57 / 118
56_魔王軍の動き
しおりを挟む「いい天気だなー」
空に芽生える清涼な青を見上げ、俺はそう呟いた。
目の前には、海原のような広大な草原と、糸くずのようにくねりながら、遠くの山並みまで続いている、未舗装の道がある。
その日俺は、スクトゥム騎士団の精鋭であるエドアルドやベルナルド、リノとフィデルを連れ、ロタリンギア地方の北にある、長閑な田舎道を馬で進んでいた。
「おい、ぼんやりするなよ。任務中だぞ」
馬を並べているエドアルドに、睨まれてしまった。
――――フームスに、反体制派の過激派が集結しているという報告があった。直ちに現地に向かい、反体制派の動きを調査せよ。
早朝、謁見の間に呼び出された俺は、エセキアスから、そんな命令を下されることになった。
フームスとは、反体制思想が強いロタリンギアの中央に位置する、大きな町のことだ。数十万人が暮らしていて、過激派の活動拠点になることが多い。
増税に日照りが重なったこと、そして危惧した通り、トリエル村の一件が起爆剤となり、反体制派の動きが活発になっているらしい。だからエセキアス達は、この地域の監視を疎かにしたくないようだ。
面倒な任務を任されたと思ったものの、国王の命令を無視することはできない。それに、反乱の動きがあるのならば、火種が大火になって被害が出る前に、押さえておきたかった。
だから俺は命令を受けてすぐに、精鋭を連れて出立し、今、フームスを目指している。
「しかし、本当に平和になったもんだな」
唐突に、エドアルドが遠い目をして、そう言った。
「以前はこの辺りでも魔物が頻繁に出現したものだが、最近は魔物の目撃情報すらない。魔王を倒した影響が、こんなところにも現れているのか」
「きっとそうですよ!」
エドアルドの言葉に、リノが賛同した。
「魔物の数が減ったんでしょう。団長がこの国を平和にしたんですよ」
「まさしく英雄だな、エンリケ」
仲間が笑いかけてくれたが、俺は素直に頷くことができなかった。
「・・・・本当にそうだろうか。俺はむしろ、逆の展開になると思ってたんだが」
「どういう意味だ?」
エドアルドが眉を顰める。
「オディウムという頭目を失い、魔王軍の残党は散り散りになって、各地に出没するだろうと警戒していた。だが実際は、魔物による被害が減って、どこも静かになった」
「いいことだろう?」
「いいことだが――――不気味だ。頭目が消えたからといって、配下まで煙のように消えるわけじゃない。魔王軍の残党は、どこかに潜んでいるはずなのに、まったく動きがない」
「確かに、そうだな・・・・」
エドアルド達は考え込む。
「考えすぎじゃないですか、団長。頭目を失ったから、逆に統率が取れなくなって、動きがないんですよ」
「馬鹿か、お前は」
リノの意見を、ベルナルドが笑い飛ばした。
「統率が取れなくなったごろつき連中は、各地に散って、悪さを働く。そんなの、軍に雇われたごろつき連中のその後を見れば、わかるだろ?」
「そりゃそうだけど・・・・」
どの国でもそうだが、カーヌス神聖王国でも、職業軍人の数は多くない。隣国と小競り合いが起こった時、職業軍人だけでは兵員が足りないので、罪人に免罪をもちかけ、人数をそろえることがあった。
彼らが勝利に貢献してくれることもあるが、争いにひと段落ついて、任を解かれると、中にはまたごろつきに舞い戻り、好き勝手に暴れる者がいる。彼らを大人しくさせるためには、彼らに手綱をつける統率者が必要なのだ。
「――――魔王軍の残党に動きがないのは、統率できる存在がすでに、魔王軍を掌握しているから、とは考えられないか?」
俺の推測に、エドアルド達は目を見張った。
「まさか! そんなことありえない」
「そうですよ、団長。魔王を倒したばかりですよ? そんなに簡単に、二代目が現れるはずないじゃないですか」
「だが、トリエル村で奇襲してきた魔物達は、統率が取れた動きをしていた。誰かが彼らに目的と役割を与えてなければ、あんな動きはできないはずだ」
「それは――――そうだが――――」
「魔王軍の動きについては、今後も注視を続けよう。万が一の時のために、備えておくんだ」
「了解です」
俺がそう言うと、ベルナルド達は深く頷いた。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる