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66_明らかになる真実
しおりを挟む「へ、陛下に拝謁いたします・・・・」
謁見の間に連れてこられた、ルジェナの侍女マルシアは、ひどく怯えていて、膝の震えでまっすぐ立てないほどだった。
「立ちなさい」
「は、はい」
跪いた彼女を、カエキリウスが立たせる。そして、鋭く睨みつけた。
「単刀直入に聞く。――――ルジェナは、ローナに毒を盛ったのか?」
「・・・・っ!」
マルシアは顔を引きつらせ、ルジェナに目で助けを求める。ルジェナも目で、彼女を威圧した。
「答えるんだ」
「る、ルジェナ様は、毒など使いません・・・・」
カエキリウスは眉を開き、肩から力を抜いた。
「マルシア」
私はそっと、マルシアに話しかける。
「は、はい!」
「ルジェナに過去に仕えていた侍女達が、全員、不審な死を遂げていることを、あなたは知ってるの?」
また、マルシアの顔が恐怖で引きつる。
「・・・・あなたは真実を話すことで、報復されると恐れているのかもしれない。だけどここで口を閉ざしていても、秘密に触れている以上、いずれ殺されることになるのよ」
「ちょっと、何を言ってるのよ!」
ルジェナが口を挟むけれど、私は無視した。
「・・・・・・・・」
だけどマルシアは何も語ろうとせず、唇を噛みしめて、俯いてしまう。
私には、マルシアが口を閉ざし続ける理由がわからなかった。
忠誠心だろうか。――――いえ、違う。マルシアの横顔から感じ取れる感情は、恐怖だけだった。
(恐れている。・・・・何を?)
ヘレボルスの報復だろうか。
いえ、それもちがうはずだ。真実を知った以上、彼女はいつか自分も殺される運命だと、悟ったはず。
――――それでも彼女は、口を閉ざしている。
口を閉ざし続けることには、何か、理由があるはずだった。
「・・・・あなたももしかして、関わったの?」
小声で問いかけると、マルシアの顔がまた引きつった。
(・・・・そういうことなのね・・・・)
マルシアは、ルジェナの罪を知っているというだけじゃない。侍女という立場上、彼女はルジェナに逆らえず、罪に加担させられてもいるのだ。
「それ以上、マルシアに話しかけないで! あなたはマルシアを脅しているわ!」
「いいえ、脅してなどいないわ。――――陛下」
私はカエキリウスを見上げた。
「殺した理由が口封じだったのなら、殺されたルジェナの侍女達も、彼女が前皇后陛下を謀殺したことを知っていたか、あるいは謀に加担していたことになります。マルシアが口を閉ざしている理由も、謀に加担させられたからではないでしょうか?」
「何を言ってるのよ!」
ルジェナがすぐさま、自分の声で私の声を阻もうとするけれど、私も負けじと、声を大きくした。
「もしそうなら、ここでマルシアが真実を語ることはないでしょう。真実を話すことと引き換えに、彼女の免罪を約束してみてはどうでしょうか?」
「馬鹿げてるわ! 陛下、この女の主張は無視してください!」
判断は、カエキリウスにゆだねられた。
「・・・・いいだろう」
カエキリウスはあっさりと、許可をくれた。
「マルシア。君がこの場で真実を打ち明けるのなら、罪に加担していたとしても、免罪を約束する。そのことを、ここで約束しよう。だから、真実だけを話してくれ」
「陛下! 何をおっしゃるのです!?」
マルシアは束の間、信じられないものを見る目で、カエキリウスを見上げていた。
「どうなんだ、マルシア。真実を話すか?」
「か、感謝します、陛下!」
マルシアは絨毯に指をついて、額をこすりつけた。
「お、恐れながら、申し上げます! わ、私はルジェナ様に命じられ、毒を買うようにと、ヘレボルスと繋がりある商人に指示を出しました」
閣僚達は狼狽し、ざわめきが強くなった。
「・・・・真実なのだな?」
「は、はい。・・・・ダフネ前皇后陛下の事件は存じませんが、ローナ様に盛られた毒は、ルジェナ様が商人から勝ったものです」
そして一同の視線は、ルジェナに向かう。
「嘘よ! 全部嘘よ!」
疑惑の嵐が吹き荒れる、そのただ中で、ルジェナは立ち上がりながら、喚き散らす。
「陛下、これはすべて、あの女とグレゴリウスが仕組んだことです!」
「本当に仕組まれたことなのかどうかは、調査すれば判明します。陛下、どうか正式に、この件を調査してください」
「・・・・っ」
判断はまた、カエキリウスに委ねられた。
「――――わかった。ダフネと侍女達の件を、もう一度調査させよう」
まるで毒を飲みこむように、とても苦しそうに喉を動かしながら、カエキリウスは言った。
「・・・・・・・・」
ルジェナは雷に打たれたように、その場に崩れ落ちた。
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