47 / 118
46_誤算だらけの奇襲劇
しおりを挟む「みな、聞け! 奇襲だ!」
それからほどなくして、奇襲を知らせる声が耳に飛び込んできた。
「奇襲!? どこの軍だ!」
「魔物だ! 突然出てきて、もうすぐそこまで迫ってる!」
ベルを鳴らしながら、奇襲を知らせるため、一人の近衛兵が慌ただしく群衆の中を突っ切っていく。
次々と森から飛び出してきた魔王軍の兵士達は、剣や槍、斧を携え、雄叫びを上げながら、村内に駆け込んでくる。
「本当だ! 魔物が出てきたぞ!」
その光景を目にして、人々は顔色を変えた。狙い通り、近衛騎兵第三連隊と村人の双方を、我に返らせることができたようだ。
この村は、森の中の、円形脱毛症のような開けた場所にある。だから、亜人達は藪や木立の中に潜み、合図を見た瞬間に、四方からいっせいに村内に駆け込むことができた。
全方位から襲いかかられ、エセキアスと近衛騎兵第三連隊は、村の中心部に追いやられていった。
村人は、近衛兵達が守ってくれるだろう――――私はそう考えていた。
――――だけど次の瞬間、自分の作戦の甘さを思い知らされる。
「ひぃぃ・・・・!」
近衛兵達は村人を守るどころか、突進してくる魔王軍を目にするなり、情けない悲鳴を上げながら逃げ出したのだ。
「・・・・・・・・え?」
彼らの行動に、私も目が点になり、しばらくの間思考力が働かなかった。
「逃げろ、逃げろ!」
しかも彼らは、私を守ろうともしてくれなかった。
さっきまで彼らは、私が動かないように、私を取り囲んでいた。
それが亜人を見るなり、潮が引くようにさっと私から離れていったのだ。
「って、ちょっと!」
私は逃げていく近衛兵の一人に、つかみかかる。
「どうして、あなた達が逃げてるのよ! ちゃんと村の人達を守って!」
「ひ、妃殿下・・・・!」
近衛兵は泣きそうになりながら、口をもごもごさせる。
「で、ですが、わ、私達の役目は陛下をお守りすることで――――」
「国民を守ることだって、あなた達の役目でしょう!?」
「へ、陛下はこの村の者達は、カーヌスの国民ではないとおっしゃいました!」
「ああ言えばこう言う!」
実戦経験がなく、不意打ちに弱いことは知っていた。――――でもまさか、騎士でありながら役目を放棄して、逃げだすなんて。
(グスルム達は!? 民兵はどこへ行ったの!?)
騎士達の動きに気を取られているうちに、グスルム達の姿を見失っていた。非道な連中だけれど、彼らのほうが実戦経験がある。
わずかな期待を寄せて、私はグスルム達の姿を捜す。
だけど民家を遮蔽物にして、こそこそと森へ逃げていくグスルム達の後ろ姿を見つけ、期待は打ち砕かれた。
「あなた達もなの!?」
村人相手に、たいそうな演説を披露していた時の強者感は、脱兎のようなその後姿にはない。さっきの演説力は、彼らが弱者だと思っている人達の前でしか発揮できないものだったようだ。
「妃殿下、こちらへ!」
こういうときだけは口達者な近衛兵の代わりに、アルフレド卿が私を、エセキアスがいる村の中央へ誘導してくれた。
エセキアス達は、民家の中に逃げ込んでいた。
民家は狭いのに、重武装の騎士が考えなしに雪崩れ込んだせいで、動きづらかった。男達がひしめき合っているせいで十分なスペースを確保できず、これでは逆に、エセキアスを守りにくいだろう。
「陛下、ここでは戦いにくいです。外に出ましょう!」
私ですら気づいたことだ、アルフレド卿も難点に気づき、すぐさまエセキアスに進言していた。
「うるさい! 外は危険なんだ、俺は絶対にここから動かないぞ!」
「この状態では、逆に危険です。魔物が入り込んだら、陛下を守れません」
「お前達が魔物の侵入を許さなければいいだけの話だ! ここでグチグチ言ってないで、さっさと魔物を追い払ってこい!」
またしても、エセキアスは聞く耳を持たない。
「・・・・仕方ない。ベルナルド!」
「はい!」
アルフレド卿に呼ばれ、スクトゥム騎士団の騎士が駆け付ける。
「家の外に盾兵を配置しろ。誰も、この家に近づけてはならない」
「了解しました! 盾兵、並べ!」
エルミニオ卿の号令に従い、盾兵が民家のまわりに集まってきた。彼らは盾で、民家のまわりに兵を築いていく。
――――指揮官としての判断力に欠ける国王を、それでも守らなければならないのだから、アルフレド卿達には本当に同情する。今までどれほど、苦労してきたのだろうか。
「妃殿下、陛下のおそばにいてください」
「わ、わかりました」
壁の隙間から、逃げ惑う村人達の悲鳴が聞こえてきた。その声を聞いて、私はいてもたってもいられなくなる。
「アルフレド卿、私達は大丈夫です。ですから今は、村人達の避難をお願いします」
亜人達には、村人は襲わないように言ってある。
だけど亜人達が村人を避けたとしても、この混乱状態では、予想外のことが発生してしまう恐れがある。
そうなれば、村人達も安全とは言えない。
「しかし――――」
「私達は本当に大丈夫です。魔物の狙いは国軍のようですから、村人は森に逃がしたほうがいいでしょう」
「・・・・ええ、そうですね」
グスルム達が放った火が、他の家にも燃え移ってしまったせいで、村はもう、安全な場所ではなくなってしまっていた。
ならば村人達は、森の中に逃がしたほうが安全なはず。
「・・・・わかりました。すぐに戻りますから、妃殿下は陛下から離れないでください」
「ええ」
アルフレド卿は外に出ていく。
その後姿は他の近衛兵達にまぎれ、見えなくなってしまう。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる