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9_困った国王様
しおりを挟む「だけど、あと一つ、教えてください。――――バルビエさんの家は、どこにありますか?」
するとゼレールさんの表情が強張る。
「・・・・今から、バルビエの屋敷を調べにいくつもりですか?」
「ええ、もしかしたら、バルビエさんが屋敷に戻っている可能性もありますから」
「使用人の一人に屋敷を見張らせていますが、バルビエが戻ったという報告はありません」
「念のためです」
「・・・・そうですか」
ゼレールさんは、吐息をもらす。
「だったら、私も同行しましょう」
「お気遣い、ありがとうございます。ですが私は、一人で大丈夫です」
「バルビエの屋敷は、今は住民がいなくなり、荒れ放題です。浮浪者が入り込んでいる可能性もあるので、危険ですよ。だから一緒に行きましょう」
「ありがとうございます」
状況を考えると、誰かに一緒に来てもらったほうがいいのだろう。ゼレールさんの気遣いに感謝した。
「それでは、馬車を用意します。玄関でお待ちください」
そう言って、ゼレールさんは邸宅の中に入っていく。
ゼレールさんの言葉に従って、玄関に向かうと、玄関の庇の下に人影を見つけた。
邸宅の使用人か、客人だろうと思っていると、その人物と目が合う。彼は、私を見て笑顔になった。
「ノアム陛下!」
思わず、大きな声を出してしまった。
すると陛下は顔を顰め、唇の前に指を立てる。
「声が大きい」
「す、すみません・・・・いえ、それよりも、どうしてここに?」
「時間が空いたから、様子を見に来た」
「様子を見に来たって、お一人でですか? お供の方は?」
「離れた場所にいる」
陛下が指差した方向を見ると、二人の男が垣根の近くに立っていた。彼らは帯刀していて、しきりに視線を動かしている。
「お忍びで来た。オセアンヌの件を調べている、カデーナ卿ということにしておいてくれ」
「危ないですよ!」
国王自ら、調査に来るなんてありえない。王宮に戻ってくださいと、言うつもりだった。
「お待たせしました」
だけどその前に、ゼレールさんが戻ってきてしまった。ゼレールさんは陛下を一瞥して、怪訝そうな顔になる。
「その方は?」
「えっと・・・・」
「アンティーブ辺境伯夫人の事件を調べている、カ゜デーナだ。よろしく」
陛下はにこやかに、ゼレールさんに手を差し出した。
「これからは、私も彼女と一緒に行動させてもらう。構わないね?」
「もちろんです、どうぞ」
タイミングよく、馬車がスロープに滑り込んできた。
陛下を追い返すことができなくなり、横顔を睨むと、陛下は悪戯をした子供のような微笑を返してくる。
(この人は・・・・)
妙な方向に行動力を発揮する、困った国王様に、私は頭を抱える。
アンティーブ辺境伯夫人を殺した犯人を見つけたい、というのは、陛下の偽りのない本心なのだろう。
でも一方で陛下は、謎を自分で解明したいという、強い好奇心に突き動かされているように見える。
「それでは、行こうか」
陛下が私の手を取り、馬車までエスコートしてくれる。
私は引きつった笑顔を返しつつ、馬車に乗り込むしかなかった。
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