魔王になったけど、夫(国王)と義弟(騎士団長)が倒せない!

炭田おと

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81_疑惑の犯人像

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 魔物が出現した状況はわかったけれど、魔物が出てこないかぎりはエンリケ達も動けないので、いったん解散となった。



(・・・・角が生えた魔物?)


 エンリケ達から離れた私は、ヘルタから聞いた話をもう一度吟味する。


 亜人あじんと、魔物は違う。亜人あじん達は、魔物だと誤解される外見的特徴と、高すぎる身体能力を併せ持っているけれど、元は人間だ。

 だから最初は、魔物と聞いても不安は感じなかった。魔王軍とは関係ないと思っていたからだ。



 だけど、ヘルタの話を聞いて、考えをあらためた。――――目撃された魔物の特徴は、リュシアンの外見の特徴と一致する。



 注目すべき点はその一点だけだけれど、リュシアン達が暮らしている廃墟がここからそれほど遠くないということもあり、不安を拭えない。


 しかもこの修道院は、野菜窃盗の被害にも遭っていると言う。


 アイリーン達には亜人あじんと魔物の違いなんてわからないから、魔物は肉食で、野菜を食べるはずがないと思い込んでいる。


 でも私は、亜人あじん達が呪いを受けただけの、普通の人間だと知っている。全員、野菜嫌いだったけれど、栄養不足にならないように、私が野菜を食べろと注意すると、ちゃんと食べてくれた。


(で、でも、リュシアン達が盗みをするはずがないし・・・・)


 私とは常識が違うとはいえ、リュシアン達は倫理観はしっかりしているから、盗みをするとは思えない。というか、盗んでまで野菜を食べようとするとは思えなかった。



「ルーナティア様」


「は、はい!?」


 物思いに耽っていたところで名前を呼ばれて、私は跳び上がりそうになる。


「エンリケ!」

「すみません、驚かせてしまったようですね」


 いつの間にか私の後ろに立っていたのは、エンリケだった。


「ううん、いいのよ。それよりも、魔物退治に来てくれてありがとう。忙しいのに、予定に穴を開けるの、大変だったでしょう?」

「これぐらい、何でもありません。むしろルーナティア様とまたこうして再会できたことを、神様に感謝したいぐらいです」

「そう言ってもらえて、感激だわ。でも褒めてもらっても、お菓子は出ないわよ? 今の私は貧乏なの」

「俺は子供ですか・・・・」


 エンリケの落胆している様子がおかしくて、私は笑う。そんな私を見て、エンリケはすぐに機嫌を直してくれたようだ。


「お元気そうで、安心しました。修道院での暮らしは、厳しいと聞いたことがありましたから」

「私には合ってるみたいだわ。農業よりも、社交界でのそつのない立ち回りのほうが難しかったもの」

「ルーナティア様らしいですね。・・・・一つ、聞きたいことがあるんですが」


 エンリケの声が低くなったことに気づいて、私は少し緊張した。


「リーベラ家が付き人を一人もつけなかったというのは、本当ですか?」

「え、ええ、そうだけど・・・・」


 エンリケから怒りの気配を感じて、私は少し躊躇する。


「何か怒ってる? ・・・・私また、気づかないうちに何か気に障るようなことをしてしまったのかしら? もしそうなら、ごめんなさい」

「いえ、違います。ルーナティア様に怒ってるわけじゃありません」


 エンリケが笑ってくれたから、私は安心した。


 常に怒っているエセキアスとは対照的に、エンリケが怒りの感情を見せることはめったにない。怒っているのだとしても、それを相手に悟らせる人ではなかった。だからエンリケから怒りの感情を感じると、少し動揺してしまう。


「ルーナティア様ではなく、レイモンド・・・・リーベラ卿に――――」


 エンリケは何かに気づき、言葉を切った。


 それで私も、背中に突き刺さる視線に気づく。


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