魔王になったけど、夫(国王)と義弟(騎士団長)が倒せない!

炭田おと

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27_英雄と魔王の誕生

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 ――――魔王討伐の報せは数日の間にカーヌス全土に広まり、ブランデでは盛大な祭りが開かれた。


 二世紀の間、人々が待ち続けていた魔王の死が、ようやく訪れたのだ。


 しかも魔王に引導を下したのは、不真面目で通っている国王の弟という点が、演劇のシナリオのように出来過ぎている。人々はこの流れに熱狂し、エンリケを褒め称えた。


 祭りの日、英雄の姿を一目見ようと押し寄せてきた人々を受け入れるため、ブランデの城門がすべて解放された。

 そして通りは、人々の姿で埋め尽くされる。彼らは喜び、浮かれ、楽団が奏でる音色に合わせて、踊っていた。城門から城へ続く石畳の道は、人々の軽快な歌声で満たされる。



 国民が一体となって、喜んでいる。



 でも、私はその喜びの輪の中に加われない。馬車から民衆に向かって手を振るエンリケの姿を、遠くから眺めるだけだった。



 ――――私は、私がすべきことをしなければ。



 浮かれ騒ぐ人々に背を向けて、私はブランデの城門をくぐり抜けた。


 馬で一身に道を駆け抜け、私は白煙の樹海を目指す。



 白樺の木々は柱のように並び立ち、森全体が一つの巨大な神殿に思えるような幻想的な空気に包まれていた。



 ――――そして私は、魔王城の凍えた壁の中に、身を投じる。



 私が城に入った時、亜人あじん達はすでに謁見の間に集い、私の到着を待ち構えていた。



 ――――そして、〝新しい魔王〟の戴冠式がはじまった。



 すでに説明した通り、私の戴冠式は散々なものだった。


 緊張から動きがぎこちなくなったせいで、階段の途中で転んでしまい、足から外れた靴が、トカゲの兵士の頭に被さってしまった。一連の出来事を見ていた亜人あじん達は、もはや戴冠式どころではなく、笑いを堪えるのに必死だ。


 その瞬間にもう、〝戴冠式〟に相応しい厳かな空気は失われる。


 あげく、〝笑ってはいけない戴冠式〟などという不名誉な名前までつけられてしまった。


(・・・・経緯はどうでもいいの。私が魔王になったという、その事実だけが重要なんだから)


 石造りの椅子の冷たさを感じながら、私は自分にそう言い聞かせた。



 どれだけ無様でも、構わない。この椅子に座り、魔王の照合を手に入れることが重要なのだから。


 そして居並ぶ大勢の亜人あじんは、私を魔王だと認め、従ってくれるようだ。居並ぶ亜人あじん達はみんな強面で、筋骨隆々の体格をしている。その異相が並んでいる様子を見せるだけで、臆病な人の心臓を止められそうだと思った。


 彼らの前に立ち、その異相を見下ろしていると、自分が魔王になったのだと実感する。


(・・・・待っていなさい、エセキアス)


 私は胸の内で静かに、水泡のように頼りなかった決意を高めていく。今それは確かに、岩のような重さを持っていた。


(あなたに二度と、町を焼かせない。――――かつて私が味わわされた痛みも、人々が負わされた苦しみも、全部あなたに返す)


 ぎゅっと、胸の前でこぶしを固める。


(私が、カーヌスを守るのよ)


 不思議なことに、その時私は、前世では一度も感じたことがない、王妃としての自覚を感じていた。


 ずっと自分を、仮初の王妃だと思ってきた。そのせいか、王妃としての自覚は乏しく、国を守らなければならないという気概も乏しかった。



 でも、今は違う。私が狂王きょうおうを倒し、国を守る。――――そんな決意が、私の中に芽生えていた。



(――――必ず、成し遂げる)



 私は天窓から滴る、雨粒のような光の粒を見つめ、決意を固めた。

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