魔王になったけど、夫(国王)と義弟(騎士団長)が倒せない!

炭田おと

文字の大きさ
上 下
98 / 118

97_作戦決行の日

しおりを挟む



 ――――その日、空は目が痛くなるほど澄みわたっていた。


 誰もが喜ぶ快晴なのに、私だけは、その冴えた青に、押しつぶされそうな圧迫感を感じている。


「行きましょうか、ルーナティア様」


 ぼんやりと空を仰いでいると、リーベラ家の従者に声をかけられた。


「・・・・ええ」


 お父様が用意してくれたリーベラ家の馬車に、従者の手を借りて乗り込む。私達の体重で、わずかに車体が沈んだ。


「礼拝の日が、晴れてよかったですね」


 向かいあって腰を下ろすと、従者が話しかけてきた。


「そうね、よかったわ」



 ――――カーヌスの国王は月に一度、王妃や側近を引き連れて、大聖堂で執り行われる礼拝に参加する。何百年も前から続けられてきた、国の大事な行事の一つだ。


 側近の伴侶や子供達まで同行し、警護のために軍まで動くので、行列はかなりの長さになる。さらには城から礼拝堂まで、長い行列を一目見ようと群衆が殺到するから、警備を担当する閣僚は毎回、対策に苦慮しているそうだった。



「国王陛下、万歳!」


 窓の外から、エセキアスを称える国民の声が聞こえてくる。


「何が万歳だ! 無能な国王め! さっさと退位しろ!」


 一方で、国王が乗った馬車に罵声を浴びせ、投石までする人もいた。彼は兵士達に取り押さえられ、連行されていった。



 ――――カルデロンの足場ともいえるこのブランデの中ですら、エセキアスにたいする不満が高まり、反体制の機運が強まりつつある。



(エセキアスがいつものように、爆発しませんように・・・・)


 エセキアスが激昂する姿が頭に浮かび、私は気が気じゃなかった。


 私は今日、お父様に頼み込み、リーベラ家の一員として、礼拝の行列に加えてもらっていた。



 もちろん、礼拝に参加したかったから――――ではなく、ある作戦を実行するための行動だった。



(・・・・エンリケはどこにいるんだろう?)


 窓の外を眺めていると、ついつい、エンリケのことを考えてしまう。


(できれば、会いたくない)


 出くわしてしまったら、お互い、気まずい思いをするだろう。だから会わないようにしなければと思っていた。


 一方で意思に反して、目はエンリケを探してしまう。


(・・・・まあ、よほどのことがなければ、会うことはないと思うけど)


 この礼拝には、多くの貴族が参加している。連なっている馬車の数は百以上、その行列は上から見ると、百足のように見えるはずだ。そんな大勢の人達の中では、私達はお互いに気づくこともないはず。


 それに馬車に乗っている私は、外にいるエンリケからは見えにくい。だから作戦がはじまるまで、車内でじっとしていれば、エンリケに見つかることはない――――はずだった。



「・・・・!」


 考え込んでいると、馬車が大きく揺れ、停車してしまった。


 私達は再び馬車が動き出すのを待っていたけれど、車体は揺れるものの、なかなか動き出す気配がない。一緒の馬車に乗っている従者が痺れを切らして、事情を聞くために外に飛び出していく。



「何があった?」

「車輪が、わだちに嵌ってしまったようです」


 従者と、御者の会話が聞こえた。運悪く車輪がわだちに嵌り、抜けなくなったようだ。


「ルーナティア様。申し訳ありませんが、わだちから車輪を外すので、いったん、馬車から降りてもらえますか?」

「わかったわ」


 私が馬車から降りると、さっそく御者が近くにいた人達の手を借りて、数人がかりで車体を持ち上げていた。二人乗りの小さな馬車なので、乗り手を降ろせば、意外に軽いようだ。


 車輪をわだちから外すと、いったん馬車は、道端に運ばれた。御者が車輪の留め具に緩みがないか、確認している。私は少し離れた場所で、点検が終わるのを待った。



「団長!」



「・・・・!」


 どこかから飛んできた声に驚いて、私は転がり込むように、車体の裏側に逃げ込んだ。私の突然の奇行に、御者と従者は面食らっている。


 今は、彼らの視線を気にしてる場合じゃない。私は馬車を遮蔽物にして、声が聞こえた方向を見る。



 少し離れた場所に、馬に乗ったエンリケがいた。



(なな、なんでこんな近くにいるのよ!)


 幸いエンリケは、私に気づいてはいないようだ。


 国王夫妻の護衛ということで、エンリケは正装姿で、乗っている馬まで着飾られていた。そんな彼に、同じく正装姿のパブロ卿が近づいていく。


「団長、一部の市民が抗議活動のために、道をバリケードで封鎖しています。このままじゃ、通れそうにありませんよ。どうしますか?」

「説得できそうにないか?」

「駄目ですね、まるでこちらの言うことに、耳を貸してくれません。・・・・陛下は、武力で排除しろとおっしゃってますが」

「まったく・・・・」


 エンリケは溜息を吐き出した。


「・・・・仕方がない。その区画だけ、脇道を通ろう。地図を持ってきてくれ」

「了解です」


 パブロ卿は、エンリケから離れていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...