怒りで、拳が震える。

「復縁したわけじゃないのね?」

「違う、そんなわけない」

 ミラには、ベンジャミンと別れたことを伝えたけれど、ひどい裏切られ方をしたということは言っていない。

 だからミラは、食事をした、仲直りをしたというベンジャミンの話を鵜呑みにして、復縁した、なんて、話を広げたのだろう。


(言いふらしたってことは・・・・他の子達も知ってるってこと?)

 その事実に気づいて、生きた心地がしなくなる。


「ベンジャミンは、今どこにいるの?」

「もう帰ったわ。ちょうどカロルと入れ違いだったわよ」

 奥歯を噛みしめる。食ってかかるつもりだったのに、その対象がもういない。


「ミラ!」


 私が、がしっとミラの両手を握ると、ミラは面食らったのか、目を丸くした。


「ど、どうしたの?」

「もしその噂を聞いたら、否定しておいて」

「復縁してないって?」

「そう! 私とベンジャミンは、もう赤の他人だって、ちゃんと言っておいて」

「わ、わかった・・・・」

 戸惑いつつ、ミラは頷いてくれた。

「それから、ベンジャミンが王宮に戻ってきたら、私に――――」


「カロル様」

 アンベールさんの声で、会話は中断された。


「あ、アンベールさん・・・・」

「陛下がお呼びです。こちらへ」

「・・・・はい」


「あ、ちょっと待って、カロル」

 歩き出そうとしたところで、ミラが追いかけてきた。

「他にも、耳に入れておきたいことがあるの」

「何?」

 ミラはアンベールさんに聞かれないよう、私の耳に唇を寄せた。


「――――あなたの叔父さんが、あなたのことを誹謗中傷しているみたいよ」


「・・・・え?」

「遺言書は本物なのに、あなたが財産を奪うために偽物だと言いふらしてるとか、あなたとあなたのお父様が不仲だったとか、お父様があなたの領主としての能力に、懐疑的だった、とか」

「そんな!」

 驚いて、つい声が大きくなってしまった。アンベールさんの目が丸くなっていることに気づいて、慌てて自分の口を塞ぐ。

「・・・・ひどすぎる」

「自分の正当性を主張するために、あなたの評判を下げることにしたのね」

 腹が煮えくり返るというのは、こういう感覚なのかもしれないと、その時私は感じていた。強い怒りが、焼けつくような感覚を残していく。

「あなたの評判が悪くなったら、財産の問題にも響くかも。・・・・これからどうするの?」

 ミラに聞かれて、私は戸惑った。

 私と叔父が争っていることを知れば、叔父が私の評判を下げるためにやっていることだと気づく人もいるだろうけれど、ほとんどの人は私のことを知らないから、噂を鵜呑みにするはずだ。

「噂には、噂で対抗するしかないと思う。ミラ、叔父さんが私の父と対立していたことと、御金遣いが荒くて、後継者から外されたことを、色んな人に話しておいてほしい」

「わかったわ。あなたに協力する。・・・・だけど、それでなんとかなるかな?」

「わからない。できることをするしかないわ。・・・・ありがとうね、ミラ」

「これぐらい、お礼を言われるようなことじゃないわよ」


 ミラは明るく笑ってくれた。


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