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43_奇襲作戦開始!
しおりを挟むそんな計画のために、大臣に無理に頼み込んで、私は今回の地代徴収の旅に同行させてもらった。
私は前世では一度も、トリエル村を訪れたことがない。この村のことは、悲劇の舞台としてしか知らなかった。
実際に訪れて見ると、トリエル村は森に囲まれた、まるで絵に描いたように牧歌的で長閑な景色の村だった。
よくある小さな村だけれど、その長閑な景色とは裏腹に、村人は疲れた顔をしている。見た目ほど長閑な生活ではないことは、簡単に想像できた。
(今のところ、想定外のことは起こってないけど・・・・)
幸い、ここまでは、計画を阻むような想定外の出来事は起こっていない。
だけど――――一つだけ、気になる点があった。
(・・・・あの人達は、何者なの?)
――――近衛騎兵第三連隊の中に、騎士とは身形が違う、異質な男達が混じっているのだ。
騎兵第三連隊の騎士達は鎖帷子か、銀鎧の厳めしい装いをしている。
だけどその一団だけは、使い込んだ皮鎧をまとっていて、身なりもどこか薄汚れて見えた。帯剣しているから、戦いを生業とする人達なのは間違いないけれど、正規で雇われたようにも見えない。
「エンリケ」
すっかり回想に耽っていた私は、エンリケを呼ぶアルフレド卿の声で、自分がどこにいるのかを思い出した。
「村はずれに、魔物が出没したようだ。陛下は、スクトゥム騎士団に偵察を任せると仰せだ」
「わかった、見に行こう」
すぐさま、エンリケは動き出した。
「エドアルド、部隊を二手に分けるから、お前はここに残って、指揮してくれ。妃殿下達の警護を、疎かにするわけにはいかない」
「わかった」
「妃殿下。何かあれば、エドアルドに言いつけてください。こき使ってくださって、構いませんから」
「おい!」
「私のことはお構いなく」
エンリケの言葉に、私は完璧な笑顔を返して見せた。
「騒ぎに巻き込まれないよう、大人しくしてるから。それよりも、魔物退治ならアルフレド卿を連れていったほうがいいんじゃないかしら?」
「警備に穴を開けるわけにはいきません。それに、このために副団長という役職があるんですよ」
「・・・・・・・・」
「それじゃ、任せたぞ、エドアルド」
「任せろ」
エンリケはマントを羽織ると、スクトゥム騎士団の半数の部下を引き連れて、村から出ていった。
(・・・・うまくいった――――と考えていいのかしら?)
エンリケと、スクトゥム騎士団の騎士達を、トリエル村から引き離す。これも、作戦の一部だった。
オディウムとの戦いで、エンリケが強いことを思い知った。今回の作戦を成功させるためには、間違いなく、彼とスクトゥム騎士団の存在が障害となるだろう。
――――だから、彼らを現場から引き離しておくために、仲間に囮になってもらった。
村はずれに亜人が出現したと知れば、エセキアスはスクトゥム騎士団を動かすだろう。
不思議だけれど、エセキアスはエンリケを嫌いながらも、なぜか真っ先に、エンリケとスクトゥム騎士団を頼る。好き嫌いはともかく、エンリケの能力は認めているということなのだろう。
何はともあれ、狙い通り、エンリケを遠ざけることができた。
(・・・・だけど、アルフレド卿は動かせなかったわ)
アルフレド卿にも、エンリケと一緒に、トリエル村から離れてもらう予定だった。警備に穴を開けるほど、エンリケは甘くないということなのだろう。
「大丈夫ですよ、妃殿下。妃殿下の義弟はああ見えて、仕事はきっちりとこなすタイプです。すぐに魔物を追い払って、ここに戻ってくることでしょう」
私が不安そうにしている理由を、アルフレド卿は間違って解釈したようだ。私を安心させるために、そう言ってくれた。
「・・・・ええ、そうね。エンリケに任せておけば、間違いないわ。なにせ、オディウムを倒した英雄なんだから」
誤解されていたほうが、好都合だ。私は否定せず、笑っておいた。
アルフレド卿が現場に残っても、作戦は遂行できるはず。そう自分に言い聞かせて、私は気持ちを切り替えた。
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