魔王になったけど、夫(国王)と義弟(騎士団長)が倒せない!

炭田おと

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42_奇襲作戦会議_後編

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「標的はあくまでも、エセキアス一人だけよ。村人を避けることはもちろん、戦闘員と戦っても、殺さないように手加減して。特に村の人達だけは徹底的に避けて、エセキアスだけを狙ってちょうだい」


「避ける?」

 リュシアンは露骨に、眉を潜める。


「それには反対だぜ、ボス。世間の連中は俺達のことを、冷酷な魔王軍だって思ってるんだ。誰彼見逃したり、戦闘を避けてたら、魔王軍なんて臆病者の集まりじゃんって思われるだろ! 冷酷で容赦ないっていう俺達のイメージを壊さないでくれよ!」


「俺もリュシアンに賛成だ!」


 リュシアンが私の方針に反発すると、他の亜人あじんもリュシアンに賛同した。


「・・・・あなた達も一応、自分達のイメージとかに気を使ってたのね・・・・」


 意外だ。所かまわずおならをしたり、お酒を飲みすぎて吐いたりと、とても自分のイメージにこだわっているとは思えない亜人あじん達の口から、俺達のイメージ、なんて言葉を聞くことになるなんて。


『誰彼構わず襲う、という単純な命令にしておかないと、彼らはこの通り、知能指数が低く、難しいことを考えられないので、遂行できません』


 ここで、今まで沈黙していたムニンが嘴を開き、リュシアンの話の足りない点を補足してくれる。


「なるほど・・・・」


 なんだか妙に説得力がある話だと思ってしまった。


「それに、村人を避けてたら、なんか怪しまれるんじゃない? あんたが疑われたら、どうすんの?」


 確かに、リュシアンの言うことにも一理ある。


 エセキアスを奇襲できるのは、私が城で仕入れた情報があるからだ。現状では、カーヌス軍の内情を知ることができるというのが唯一の強みなのに、内通者がいると怪しまれて、捜査されたら、私の破滅はもちろん、魔王軍にも勝ち目はなくなる。


『・・・・私も、そういった理由から、攻撃対象を分けるのは得策ではないと思います』


 ムニンが珍しく、自分の意見を口にした。


「あなたが意見するなんて、珍しいわね」


『オディウムが必要以上に冷酷に振舞っていたことには、理由がありました。魔王軍の強さの一つに、魔王軍という名称が人々に与える恐怖があります。魔王軍は苛烈で血も涙もなく、出くわした者達は皆殺しにされてしまう。――――そんな虚構の恐怖像が出来上がっていたからこそ、魔王軍はカーヌス軍との全面衝突を避けられてきました。全面衝突すれば、自軍にも多大な被害が出てしまうと、カーヌスの閣僚達に信じさせたことが重要なのです』

「・・・・なるほど」


 確かに、今までずっと、カーヌス軍は魔王軍の悪行に憤りながらも、全面衝突を避けているふしがあった。全面衝突で生じる多大な被害を、恐れていたのだろう。


『でなければ、我々は圧倒的に数で劣るのですから、報奨金目当ての傭兵や冒険者崩れに領域を冒され、おちおち眠ることもできなくなっていたでしょう。なので、魔王軍の兵士達が馬鹿であることが露呈してしまうと、魔王軍崩壊の危機に晒されかねません』


 おそらく魔王軍で、唯一の頭脳派で、一番常識を持っているムニンが、リュシアンが伝えたくても、語彙力が足らずに伝えられずにいることを、的確に説明してくれた。


 なお、彼は常識を持っているだけで、常識鳥ではない。


『それに、複雑な命令に対処できない彼らに、対象以外を傷つけない、なんてできると思いますか?』


「・・・・全然、複雑でも何でもないと思うんだけど・・・・」


『真に頭が悪い者にとっては、一つの命令に、二つ以上のコマンドを含めてはいけないのです』


「そうだぞ、そうだぞー」


「あなた達、ムニンに馬鹿にされてるのよ! なのになんで同意してるの!?」


 ムニンが言葉を尽くして、リュシアン達を貶めているのに、馬鹿にされている本人達がそれを肯定するという、よくわからない図式が出来上がっていた。


 先が思いやられて、頭痛を覚える。



「・・・・わかったわ。そういうことなら、さっきの命令は訂正する」

「それじゃ――――」

「待って。エセキアス以外はできるだけ殺さないという命令は、続行よ。村人を避けるという命令も、取り消すつもりはない」

「だからそれじゃうまくいかないって、さっき話したじゃん」

「そんなことはないわ。冷静に考えれば、対案はある。だって村人が狙われたら、近衛兵が村人を守ろうとするはずだもの。わざわざ村人を避けなくても、あなた達が騎士や兵士と戦っている間に、村人は逃げるはずよ」

「・・・・ああ。確かに、それもそうだな」


 亜人あじん達は腕を組んで、納得してくれた。


「近衛兵と戦うことになったら、投げ飛ばしたり、突き飛ばしたりして、そこから遠ざけて。あなた達は人間よりも、圧倒的に身体能力が優れてるんだから、手加減しても勝てるはず」

「それぐらいなら・・・・まあ」


 亜人あじん達は渋々ながら、頷いてくれた。


 私は、魔王軍の兵士達の顔を、一人一人、見つめていった。


「私は、オディウムのやり方を支持しないわ。私達の目的は、ドラゴンレーベンの奪取だけど、選び取れる方法の中で、もっとも平和的なやり方を選ぶ。だからあなた達にも、平和な方法を選んでほしい」


「ボスがそう言うなら・・・・」


「わかったよ、ボス!」


 ――――返事だけは、威勢がいい。


 その返事を心から信じられればいいのに、と私は悲しく思った。


 実際今の段階では、亜人あじん達は私の指示に従うつもりなのだろう。


 ――――実行の段階になると、興奮で指示を失念してしまうだけで。



(リュシアン達を信じるしかないわ・・・・)


 そう決めて、私は不安を振り払った。

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