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22_苦しすぎる言い訳_後編
しおりを挟む「しかし、妃殿下も果敢でしたね。火薬で、爆発を起こすなんて」
この話題を追求することを避けたのか、エンリケが話を変えてくれた。
「そもそも火薬なんて、どこから持ってきたんですか?」
「・・・・魔王城の武器庫から、見張りの隙を突いて持ち出したの」
出所を聞かれ、私は仕方なく経緯を白状した。
「魔王城から火薬を・・・・とんでもないことをしますね」
勇猛果敢で知られる騎士達も、私の行動に呆れている。
「俺達は戦いなれていますから、魔王の前でもなんとか怯まずにいられましたが、魔物と戦った経験がない妃殿下が、あそこまで勇猛だったことには驚かされました」
「ひ、必死だっただけよ・・・・」
深く追及されたら困るので、私は笑って誤魔化す。
「・・・・それよりも、お願いがあるの」
「何でしょう?」
「私が火薬を使ったことは、他の人達には黙っていてくれないかしら?」
エンリケ達はそろって、不思議そうな顔をする。
「なぜです?」
「私は、脱走の件で注目されている。これ以上、注目される要素を増やしたくないの」
前世の非業の最期を回避するため、私は決死の覚悟で城を抜け出した。
真実を知るために必要なことだったとはいえ、この一件で私はエセキアスや、王室に関わる全ての人達から警戒されたはず。
この上、魔王を火薬で仕留めた女という目で見られたら、エセキアスの警戒心はもっと強まるだろう。
「あなたも、魔王を倒した英雄の一人です。賞賛に値することをしました」
「魔王を倒したのは、あなたとスクトゥム騎士団よ。私の力なんて、小さなものだった」
「小さい? まさか」
エンリケは笑みを深くする。
「妃殿下が火薬でオディウムの身体を可視化してくれたおかげで、俺がとどめを刺すことができたんです。勇猛果敢な王妃様がいなかったら、俺達は負けていたでしょう」
「私がいなくてもあなた達なら、きっと勝ってたわ。私は少しだけ、勝つ時間を早めただけよ」
私が笑い返すと、エンリケは困ったような顔になってしまう。
「・・・・目立ちたくないというのが妃殿下の希望なら、俺達はそれに従います」
「ありがとう、エンリケ!」
私は胸を撫で下ろした。
「・・・・お前が勝手にスクトゥム騎士団を動かしたことを知って、陛下はさぞかしお怒りだろうな」
門が近づくと、アルフレド卿がぼそりと呟いた。
スクトゥム騎士団は、団長のエンリケの裁量である程度動かせるとはいえ、遠出をするときは、さすがに国王の許可を得る必要がある。
エンリケとアルフレド卿が渋面になっているということは、エセキアスに許可をもらう時間がなくて、二人は許可をもらわないまま、白煙の樹海に来てしまったということなのだろう。
「ああ、怒ってるだろうな。だがそのおかげで、こうして妃殿下を無事に連れ戻すことができたし、手土産も用意できたんだ。この手土産を渡して、許しを請うしかない」
エンリケは振り返り、馬車の荷台に乗せられた、〝それ〟を見やる。
――――魔王オディウムの巨大な首が、荷台の上にだらしなく横たわっていた。首だけでもそれはあまりに巨大で、荷台では収まりきれずに、舌先が縁からはみ出していた。
無理やり乗せられている形だから、車輪が轍の隆起に引っかかると、簡単に落ちそうになってしまう。そのたびに同乗しているベルナルドという騎士が、死体を支え、落下を防いでいた。
オディウムを倒したという証明のために、何かを持ち帰らなければならなかった。
とはいえ、オディウムの身体は巨大すぎて、とても運べない。首だけならば持ち帰ることができるかもしれないという話になり、首を切り落として、通りかかった農夫から馬車を買い取り、荷台に乗せたのだ。
「これを見たら、ブランデは大騒ぎになるだろうな」
「何百年もカーヌスを苦しめてきた魔王を、ようやく倒せたんだ。みんな、喜ぶだろうな」
エンリケはそう言ったものの、何百年もの間、誰も成し遂げられなかった偉業を達成したのに、反応は薄味だった。己の手柄を誇ったり、興奮している様子もない。
「・・・・団長、あっさりしすぎてません?」
フィデルと呼ばれた騎士も、違和感を覚えているようだ。
「そうか?」
「そうですよ! 魔王ですよ! カーヌスの町を何度も焼き、大勢の人達を殺してきた魔王を、団長がその手で倒したんです! もっと喜びましょうよ!」
「それなりに喜んでるぞ。感動してる」
「うっすいんですよ、反応が!」
「もっと何かないんですか? 叫びたくなる衝動とか!」
「身体の内側から湧き上がる感動があるはずでしょう!?」
エンリケがあまりに淡白な反応しか見せなかったせいか、まわりが必死になって、彼から感動を引きだそうとしていた。
「感動か・・・・」
部下達の勢いに押され、エンリケは考え込む。
「そうだな・・・・伝説の中で、ドラゴンというよりもでかいトカゲみたいだと書かれていたオディウムが、本当にでかいトカゲだった時は、少し感動したが」
「感動するとこ、そこですか!?」
「さあ、門はもう目の前だぞ。疲れているだろうが、顔を引きしめろ。ブランデの人達に、情けない顔を見せるわけにはいかないだろ」
喜ぶ演技すら面倒になったのか、エンリケは話題を変える。
確かに、もうブランデの城壁は目の前に迫っていた。狭間胸壁の凹凸に、見張りの兵士の影がちらついている。
「・・・・エンリケ。もうすぐブランデに到着するが――――言い訳はちゃんと考えているか?」
アルフレド卿がエンリケの隣に並び、小声でそう訊ねていた。
「言い訳?」
エンリケが不思議そうに問い返すと、アルフレド卿の目尻が吊り上がる。
「お前は知らなかったとはいえ、妃殿下の脱走に手を貸したんだ。・・・・懲罰は免れないぞ。お前は国王の弟だ、最悪、裏に何か別の意図があるのでは、と疑われる恐れもある」
「・・・・・・・・」
その言葉に、私は震え上がる。
エセキアスの弟だと知らなかったとはいえ、エンリケに助けを求め、迷惑をかける結果になってしまった。調査が進み、エンリケの関与が明らかになれば、きっと彼も裁かれてしまう。
――――私のせいで、彼も被害を受けてしまうことになるのだ。
(・・・・もっと深く考えて、行動すべきだった)
後悔しても、もう遅い。
「・・・・どうするつもりだ? 最悪、騎士団長の任を解かれる恐れもあるぞ」
「大丈夫、心配するな、エドアルド」
思い悩んでいるアルフレド卿とは対照的に、エンリケはこの問題を楽観的に考えているらしく、アルフレド卿の懸念を笑い飛ばした。
「言い訳を思いついたのか?」
「対処法はある」
「どんな内容だ?」
「――――誤魔化す」
「は?」
アルフレド卿の目が、点になる。私も、開いた口が塞がらなかった。
「魔王の首を見せびらかして、妃殿下の脱走の件を全力で誤魔化す。それしかない」
「おい!」
「大丈夫だって。俺達は魔王を倒したんだぞ。誰かが妃殿下の脱走を深く追求しようとしたら、そのたびに魔王討伐の話で遮るんだ。それで乗り越えられる」
「そんな方法で乗り越えられるか!」
「駄目か? じゃあ――――脱走に関わる質問をされたら、即、気絶しろ。そうすれば、質問どころじゃなくなる」
「なんで誤魔化し方が、さっきよりも雑になってるんだ!? だいたい、そんなにほいほい気絶できるか! お前だってできないだろ!」
「俺は土下寝の経験があるから、気絶した真似も得意だぞ」
「誇らしげに言うんじゃない! むしろ恥じろ!」
「・・・・・・・・」
ツッコミを入れる気力も残っていない私は、そっと二人から離れた。
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