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14_突然のお誘い

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 調査のために、ミイラは王宮に運ばれることになった。

 私と陛下も、同じ馬車に乗り、王宮に戻る。ミイラと同乗することになるなんて、と不思議な気持ちだった。

 長い間、馬車の振動に身をゆだね、王宮の門をくぐるときにはもう、空は宵色に染まり、西側の一角だけ、明るさが残っていた。

(今日は疲れた。早く、マテオおじさんの家に戻ろう)


「手を」

 陛下が先に馬車を下りて、私に手を差し出してくれた。私はその手に自分の手を重ね、ステップを降りる。


「今日はありがとうございました」

 陛下は微笑する。

「それでは、また後で」

「・・・・?」

 また後で、というのはどういうことだろう。不思議に思ったけれど、陛下が先に王宮に入ってしまったので、訊ねることができなかった。


 陛下と入れ代わりに、男性が近づいてくる。最初に、私を陛下のところに連れて行った、あの男性だ。


「あなたは・・・・」

「先日は名乗りもせずに、大変失礼しました。私は陛下の近習(きんじゆう)の、アンベールというものです。以後、お見知りおきを」


 アンベールさんは、一礼する。私も礼を返した。


「よろしくお願いします」

「こちらへどうぞ」

「えっ」

「お食事の準備が整っております。こちらにどうぞ」

「い、いえ、私は帰るつもりで――――」

「陛下が、カロル様をお待ちです」

「・・・・・・・・」


 断ることはできない、ということなのだろう。


「こちらです」


 もう一度促されたので、私は仕方なく、アンベールさんの後をついていった。


(・・・・強引だな)

 食事に誘ってくれるのなら、事前に私の了承を得てほしかったと思う。


「・・・・陛下は、強引な方ですから」

「えっ」

 考えていることを読まれたのかと思って、心臓が跳びはねた。

「嫌いなもの、食べられないものなどはあるでしょうか? もしあるのなら、仰ってください」

「いえ、大丈夫です。ほとんどのものは食べられますから」

「そうですか、よかった」

「・・・・食事会には、他に誰が参加するんでしょう?」

 人見知り気味で、堅苦しいことも苦手だ。知らない人達との食事会を、少し憂鬱に感じていた。

 すると、アンベールさんは目を細める。


「いえ、陛下とあなただけの食事会です」

「え・・・・二人きりですか?」

「そうです」

「・・・・・・・・」


 どういう状況なのだろうと考えてしまう。


「陛下は、少し気難しいお方でしょう?」

「え? ええ・・・・」

「・・・・陛下は良くも悪くも、相手に合わせるということが苦手です。臣下の言葉に、耳を貸さないということではありませんよ。国王としての仕事の面では、人の話をよく聞いて、まわりに合わせてくれますが、私生活では、あまり人に合わせようとしません」

 陛下のまわりには、大勢の臣下がいる。仕事上、その一人一人の言葉に耳を貸し、不仲な臣下の間を取り持たなければならないとなると、日々、神経を擦り減らしていることだろう。

 そんな状況で、自分の時間では誰かに合わせたくなくなるのも、無理はないと思った。

「少々変わっているうえ、人に合わせたがらないとなると、なかなか伴侶となる女性を選ぶのが難しいようです。それにご令嬢方には、陛下の話が難しく感じることもあるようで、王妃の席がいまだに空席なのも、そういった事情があるからなんです」

「は、はあ・・・・」

 その話が、私とどう繋がるのだろうと、またまた考えさせられてしまう。

「・・・・それなら、私は今日、辞退したほうがいいんでしょうか?」

「いえ、めっそうもございません。ぜひ、ごゆっくりしていってください。カロル様が楽しく過ごされれば、陛下も喜ぶことでしょう」

 アンベールさんは、にこにこと笑っていた。

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