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92_動ける太っちょという個性
しおりを挟む「――――エセキアスが外出した日に襲撃して、袋小路になっている場所に設置した魔法陣のほうへ、誘導する。そして、ドラゴンレーベンの力を封じ込めるのよ」
作戦を大まかに話し終えてから、私は一息ついて、みんなの表情を窺う。
私の作戦の内容に、喜怒哀楽を見せてくれたリュシアン達だったけれど、まだ、不安を完全には払拭できていないようだ。
「それで大丈夫か? あいつ、ドラゴンレーベンを使わない? ボスの話では、あいつは最終的に、ブランデの町を灰にする、狂王になるんだろ?」
「いずれはそうなる。でも、今はまだ自分の中の、よい国王像にこだわっているから、よっぽど追いつめられるまで、切り札を使おうとはしないはず。実際トリエル村でも、魔王軍が村を離れるまでは、ドラゴンレーベンを使わなかったでしょ?」
「そうだったな・・・・でも追い詰められて、なりふり構わなくなったら?」
「だから直前まで、逃げ場がないとは気づかせないようにして。――――エセキアスがまずいと気づく前に、魔法陣に閉じ込め、彼の〝切り札〟を奪うの。永久にね」
私が強く言い切ると、リュシアン達は目を見張る。
ブランデの町を危険に晒すことに、躊躇いがないわけじゃない。でも魔王になってから試行錯誤を続けるうちに、危険を冒さずにエセキアスからドラゴンレーベンを奪う方法はないと思い知った。
それに、手をこまねいている時間もない。ブランデでは日に日に、王室に対する不満が高まっている。――――暴動が起こって、エセキアスが自分のイメージにこだわらなくなったら、ブランデはあっさりと、灰の町になってしまうのだ。
「――――やるしかないの」
私がそう言うと、リュシアン達は表情を引きしめ、深く頷いてくれた。
「わかったよ、ボス」
「ありがとう。・・・・それじゃあ」
私は屋根を指差す。
「まずは、エセキアスが乗った馬車が大通りを通ったと仮定するわ。あなた達はこの地点から出発して、屋根の上を通り、大通りまで向かって」
「ええ!? 大通りまで行くのかよ! あそこ明るいし、人が大勢いるから、降りたら見つかるって!」
「大丈夫、その点についても、ちゃんと作戦を考えてあるわ」
私は腰に手を当て、不敵に笑って見せた。
「数十分後、マダムカタリーナっていう店の踊り子達が、入口の前でパフォーマンスをするの。毎夜開催されている、客寄せのショーよ。通行人はショーに夢中になるはず。その隙に、建物の窓と窓を繋いでいるロープを、綱渡りして、向こう側に渡ってみて。十分な強度があるロープは、もう色んな場所に設置済みだから。光沢がある、赤いロープよ。間違えないでね」
「大通りを、素通りするだけでいいのか?」
「あくまでも訓練だから、それで十分よ。市街地で、どう動きまわるのか、その感覚を身に付けてもらいたいだけ」
「でも、ショーに注目しない人間だっているだろ? 誰かに見られないかな?」
それでもリュシアンは、不安を隠せない。
「ブランデの夜の大通りには、大道芸人も大勢集まってくるのよ。酒代ほしさに、大道芸人の物真似をして、失敗する酔っ払いまでいるほどなんだから。あなた達の姿を見ても、大道芸人がパフォーマンスしているか、練習しているんだと思うだけだわ。それに、これも用意してるから」
私はバッグの中から、派手な衣装と仮面を取り出した。
サーカスの道化師が着ているような原色の衣装で、仮面は、真っ白な白粉を塗りたくったような白い下地に、派手な色のアイラインが目立っている。
「派手な衣装と仮面を被れば、あなた達の顔は見えない。万が一仮面がずれて顔を見られても、大道芸人として目立つために、化粧をしているだけだと思うはずよ」
「なるほど」
「それじゃ、はじめましょう。まずはこれに着替えて」
私は用意していた派手な衣装と仮面を、一人一人に渡していった。
渡し終えたら、着替えの邪魔にならないように、別の場所に移動するつもりだったけれど、リュシアン達は私がいようがお構いなしに、着替えをはじめてしまう。私にできたことは、彼らに背中を向けることだけだった。
「着替え終わった?」
「ああ、終わったよ!」
――――振り返ると、道化師のような衣装と仮面をつけた男達が並んでいた。かなり不気味な光景だ。
「ボス、この衣装きついよ!」
テルセロが、衣装の胴回りを引っ張っている。
「ごめんなさい、できるだけ、みんなの体格に合う衣装を見つけたつもりだけど・・・・」
テルセロ達の体格がバラバラであることを考慮して、全員の体格に合う衣装を探し出すため、ブランデの町を奔走したけれど、どれだけ探しても、見つからないサイズもあった。
「でもお前、袖と裾の寸法はぴったりじゃん!」
「きついのは、腹の部分だけだろ? 痩せれば問題解決だって」
「なんで痩せる必要があるんだ? 俺は動けるデブとして、お前らにはない個性を確立してるんだぞ!」
仲間にいじられたテルセロは、予想外の切り返しをしていた。
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