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53_破天荒な王妃様
しおりを挟む「・・・・しかし、トリエル村で襲撃を受けた時の妃殿下の行動は、色々とすごかったよな」
暗い話題を続けたくなかったのか、リノが急にそんなことを言いだした。
「なんだ、突然」
「いや、トリエル村で起こったことを思い返してたら、妃殿下のことも思い出してさ。近衛兵達が逃げ惑う中、魔物達の前に立ちはだかって、『かかってきなさい!』なんて啖呵を切るなんて」
フィデルの口元も綻ぶ。
「あんなに威勢がいいお妃様を見たのは、はじめてだ」
「襲いかかってきた魔物のほうも、なんか呆然としてたよな。なんだ、この展開、俺達どうすりゃいいの? みたいな顔になってたぞ」
「あの顔はおかしかった。魔物でも、あんなに表情豊かになるもんなんだな」
リノ達は笑い出す。
果敢に前に出ていった妃殿下と、そんな妃殿下に当惑しているような表情を浮かべていた魔物達の対比がおかしくて、俺も笑ってしまう。
「脱走の件で、変なお妃様だと思ってたけど、村人を守ろうとする姿を見て、見直しました。ねえ、団長、団長もそう思いませんか?」
「俺は前から、妃殿下が勇気がある人で、なおかつ面白い方だと知ってたぞ。あの人と一緒にいると、目が離せなくなる」
妃殿下と一緒にいると、その姿から目が離せない。あまりにも危なっかしくて、目を離すのが怖いというところもあるが。
「脱走系王妃という、新たなジャンルの先駆者だからな」
「変なジャンルを作るんじゃない!」
「・・・・というか、後にも先にも、そのジャンルに当てはまるのは、ルーナティア妃殿下だけじゃないですかね?」
リノの呟きに、フィデル達がうんうんと頷く。
確かに今後、妃殿下のような珍事を起こす王妃が出てくるとは思えない。
「オディウムとの戦いで、無茶をする人だということは知っていたが、トリエル村でも果敢に立ち向かっていくとは・・・・面白いが、少し困る」
妃殿下の、村人を守ろうとした勇気には胸を打たれたし、素直な性格は好感が持てるが、勇気がありすぎるのも考えものだ。
俺が常に彼女に張り付いて、守れるわけじゃない。俺がいない間に、彼女が危険な真似をしたらと、気が気じゃなかった。
「団長も、妃殿下のことばかり気にしてましたね」
「危なっかしい人だからな」
「・・・・もしかして、惚れちゃいましたか?」
「馬鹿を言うな。相手は王妃だぞ」
「冗談ですよ。いくら団長でも、王妃に手は出さないでしょう」
リノは笑う。
いつの間にか、フィデル達の表情も明るくなっていた。
(・・・・妃殿下のおかげだな)
心の中で妃殿下に感謝しつつ、俺は手綱を握り直す。
「城に戻るぞ」
「はい」
城に戻るため、俺達は動き出した。
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