69 / 118
68_仮拠点でピクニック
しおりを挟むそれから私達は、白煙の樹海から数キロほど離れた場所にある、修道院跡に身を寄せた。
その修道院は、一本の古木のように、森の奥にひっそりと佇んでいた。ずっと前に修道士達がここを放棄してしまったため、今は誰も住んでいない。
無人になって長いせいか、石造りの修道院の壁は蔦で覆われ、土台は苔生している。いずれ建物全体が緑で覆われ、森と一体化するのだろう。
「お邪魔しまーす・・・・」
近隣の村人がいる可能性も考慮して、私は気配を窺いながら、中に踏み込んでいった。
だけど幸い、修道院の中は無人だった。
「よかった、誰もいないみたい・・・・」
「へえー、こんな場所があったんだ。知らなかった」
リュシアン達は観光客のように、目を輝かせている。
「よくこんな場所を知ってたな、ボス」
「小さい頃に、この辺りを散策していて、偶然見つけたの」
この建物は幼い頃、従者と一緒にこの辺りを散策していた時に、偶然見つけた。森の一部となろうとしている修道院に神秘性を感じたから、大人になった今でも、この建物の記憶は頭の片隅に残っていたのだ。
後になって、この小さな発見が思わぬ形で役立つことになるなんて、子供だったあの頃には、夢にも思っていなかった。
修道院の内部は狭く、すぐに突き当りの部屋に行き着いた。奥の部屋にはベッドが並べられ、暖炉もある。
夜を明かすならこの部屋が一番だと思い、私は身を翻して、仲間達に向きなおった。
「しばらくは、ここを宿代わりにするしかないわ。眠る準備をしましょう」
「ええ・・・・ここで寝るの・・・・?」
埃と黴にまみれた内部の様子を見て、リュシアン達は肩を落とす。
「次の拠点を見つけるまでの辛抱よ。屋根があるだけ、まだマシでしょ?」
「それもそうだな」
魔王城を出た直後は、野ざらしの場所で夜を過ごすことを覚悟していたから、屋根がある建物を確保できただけ、マシだった。
「寒いよー、ボス!」
魔王城は寒いから、という理由でついてきたテルセロが、さっそく抗議してきた。
「わかってる。火を熾しましょう。暖炉があってよかったわ」
その部屋には暖炉があり、比較的新しい薪も残っていた。最近、私達以外にも、ここをテント代わりに使った旅人がいたようだ。
「腹が減ったよー、ボス!」
「俺達、狩りに行ってくるよ!」
「う、うん・・・・」
狩りという言葉が、自然とリュシアンの口から出てきたことに、私は少し動揺する。
(そう言えば、みんなは狩りが生業にしてたのよね・・・・)
魔王軍の兵士と言っても、彼らはエンリケ達のような、職業軍人じゃない。普段は狩人のような暮らしをしていて、訓練の時だけ、魔王城に集まってきていた。
亜人と一目でわかる外見では、商人と取引もできないし、農業の知識もなさそうだ。狩りでしか、食料を得られなかったのだろう。
とはいえ、彼らは健康そのもので、痩せ細っているわけじゃない。狩りでも、十分な食料を手に入れられていたのだろう。
「じゃ、食料調達は任せるわ。ついでに、枯れ木も集めてきてくれる?」
「狩りに行く奴と、枯れ木を集める奴で分けたほうがよさそうだ」
「残って、私と一緒に掃除をするという仕事もあるわよ」
内部は埃っぽく、このままではとても眠れそうにない。眠る前に、ある程度掃除をしなければならなかった。
「えー? 掃除ぃ・・・・?」
「埃だらけの場所で、一晩をすごしたくはないでしょう? 今日、掃除をするのは、この部屋だけでいいから」
「ジャンケンで決めようぜ! みんなー、集まれ!」
リュシアンの呼びかけで、仲間達がわらわらと彼のまわりに集まった。
「ジャンケン、ほい!」
そしてジャンケンで、それぞれの役割が割り当てられる。
それからは、すべてが順調に進んでいった。
家具が少ないおかげか、分担すると、掃除にはそれほど時間がかからなかった。掃除が終わる頃には、暖炉の火のおかげで部屋も温まり、タイミングよく、獲物と枯れ枝を両手いっぱいに抱えたリュシアン達も戻ってきた。
屋内では火事の恐れもあるので、私達は外に出て、料理に取りかかる。リュシアン達が手際よく獲物の皮を剥いで、肉を焼いてくれた。
「いっただきまーす!」
お腹を空かせた亜人達は、あっという間に料理を平らげてしまった。
そして満足して、床につく。
「お休みなさーい!」
「お休み・・・・」
シーツの代わりに、コートやシャツをベッドに敷いて寝床を整えると、亜人達は横になり、あっという間に寝息をたてはじめた。
魔王城を飛び出した直後は、これでよかったのかと、胸の中は不安で一杯だった。
でも、亜人達はまるで遠足のようなノリで、この時間を楽しんでいる。その様子を見ていると、私は遠足の引率をしている保母さんのような気持ちになり、いつの間にか不安は消えていた。
(これからのことを考えないと)
とはいえ、いつまでも遠足気分ではいられない。
呪いを解くため、何よりも私についてきてくれたリュシアン達を守るため、これからのことを考えなければならない。
――――一人、窓辺に佇んで、夜空を見上げながら、私はこれからすべきことに考えを巡らせた。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる