115 / 118
114_後日談
しおりを挟む――――そうして、後半はかなり混乱したものの、一応、私達の作戦は実を結び、ドラゴンレーベンの封印に成功した。
成功したと断言できるのは、全裸で逃げまわったエセキアスが、群衆に嘲笑されて激高し、ドラゴンを召喚しようとしたという話を耳にしたからだ。
結局、ドラゴンは現れなかったものの、この話を聞いたときはひやりとした。閣僚達は、エセキアスが、さすがに嘲笑されたぐらいでドラゴンを呼ぶのは行き過ぎた行為だと、直前で思い留まったのだろうと話していたけれど、もちろんその推測が間違いであることを、私は知っている。
エセキアスが、嘲笑されているのに途中で思い留まるはずがない。ドラゴンレーベンの力が封印されたから、エセキアスはドラゴンを召喚することができなかった。――――そう考えるのが自然だ。
一方、亜人の侵入を許したことで、国防軍は各方面から叱責され、防衛体制が見直されることになった。
ブランデ内部に亜人が留まっていないか、大掛かりな捜索もされた。
幸いリュシアン達は、襲撃を終えた後は用意していたトンネルから、無事、脱出したようで、彼らが捕まることはなかった。
――――すべてが順調に進んでくれた。
(・・・・まだ、第一の関門をようやく突破できた段階なんだけど)
リーベラ家の屋敷の窓から、庭を眺めながら、私は考えを巡らせた。
慢心してはいられない。まだ、第一段階を突破したに過ぎないのだから。私達の最終的な目的は、ドラゴンレーベンを、それを授けた悪魔に返すこと、そして呪いを解くことなのだ。
――――エセキアスはこの一件で、裸の王様と揶揄されるようになった。
亜人に襲撃されたのに、国民を守るどころか全裸で逃げまわったあげく、ドラゴンレーベンを使おうとしたのだ。それ以前から王室にたいする不満が高まっていたこともあり、爆発した不満が中傷という形で表れていた。今では、町に大量の風刺画が出回っているらしい。
今までのエセキアスなら、怒り狂い、風刺画を配った人、少し中傷しただけの人ですら、片っ端から逮捕して、牢獄に放り込んでいたはずだ。
だけど、今のエセキアスは別人のように、大人しくなっていた。横暴な振る舞いはなりを潜め、城の中でもどこか俯きがちに歩いている。
エセキアスの変貌ぶりにまわりは眉を顰めつつ、喜んでもいるようだ。普段、エセキアスの癇癪に付き合わされていたから、溜飲が下がったところもあるのだろう。
今までエセキアスは、ドラゴンレーベンという、最凶の矛であり、最凶の盾でもある道具の上に胡坐をかいていた。
でも今はその守りを失い、怯えている。きっと亜人から逃げ回っていた時よりも、丸裸にされたと感じているはずだ。
(・・・・でも、油断はできないわ)
エセキアスは直情的だけれど、馬鹿じゃない。慢心していたから馬鹿な行動が多かっただけで、いったん弱者の立場に落ちれば、どんな手段を使ってでも、その状況から這い上がろうとするだろう。
きっと今頃も、腹の内側で溶岩のような怒りを滾らせながら、ドラゴンレーベンの力を取り戻す方法を考えあぐねているはずだ。
(封印がどれぐらい持つか、わからないし・・・・)
実際に検証したわけじゃないから、封印の効力がどれぐらいの間持続するのか、それは私達にもわからない。もしかしたら持続期間が、私達が想像した以上に短いということもありえる。――――だから。
(次に備えなければ)
窓から空を見上げ、私は気持ちを引きしめた。
今回の騒ぎで、思わぬことも起こっていた。
――――私の評価が、引っくり返っていたのだ。
私は今まで、世間の人達に悪女だと思われていた。脱走の件は仕方ないにしても、いつの間にか身に覚えがない悪評まで、真実のように語られていた。
エセキアスの意向で離婚は避けられないものの、国王の評価に傷をつけるわけにはいかない。おそらくそんな事情から、王室の広報に対応する部署が動いたのだろう。
でも、その評価が今回の騒ぎで引っくり返った。
きっかけは、私が身を挺してエンリケを庇い、そのおかげでエンリケが一命を取り留めたという噂が広まったことだ。
国民の大半が、私について、国王から離縁された女としてしか知らなかったから、その話を聞いて驚く人が多かったらしい。
そして人々が私に関心を持ったことで、今度はトリエル村で亜人に立ち向かったという話まで、流出した。それで評価が変わる流れができたようだ。
エンリケは、国民に慕われている。熱狂的に支持されていると言っても、過言じゃない。魔王討伐を果たした英雄だからという面が強いけれど、それ以外にも、親しみやすい人柄が人気を高めたのだろう。
とにかく、そんな国民から愛されているエンリケを守った女として、私は一躍名を馳せることになってしまった。
どうもエンリケ本人が、色々な場所で私に命を救われたと、吹聴しているらしい。エンリケの話を聞いた人達がさらに多くの人にその内容を話し、あっという間に拡散してしまった。
――――予想だにしなかった展開に、私は戸惑っている。
(目立つのはまずいんだけど・・・・)
現在進行形で魔王業を続けている身としては、首都を離れた元王妃として忘れ去られたほうが、都合がよかったはずだ。
でも正直、嬉しい気持ちもある。仕方がないことだから耐えていたけれど、最低の女だと、顔も知らない人達から罵られるのはやっぱりつらかった。
(・・・・そろそろ、リュシアン達のところに戻らないと)
私は今、リーベラ家で療養している。
肩を刺されたところまでは覚えているけれど、それ以後の記憶はない。
私を介抱してくれたリーベラ家の召使い達の話によると、病院で手当てを受けた後、病床が足りないという理由から、カーヌス近衛団の騎士が私を実家に連れ戻してくれたらしい。
そして事件が起こってから一週間後、きちんと療養できたおかげで、傷も塞がった。
療養している間、ムニンを介して、リュシアン達とは連絡を取り合っている。リュシアン達はずいぶん、私のことを心配してくれているようだ。
だから少しでも早く、みんなに元気な姿を見せて、安心させたい。
(お父様に、修道院に戻ると伝えないと)
修道院に戻る許可をもらい、荷造りをはじめ、魔王城に戻ろう。
(そして、魔王業を再開するのよ!)
――――魔王業の再開のために準備を進めていたある日、思いがけない客人が現れた。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる